↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/590

第七十二章 残っていた仕事

N―07。


透は、


その番号を見たまま動かなかった。


これまで、


何度も見てきた番号だった。


管理室。


旧業務。


移管。


確認。


名前。


そして、


本人申告。


けれど、


今回のN―07は、


今までとは少し違っていた。


人を示す記号としてではなく、


受付された処理に付いている。


「これ……」


女が言った。


「N―07が、


本人申告そのものにつながってる?」


「正確には、


本人申告の受付記録に、


関連業務コードとして付いています」


「つまり、


申告した人ではなく、


その申告を処理する仕事に付いている」


「はい」


透は、


画面を保存した。


そして、


別の記録を開いた。


兄の所在確認記録。


そこにも、


関連業務コードがある。


N―07。


女は、


黙った。


「同じだね」


「はい」


「じゃあ、


兄の記録と、


さっきの一次受付記録は、


同じ仕事につながってる?」


「可能性はあります」


「また、


可能性」


「N―07が同じでも、


現在のN―07と過去のN―07の意味が、


完全に同じとは限りません」


女は、


少し考えた。


「番号が残っているから、


業務が続いているように見える」


「はい」


「でも、


実際には番号だけ引き継がれた可能性もある」


「あります」


透は、


以前見つけた移管資料を開いた。


旧系統。


新系統。


移管日。


対象業務。


確認方法。


旧記録の扱い。


その中から、


N―07を検索する。


いくつかの記録が出てきた。


旧管理体系。


中間管理体系。


現在の管理体系。


それぞれに、


N―07が存在する。


しかし、


その横には、


小さな注記が付いていた。


「旧番号を継続使用する場合あり。」


女が、


それを読む。


「やっぱり」


「はい」


「番号が同じでも、


管理体系が違う」


「そうです」


「じゃあ、


N―07だけでは、


昔と今をつなげられない」


「直接は」


透は、


そう答えた。


だが、


その直後、


別の項目に気づいた。


移管理由。


そこには、


こう書かれていた。


「業務継続のため。」


透は、


少し黙った。


「これ、


今まで見たことあった?」


女が聞く。


「似た表現はありました」


「でも、


今回のは?」


「移管理由として、


明確に書かれています」


透は、


その項目を拡大した。


業務継続。


つまり、


担当者が変わっても、


窓口が変わっても、


業務そのものは続く。


だから、


旧番号を残すことがある。


「じゃあ、


兄が見ていたのも、


人じゃなくて、


業務の継続だった?」


女が聞いた。


透は、


しばらく考えた。


「それなら、


いくつかのメモは説明できます」


「例えば?」


「『窓口が変わっても、仕事が残っているなら、同じ名前が残ることがある』」


「うん」


「それから、


『仕事の記録と、人の記録を同じものとして見るな』」


「うん」


「そして、


『管理の線を追え』」


女は、


黙って聞いていた。


透は、


続けた。


「兄は、


誰がやっているのかより、


その仕事がどこへ移ったのかを見ていたのかもしれません」


「でも、


何のために?」


「分かりません」


女は、


少し笑った。


「そこは変わらないね」


「はい」


しかし、


今回は、


もう一つ調べられることがあった。


N―07の移管履歴。


透は、


旧資料を並べた。


最初の移管。


二度目の移管。


現在の管理体系への移管。


その中に、


一つだけ、


不自然な空白があった。


二度目の移管から、


現在の管理体系へ移るまで。


約半年。


その期間だけ、


詳細な担当記録が残っていない。


「ここ」


女が指した。


「半年間、


誰が担当したか分からない」


「担当者名は、


もともと記載しない運用です」


「じゃあ、


管理主体は?」


透は、


確認した。


空欄。


「これも空欄」


「はい」


「でも、


業務コードは残ってる」


「はい」


二人は、


同時に気づいた。


人の情報は、


空白になっている。


しかし、


仕事の情報は、


途切れていない。


透は、


紙に書いた。


人――空欄。


仕事――継続。


その二つを、


横に並べた。


「これなら、


兄が言っていたことが、


少し分かる」


女が言った。


「どの言葉ですか」


「『仕事の記録と、人の記録を同じものとして見るな。』」


透は、


頷いた。


「記録上、


本当に別々なんです」


誰が担当したか。


どこにいたか。


誰が受け取ったか。


それらが分からなくても、


仕事だけは、


次の担当へ移る。


だから、


記録を追えば、


人が消えたように見える。


しかし、


仕事は残っている。


