第七十四章 誰が、何を、どこへ
「保管先――第七管理系統。」
透は、
その文字をもう一度確認した。
第七管理系統。
以前なら、
その名前を見ただけで、
第七管理室を思い浮かべていた。
しかし、
今は違う。
管理系統。
それは、
場所ではない可能性が高い。
「第七管理室とは、
別?」
女が聞いた。
「はい」
「でも、
名前が似てる」
「だからこそ、
分けた方がいいと思います」
透は、
紙に二つの言葉を書いた。
第七管理室
第七管理系統
その間に、
線を引かなかった。
「同じものだと決めない」
「うん」
「まず、
第七管理系統が何なのか調べます」
二人は、
古い管理体系一覧を開いた。
第七管理系統。
そこには、
一つの説明があった。
「旧照会・所在関連業務を含む複数業務の管理系統。」
女が、
眉を寄せた。
「複数業務?」
「はい」
「じゃあ、
所在確認だけじゃない」
「そうです」
さらに、
下を見る。
主な業務――
所在確認。
連絡確認。
旧記録照会。
業務継続確認。
引継ぎ確認。
「N―07と、
かなり重なる」
女が言った。
「はい」
「でも、
N―07は番号」
「第七管理系統は、
管理のまとまり」
「つまり、
同じものじゃない」
「そう考える方が自然です」
透は、
また一つ、
分類を書いた。
第七管理系統=管理範囲
N―07=業務コード
二つは、
同じ「七」という数字を持っている。
しかし、
それだけでは、
関係は証明できない。
資料を読み進める。
すると、
第七管理系統の下に、
さらに小さな分類があった。
第七管理系統内業務一覧。
そこに、
N―07がある。
N―07――所在・照会関連処理。
女が、
画面を指した。
「ここでつながった」
透は、
頷いた。
「少なくとも、
同じ管理系統の中で使われていたことは確認できます」
「じゃあ、
昔の第七管理室でN―07を扱っていたのも……」
「可能性はあります」
「でも、
管理系統と管理室は別」
「はい」
「だから、
第七管理室を通らなくても、
第七管理系統の仕事だった可能性がある」
「その通りです」
女は、
少し黙った。
「じゃあ、
私たちはずっと、
『第七管理室』を探していたけど、
本当は『第七管理系統』を追っていた可能性がある?」
透は、
首を横に振った。
「それも、
まだ分かりません」
「どうして?」
「兄が実際に第七管理室へ行った記録があります」
「そうだった」
「だから、
場所も関係していた可能性はあります」
「ただ、
場所だけでは説明できない」
「はい」
二人は、
また一つ、
分けて考えた。
場所としての第七管理室。
仕事としての第七管理系統。
業務コードとしてのN―07。
それぞれが、
重なっている。
しかし、
同じものではない。
透は、
原資料の保管先をもう一度確認した。
第七管理系統。
その下に、
さらに項目がある。
保管方式――分離保存。
「まただ」
女が言った。
「はい」
「でも、
今回は『別管理』じゃない」
「分離保存です」
「どう違う?」
透は、
説明を読んだ。
「業務記録と個人識別情報を分離し、必要な権限に応じて参照する。」
女は、
少し考えた。
「業務記録は残ってる。
でも、
そこから人を直接見られない」
「そういう仕組みです」
「だから、
R―3―118が残っていても、
誰の記録かすぐには分からない」
「はい」
「でも、
照合できる権限を持っていれば、
別の記録から確認できる」
「可能性があります」
女は、
ため息をついた。
「本当に、
何重にも分かれてる」
透は、
その言葉を否定しなかった。
そして、
原資料への参照権限を確認した。
そこには、
古い権限コードがいくつか並んでいる。
K―14。
その文字を見た瞬間、
二人は黙った。
「また出てきた」
女が言った。
「はい」
「K―14があれば、
原資料を見られる?」
「そう単純ではないです」
透は、
権限一覧を確認した。
K―14は、
本人確認・外部照会に関する旧権限。
原資料閲覧権限とは、
別だった。
ただし、
K―14による確認結果を受けて、
原資料を照会できる処理が存在する。
「つまり、
K―14は、
入口の一つ」
女が言った。
「はい」
「原資料そのものを見る権限ではない」
「そうです」
「じゃあ、
K―14の人間が、
全部の情報を見ていたわけじゃない」
「その可能性は低いです」
「また、
役割が分かれている」
透は、
静かに頷いた。
その時、
原資料の参照履歴を見つけた。
