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嘘の向こう側  作者: 亀


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第七十三章 交代後

「交代後の本人申告処理」。


その言葉から、


二人は調べ始めた。


資料の分類は、


それほど難しくなかった。


しかし、


中身は少なかった。


業務継続確認。


担当者交代。


旧記録の引継ぎ。


本人申告。


それぞれの記録は存在している。


ただし、


一つの記録には、


一つの目的しか書かれていない。


透は、


それらを机の上に並べた。


「この仕組みだと、


交代前と交代後を、


同じ人として追う必要がない」


女が言った。


「はい」


「仕事が続いていることだけ確認すればいい」


「そういう設計に見えます」


「だから、


担当者が誰だったかは、


重要じゃない」


「少なくとも、


業務継続の確認には」


透は、


頷いた。


そして、


「交代後の本人申告処理」の資料を開いた。


そこには、


三つの確認項目があった。


旧処理の存在。


新処理への引継ぎ。


本人申告区分の継続。


女が、


最後の項目を指した。


「本人申告区分の継続?」


「はい」


「申告そのものを引き継ぐんじゃなくて、


区分を引き継ぐ?」


透は、


説明欄を読んだ。


そこには、


こう書かれていた。


「旧処理において本人申告として登録された案件について、業務継続上必要な場合は、同一申告区分を新処理へ引き継ぐ。」


女は、


しばらく黙っていた。


「これって……」


「はい」


「新しい担当者は、


本人にもう一度聞かなくても、


本人申告という区分だけ引き継げる?」


「条件を満たせば、


可能だったようです」


「じゃあ、


今の『本人申告』が、


今の本人の発言とは限らない」


透は、


その言葉を聞いた。


「そうなります」


女は、


ゆっくり椅子に座った。


「それなら、


兄の記録も……」


「可能性としては、


あります」


「以前の本人申告が、


交代後も残っている」


「はい」


「でも、


それなら、


兄がその時点で何を言ったかは、


別の資料を見ないと分からない」


「そうです」


透は、


そこまで話してから、


資料を閉じた。


ここで、


一つの結論を作るのは早かった。


兄が以前、


何かを申告した。


それが後から引き継がれた。


そういう可能性はある。


しかし、


それが兄の所在確認記録だと、


まだ証明されていない。


二人は、


次に、


旧処理番号を調べた。


交代後の記録には、


現在の番号しか書かれていない。


だが、


旧処理を参照するための欄がある。


旧処理参照番号。


そこには、


番号があった。


透は、


目を細めた。


N―07。


その後ろに、


別の番号。


R―3―118。


「R―3……」


女が言った。


「以前の照会回答管理」


「はい」


透は、


過去の資料を開いた。


R―3。


照会回答。


後に、


C―12へ移管された管理区分。


そして、


P―4。


個人別照会履歴。


S―系統。


所在・連絡関連の簡易処理。


一つの処理が、


複数の管理体系を通っている。


「これ、


一本の線じゃないね」


女が言った。


「はい」


透は、


紙に書いた。


N―07


↓


R―3―118


↓


S―系統


↓


T―2


↓


K―14


しかし、


その線を一本につないだあと、


透は、


すぐに横線を入れた。


「これは、


実際の記録の流れじゃないかもしれません」


「どうして?」


「参照関係を、


処理の流れと同じものとして見ているからです」


女は、


図を見た。


「つまり、


R―3からS―へ移ったとは限らない」


「はい」


「ただ、


S―の記録が、


R―3を参照しているだけかもしれない」


「その可能性があります」


透は、


矢印を全部消した。


そして、


それぞれを丸で囲んだ。


R―3―118


N―07


S―21―014


T―2


K―14


その間に、


点線を引いた。


「こっちの方が、


今は正確です」


「つながっていることは分かる。


でも、


どうつながっているかは、


まだ分からない」


「はい」


女は、


図を見ながら言った。


「兄は、


この線を知っていたのかな」


透は、


しばらく黙った。


「分かりません」


「でも、


『管理の線を追え』って書いてあった」


「はい」


「だから、


少なくとも、


何かの線を見ていた」


「そうですね」


その時、


透は、


別の紙を見つけた。


古いメモ。


文字は、


兄のものだった。


短い。


「交代したら、前の人間を探すな。」


女が、


息を止めた。


その下には、


さらに一行。


「前の処理を探せ。」


二人は、


顔を見合わせた。


透は、


その二行を、


ゆっくり読んだ。


「これ……」


「今の資料と、