逆に、


人を追えば、


仕事が別の名前に移って、


そこで線が切れたように見える。


「じゃあ、


N―07は、


人を探すための番号じゃない」


女が言った。


「少なくとも、


それだけではありません」


「仕事を追うための番号」


「可能性があります」


その時だった。


透は、


移管履歴の一番古い行に、


小さな文字を見つけた。


旧業務名――所在確認関連処理。


透の目が止まった。


「所在確認……」


女が、


画面を見る。


「N―07って、


最初から所在確認の仕事だったの?」


「分かりません」


透は、


すぐに資料を前後に確認した。


N―07は、


一つの仕事だけを示していない。


別の時期には、


照会。


確認。


連絡。


移管。


複数の業務が、


同じ番号に関連づけられている。


「じゃあ、


また違う」


女が言った。


「はい」


「N―07が所在確認だった時期がある。


でも、


それだけじゃない」


「そうです」


透は、


新しい紙に書いた。


N―07=一つの意味ではない。


その下に、


さらに書く。


N―07=業務の履歴。


それが正しいかどうかは、


まだ分からない。


ただ、


少なくとも、


番号の意味を一つに固定するより、


履歴として見る方が、


資料には合っていた。


夜になって、


女が突然、


古い封筒を取り出した。


以前、


兄の部屋から見つかったものだった。


表には、


仕事に関する名前。


N―07。


そして、


「引継ぎ後も変更しない」


裏には、


日付。


交代。


透は、


その文字を見た。


「これ……」


「何?」


「今まで、


『名前が残る』という部分ばかり見ていました」


「違う?」


「違います」


透は、


封筒の表と裏を、


もう一度見た。


表。


N―07。


引継ぎ後も変更しない。


裏。


交代。


「ここで書かれている『交代』は、


人が交代した可能性があります」


「でも、


名前は変更しない」


「はい」


「だから、


名前だけ見れば、


同じ人がずっと担当しているように見える」


「そうです」


女は、


黙った。


「じゃあ、


あの二つの名前……」


透は、


答えなかった。


以前見つかった二つの名前。


同じN―07。


一人が二つの名前を使っていた可能性。


別人が同じ仕事上の名前を使っていた可能性。


あるいは、


名前そのものが、


人ではなく役割を示していた可能性。


今なら、


そこにもう一つ、


別の可能性が加わる。


**担当者が交代しても、


業務上の名前だけが残る。**


透は、


静かに言った。


「だから、


名前を聞いても、


人が分からなかったのかもしれません」


女が、


兄の元同僚の言葉を思い出す。


「『名前を聞けば、


名前の方を信じてしまうから』」


「はい」


二人の間に、


しばらく沈黙があった。


そして、


透は、


封筒を裏返した。


日付。


交代。


その日付を、


今回の本人申告記録の日付と照合する。


一致しなかった。


数か月違う。


「違うね」


女が言った。


「はい」


「じゃあ、


この交代は関係ない?」


「それも、


まだ分かりません」


「どうして?」


「業務上の交代が、


一回だけとは限らないからです」


女は、


苦笑した。


「何でも、


一回じゃない」


「記録を見る限りは」


透は、


そう答えた。


そして、


もう一度、


N―07の移管履歴を見る。


人は、


何度も交代している。


業務は、


何度も移管されている。


番号は、


残っている。


記録は、


分離されている。


そして、


本人申告という処理だけが、


その途中に残っている。


透は、


最後に、


一つの線を引いた。


人


↓


交代


↓


仕事


↓


移管


↓


N―07


その下に、


もう一つ書いた。


「では、本人申告は、どこにある?」


答えは、


まだ出なかった。


しかし、


その問いを書いた直後、


透は、


ある資料の存在を思い出した。


以前、


兄の資料を探していたときに見つけた、


古い分類表。


「業務継続確認記録」


その資料には、


一つだけ、


未確認の項目があった。


「交代後の本人申告処理」


透は、


画面を見つめた。


女が、


静かに聞いた。


「そこを調べる?」


透は、


頷いた。


「はい」


「何が出てくると思う?」


透は、


少し考えた。


そして、


いつものように、


答えを作らなかった。


「分かりません」


ただ、


今回は、


一つだけ分かっていた。


N―07は、


人を示しているのではない。


少なくとも、


人だけを示しているわけではない。


そして、


その番号が残り続けた理由には、


仕事を継続させる必要があった。


その事実だけは、


少しずつ見えてきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。