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嘘の向こう側  作者: 亀


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第七十七章 M―2

M―2。


その二文字だけが、画面の中に残っていた。


透はすぐには検索欄を開かなかった。


「これまで出てきたものとは違いますね」


女性が言った。


「はい」


「知ってる?」


「知らないです」


透は画面を閉じずに答えた。


「でも、知らないからこそ、先に調べない方がいいかもしれません」


「どうして?」


「検索結果を先に見たら、M―2という文字に意味を付けてしまうかもしれない」


女性は透を見た。


「じゃあ、何を見る?」


透は記録の周囲を確認した。


M―2の前にある項目。


参照元。


P―4―003。


処理目的。


原記録確認後処理。


そして、参照先。


M―2。


その先に、もう一つ項目がある。


「確認区分」


空欄だった。


「ここ」


透が指を差した。


「K―14が入っていない」


女性も気づいた。


「今までの本人確認記録には、K―14があった」


「でも、ここにはない」


「じゃあ、本人確認とは関係ない?」


「それも、まだ分かりません」


透はそう言ってから、記録の下を見た。


小さな注記があった。


『参照権限は処理ごとに別途設定する。』


「権限も違う」


女性が言った。


「つまり、M―2を見るためにK―14が必要とは限らない」


「はい」


「逆に、K―14を持っていてもM―2を見られるとは限らない」


「そうだと思います」


透は少し考えた。


「今まで、K―14を中心に追いすぎていたのかもしれません」


女性は否定しなかった。


K―14。


それは確かに多くの記録に出てきた。


本人確認。


外部照会。


旧権限体系。


しかし、それがすべての入口だったわけではない。


一つの権限が、すべての処理を説明するわけではない。


「M―2を検索してみよう」


女性が言った。


透は検索欄に入力した。


検索結果が表示される。


最初の記録。


M―2―011。


処理区分――原記録参照。


次。


M―2―017。


処理区分――旧資料確認。


次。


M―2―021。


処理区分――照会履歴確認。


そして、その次。


M―2―024。


処理区分――移管前確認。


透の指が止まった。


「移管前確認」


女性が画面を覗き込む。


「C―12に移る前?」


「たぶん」


「N―07?」


「関連業務コードにあります」


N―07。


M―2。


C―12。


三つのコードが同じ記録の中に並んでいた。


しかし、それぞれの役割は違っていた。


N―07――関連業務。


M―2――原記録参照。


C―12――移管先。


透は紙に三つを書いた。


N―07。


M―2。


C―12。


そして、その間に矢印を書きかけて、手を止めた。


「まだ矢印は書かない方がいいですね」


女性が言った。


「はい」


透は紙をそのままにした。


「今のところ、同じ記録の中に出てきた。それだけです」


「繋がっているとは限らない」


「そうです」


女性は少し考えた。


「でも、何かを確認するためにM―2を使ったことは分かる」


「そこまでは記録に書いてあります」


「何を確認したかは?」


透は画面を見た。


処理区分――移管前確認。


確認対象――旧記録。


確認結果――一致。


「一致……」


女性が呟いた。


透はすぐに前の記録を思い出した。


一致。


指定された項目が登録情報と一致しただけ。


それ以上ではない。


「ここでも同じかもしれません」


「何が?」


「何と何が一致したのかが書かれていない」


女性が黙った。


「だったら、また『一致』だけを見てはいけない」


「うん」


透は記録を開いた。


確認項目の詳細は別画面になっている。


しかし、そこには、


『詳細項目は原記録管理者のみ閲覧可能』


と表示されていた。


「見られない」


女性が言った。


「少なくとも今の権限では」


「原記録管理者」


透はその言葉を繰り返した。


「また、管理者ですね」


「管理主体とは違うかもしれない」


「そうでした」


透は少し笑った。


以前なら、ここで「管理者」を一つの人間として考えていた。


今は違う。


管理する仕事。


保管する仕事。


参照を許可する仕事。


確認する仕事。


それぞれが別れている可能性がある。


「じゃあ、M―2は人を探すための番号じゃない」


女性が言った。


透は考えた。


「今のところは、そう見えます」


「原記録を確認するための系統」


「その可能性が高い」


「じゃあ、兄は……」


彼女はそこで言葉を止めた。


透も何も言わなかった。


兄がM―2を使った。


そういう記録はまだない。


ただ、兄が残した紙には、


『受け取らなかったものを見ろ。』


と書いてある。


引継ぎ対象外。


原記録。


別申請。


M―2。


いくつもの言葉が並び始めていた。


しかし、それらを一本の線にしてはいけない。


透は紙の端に小さく書いた。


「確認できたこと」


その下に、


「M―2は原記録参照に使われる記録がある」


「N―07と同じ案件に出る例がある」


「C―12への移管前確認にも使われている」


そして最後に、


「兄との関係は不明」


と書いた。


女性がそれを見た。


「最後の一行、必要?」


「必要です」


「どうして?」


透は少し考えてから答えた。


「これがないと、上の三つが兄のことみたいに見えてしまうから」


女性はしばらく黙っていた。


やがて、小さく頷いた。


「そうだね」


画面の右下に、もう一つ未確認の項目が残っていた。


「原記録参照履歴」


透が開こうとすると、警告が表示された。


『参照履歴には、原記録そのものを含まない。』


その下に、


『参照者、参照理由、参照対象区分のみ記録する。』


とある。


透は画面を見つめた。


「参照した人間は残る」


「でも、見た内容は残らない?」


「少なくとも、この記録には」


女性が言った。


「じゃあ、参照者を追えばいい」


透は首を横に振った。


「それも、まだ早いです」


「どうして?」


「参照した人が、知っている人とは限らないからです」


女性が黙る。


透は続けた。


「業務として参照しただけかもしれない。引継ぎの確認かもしれない。別の人から頼まれたのかもしれない」


「つまり」


「参照者と、判断した人も同じとは限らない」


女性は画面を見た。


そこには参照者欄があった。


名前ではない。


また、コードだった。


M―2の参照者コード。


そして、その横に日付。


兄の「所在確認:不要」が登録される三日前。


女性の表情が変わった。


透も気づいた。


「同じ日です」


「……うん」


ただし、そこに兄の名前はない。


所在もない。


本人申告の内容もない。


あるのは、


参照者コード。


参照理由。


旧記録。


そして日付だけだった。


透は画面を見たまま、静かに言った。


「次は、この参照者コードを見ましょう」


女性が頷く。


けれど二人とも、まだ気づいていなかった。


そのコードが示しているのが、


記録を見た人間なのか。


それとも、


記録を見ることを許可された側なのか。


その違いを確かめるには、もう一つ別の記録が必要だった。

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