同じことを言ってる」


「はい」


しかし、


その下に、


もう一つの文章があった。


薄く、


鉛筆で書かれている。


「ただし、前の処理が本人の申告とは限らない。」


透は、


そこで手を止めた。


「……」


女は、


何も言わなかった。


しばらくして、


彼女が言った。


「どういう意味?」


「分かりません」


「でも、


今の話とつながる」


「はい」


交代後の本人申告処理。


本人申告区分の継続。


旧処理参照番号。


そして、


兄のメモ。


「前の処理が本人の申告とは限らない」。


透は、


一つの可能性を考えた。


本人申告という区分が、


処理上の分類として継続されるなら、


後から見た人は、


「本人がその時に申告した」と思うかもしれない。


しかし、


実際には、


以前の記録を引き継いだだけかもしれない。


あるいは、


本人の申告を誰かが記録したものかもしれない。


あるいは、


本人の申告を起点にした別の処理かもしれない。


いずれにしても、


**区分だけでは、


申告の内容は分からない。**


透は、


新しい紙に書いた。


本人申告


その横に、


線を三本引いた。


申告者


申告内容


申告区分


三つは、


別々だった。


女が、


静かに言った。


「私、


ずっと『本人申告』って、


兄が何か言ったことだと思ってた」


「普通は、


そう読めると思います」


「でも、


記録上は違う」


「少なくとも、


それだけでは足りません」


「だから、


兄が何を言ったのか分からない」


「はい」


女は、


少しうつむいた。


その表情を見て、


透は、


余計なことを言わなかった。


分からないものを、


分かったことにしても、


兄が戻ってくるわけではない。


ただ、


記録を一つずつ確認するしかない。


夜。


二人は、


R―3―118を検索した。


結果は、


残っていた。


ただし、


内容は簡略化されていた。


照会区分――所在。


回答区分――本人申告。


回答結果――不要。


透は、


その記録を見て、


手を止めた。


「回答区分?」


女が言った。


「はい」


「照会した人が、


本人に聞いたの?」


「分かりません」


「でも、


回答区分が本人申告」


「そうです」


「じゃあ、


『本人が申告した』じゃなくて、


『照会に対する回答として本人申告扱いになった』可能性もある」


透は、


ゆっくり頷いた。


「あります」


そして、


もう一つ。


回答者――空欄。


女が、


その空欄を見る。


「また……」


「はい」


「誰が答えたか、


残ってない」


「はい」


「でも、


回答区分だけは残ってる」


透は、


そこに線を引いた。


回答者――不明


回答区分――本人申告


「人は残っていない」


「でも、


処理上の分類は残っている」


「そういうことだね」


「はい」


その瞬間、


透は、


兄のメモをもう一度見た。


「前の処理を探せ。」


そして、


その下。


「ただし、前の処理が本人の申告とは限らない。」


透は、


ようやく少しだけ、


その意味に近づいた気がした。


兄が警戒していたのは、


嘘そのものではなかったのかもしれない。


記録に書かれた言葉を、


そのまま現実の出来事だと思うこと。


それだった可能性がある。


透は、


メモの横に、


一行だけ書いた。


「記録の分類は、出来事そのものではない。」


女は、


それを読んだ。


「じゃあ、


まだ兄の言葉も、


この記録も、


直接はつながってない」


「はい」


「でも、


仕事としては、


同じ線上にある可能性がある」


「はい」


その夜。


二人は、


R―3―118の原資料を探すことにした。


現在の記録では、


回答区分しか分からない。


もし、


もっと古い一次資料が残っていれば、


誰が、


どの経路で、


何を伝えたのか。


そこまで戻れる可能性がある。


透は、


検索欄に、


旧番号を入力した。


R―3―118


検索結果が表示される。


一件。


二件。


三件。


そして、


一番古い記録に、


小さな表示が出た。


原資料――別管理。


透は、


画面を見つめた。


また、


別管理だった。


だが、


今回は、


その下に、


今までなかった文字があった。


保管先――第七管理系統。


透の指が止まった。


N―07。


第七管理系統。


そして、


原資料。


まだ、


そこに何が残っているのかは分からない。


しかし、


初めて、


「本人申告」という言葉の、


さらに一つ前の記録へ戻れる可能性が出てきた。


透は、


静かに言った。


「ここから先は、


人じゃなくて、


原資料を追います」


女が、


頷いた。


二人は、


画面に残った文字を見つめた。


保管先――第七管理系統。


その名前だけが、


暗い画面の中で、


長い時間、


消えずに残っていた。

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