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嘘の向こう側  作者: 亀


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第七十六章 同じ番号

P―4―003。


画面の中央に、その番号が残っていた。


透はしばらく動かなかった。


女性も同じだった。


さっきまでなら、番号が一致した瞬間に、次の推測を始めていただろう。


兄の記録なのか。


兄が見た記録なのか。


誰かが兄について照会した記録なのか。


あるいは、まったく関係のない別件なのか。


今は、それをすぐに決めなかった。


「まず、同じ番号なのか確認しましょう」


透が言った。


「同じ番号?」


「表示されている三桁が同じだけなのか。それとも、参照先まで同じなのか」


女性が頷いた。


「見るところが違う」


「はい」


二人は記録を一つずつ開いた。


最初の画面。


P―4―003。


旧個人別照会履歴。


照会理由――本人申告。


本人確認――済。


確認コード――K―14。


現在対応番号――空欄。


次の画面。


関連参照番号――003。


ただし、先頭の管理区分はP―系統。


処理目的――引継ぎ確認。


関連業務――N―07。


移管先――C―12。


透は画面を並べて見た。


「違いますね」


「うん」


「P―4―003と、P―系統の003」


「番号の一部が同じだけ」


「そう」


女性が画面を閉じた。


「じゃあ、さっきの記録は何だったんでしょう」


「まだ分からない」


「またですね」


「またです」


今度は二人とも笑わなかった。


その代わり、透はメモを取った。


「同じ数字」


その下に、


「同じ番号ではない」


と書く。


さらに、


「同じ番号でも、同じ対象とは限らない」


と続けた。


女性がそれを見た。


「兄が言っていたことに似てる」


「どれですか」


「番号が同じだから、同じものだと思うな」


透は頷いた。


「でも、兄がこの記録を見ていた証拠にはならない」


「分かってる」


彼女はそう言った。


声は落ち着いていた。


ただ、視線だけは画面から離れなかった。


「003という数字が、こんなに何度も出てくるとは思わなかった」


「数字自体には意味がない可能性もあります」


「連番?」


「それもあります」


透は別の記録を検索した。


003。


すると、いくつかの結果が表示された。


P―4―003。


P―系統―003。


別の業務記録にも003がある。


さらに、古い紙資料にも003という数字があった。


しかし、管理区分はすべて違っていた。


透は画面を眺めた。


「これなら、003そのものを追っても駄目ですね」


「そうだね」


「003が何を意味するのかではなくて、003がどの管理体系の中にあるのかを見る必要がある」


女性が頷いた。


「番号の意味より、番号の所属」


「はい」


その言葉を書き留めた。


番号。


所属。


管理区分。


処理目的。


それぞれを分けて見る。


しばらくして、女性が古い資料を一枚取り出した。


「これも見て」


そこには、以前見つけた「確認者管理区分一覧」の一部があった。


古い紙の端に、手書きで追記されている。


『番号体系変更時、旧番号は参照用として残す』


透はその一文を読んだ。


「旧番号が残る」


「うん」


「でも、現在の番号とは別」


「そう」


「じゃあ、P―4―003が現在空欄なのも、記録が消えたとは限らない」


女性が顔を上げた。


「どういうこと?」


「現在の管理体系に、そのまま移されていないだけかもしれない」


「でも、移管先はC―12じゃない?」


「業務記録は」


透は答えた。


「個人記録は別です」


女性は黙った。


その違いが、少しずつ形になってきていた。


業務は移管される。


記録も移管される。


しかし、すべての情報が同じ場所へ移るわけではない。


あるものは新しい管理系統へ移る。


あるものは旧記録として残る。


あるものは別申請を必要とする。


そして、あるものは最初から業務の引継ぎ対象ではない。


「兄が探していたのは」


女性が言った。


「人じゃなくて、こういう分かれ方だったのかもしれない」


透はすぐには答えなかった。


それも一つの可能性だった。


けれど、証明されてはいない。


「そうかもしれません」


それだけ言った。


女性は少し不満そうな顔をした。


「前なら、もう少し踏み込んでいたでしょう」


「たぶん」


「今は?」


「今は、踏み込めるところと、踏み込めないところを分けたいです」


「どうして?」


透は画面を指した。


「この記録だけで兄のことを決めてしまったら、兄が残した記録を、僕たちが別の意味に作り替えることになるから」


女性は何も言わなかった。


その言葉が、彼女にも分かったのだろう。


彼女は兄を探している。


だからこそ、記録の空白に意味を入れたくなる。


けれど、空白は空白のまま残っている。


「じゃあ、次は何を見る?」


彼女が聞いた。


透は少し考えた。


「P―4―003の前後です」


「前後?」


「同じ管理区分の002と004」


画面を開く。


P―4―002。


現在対応番号――C―12―042。


P―4―004。


現在対応番号――C―12―044。


二つとも移管されている。


003だけが空欄だった。


透は画面を見つめた。


「やっぱり、ここだけ違う」


「そう」


「でも、空欄だから特別とは限らない」


「うん」


「だから、002と004に何があって、003には何がなかったのかを見る」


女性が言った。


「つまり、あるものじゃなくて、ないものを見る」


透は頷いた。


「たぶん」


二人は002の記録を開いた。


業務記録。


本人確認。


照会履歴。


移管記録。


順番に確認していく。


004も同じだった。


二つとも、ある時点でC―12へ移っている。


ただし、003だけには存在しない項目があった。


「移管完了日」


女性が言った。


「003にはない」


「はい」


「じゃあ、移管されなかった?」


「まだ分かりません」


透は画面を拡大した。


003の記録には、別の項目があった。


「保留理由」


その右側には、


「原記録確認後処理」


とだけ書かれていた。


女性が息を止めた。


「原記録……」


透は頷いた。


「ここで、初めて出ました」


「何が?」


「P―4―003が、業務記録だけで完結していない可能性です」


画面の下に、小さな参照番号があった。


今度は003ではない。


別の番号だった。


透はそれを見た。


そして、初めて少しだけ眉を寄せた。


「これ……」


女性が横から覗き込む。


「何?」


透は答えなかった。


そこに表示されていたのは、


K―14。


ではなかった。


N―07。


でもなかった。


C―12。


でもない。


見たことのない管理区分だった。


「M―2」


女性が読み上げた。


二人は顔を見合わせた。


その番号の意味を知っている者は、まだいなかった。

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