一件だけ、
記録が残っている。
参照日時――兄の所在確認記録作成の三日前。
女が、
画面を見つめた。
「三日前……」
透も、
数字を確認した。
兄が会社を辞める三日前。
そして、
以前見つけた、
所在確認:不要
その記録の三日前。
日付が重なっていた。
「誰が見たの?」
女が聞く。
透は、
参照者欄を見る。
そこには、
名前ではなく、
コードがあった。
K―14。
女は、
何も言わなかった。
透も、
すぐには言葉が出なかった。
三日前。
原資料が参照された。
K―14。
その後、
所在確認記録が作られた。
本人申告。
所在確認不要。
この順番だけを見ると、
一つの流れに見える。
しかし、
透は、
紙に日付を書き並べた。
三日前――原資料参照。
当日――所在確認処理。
そして、
その横に、
もう一つ。
P―4―003――本人確認済。
P―4―003の処理日も、
近い時期だった。
だが、
正確な関連は、
まだ分からない。
「これ、
兄が調べられていた?」
女が、
静かに聞いた。
透は、
すぐに答えなかった。
「原資料が参照されたことは、
記録にあります」
「でも、
誰のために?」
「分かりません」
「兄について?」
「それも、
まだ分かりません」
女は、
画面を見つめた。
「じゃあ、
このK―14の参照は、
何を見たの?」
透は、
参照項目を確認した。
そこには、
一つの文字しかなかった。
「旧記録」。
それだけだった。
「旧記録……」
「どの個人情報を見たのかは、
書かれていません」
「でも、
第七管理系統の旧記録」
「はい」
「N―07?」
「関連業務コードは、
N―07です」
女は、
椅子から少し身を引いた。
「そこまで重なると、
偶然とは思えない」
透は、
静かに答えた。
「重なっていることと、
同じ目的だったことは、
分けた方がいいです」
「……そうだった」
「K―14が、
旧記録を参照した」
「はい」
「N―07に関連していた」
「はい」
「三日前だった」
「はい」
「でも、
誰を確認したのかは分からない」
「はい」
女は、
しばらく黙っていた。
そして、
小さく言った。
「この記録、
兄が自分で残したものじゃないよね」
透は、
画面を見た。
「参照履歴なので、
兄自身が残したものとは考えにくいです」
「じゃあ、
誰かが見た」
「はい」
「それだけは分かる」
「記録上は、
そうです」
その言葉を聞いて、
女は、
少しだけ表情を変えた。
兄が何かを調べていた。
その一方で、
誰かもまた、
旧記録を調べていた可能性がある。
ただし、
それが兄を調べていたのか。
別の業務を調べていたのか。
それは分からない。
透は、
参照履歴をさらに下へスクロールした。
一行。
二行。
三行。
そして、
一番下に、
奇妙な記録があった。
参照終了理由――引継ぎ確認。
透の手が止まった。
女が、
その文字を読む。
「引継ぎ確認……」
「はい」
「じゃあ、
誰かを探していたんじゃなくて、
仕事を引き継ぐために見た?」
「可能性があります」
「そうなると、
兄のこととは限らない」
「はい」
「でも、
兄の所在確認の三日前」
「はい」
二人は、
また沈黙した。
偶然か。
関連業務か。
それとも、
同じ出来事の別記録か。
まだ、
判断できない。
透は、
参照履歴を保存した。
そして、
一番最後に、
小さく書いた。
「人の確認とは限らない。」
その下に、
さらに。
「仕事の引継ぎかもしれない。」
女は、
その文字を見た。
「でも、
もし仕事の引継ぎだったら、
誰から誰へ?」
透は、
参照履歴の次の項目を開いた。
そこには、
移管先コードがあった。
C―12。
透は、
一瞬、
息を止めた。
R―3。
C―12。
N―07。
S―系統。
T―2。
そして、
K―14。
今まで別々に見えていた記録が、
初めて、
一つの引継ぎ記録の中で並んだ。
ただし、
そこに人の名前はなかった。
あるのは、
業務コードと管理コードだけ。
透は、
その画面を見ながら、
静かに言った。
「兄が見ていたのは、
もしかすると、
人の行方だけじゃなかったのかもしれません」
女は、
答えなかった。
透も、
それ以上は言わなかった。
ただ、
新しい紙の中央に、
一つの言葉を書いた。
引継ぎ。
その下に、
三つ。
誰が。
何を。
どこへ。
そして、
最後に、
一番小さく。
「それは、人なのか。仕事なのか。」
その問いだけが、
夜の机の上に残った。




