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嘘の向こう側  作者: 亀


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第六十八章 一致の意味

「何と何が、一致したのか。」


透は、


その問いを机の上に残した。


紙には、


三つの欄がある。


確認者コード


照会対象コード


照合結果


K―14。


P―4―***。


一致。


しかし、


この三つだけでは、


何が一致したのか分からない。


透は、


まず「一致」という言葉を調べた。


古い資料の中で、


同じ言葉が使われている記録を探す。


本人確認。


住所確認。


所属確認。


記録照合。


いくつか見つかった。


その中には、


「一致」と書かれているものもあれば、


「不一致」。


「確認不能」。


「要再確認」。


そういう記録もあった。


透は、


四つを並べた。


一致


不一致


確認不能


要再確認


「これだけ見ると、


普通の確認結果にも見える」


女が言った。


「はい」


「じゃあ、


特別なものじゃない?」


「それも、


まだ分かりません」


透は、


「一致」の意味を、


さらに分解した。


氏名が一致した。


住所が一致した。


生年月日が一致した。


所属が一致した。


登録番号が一致した。


過去記録と一致した。


本人の申告と一致した。


どれも、


「一致」と書ける。


だから、


結果だけでは、


基準が分からない。


その時、


女が、


一枚の資料を持ち上げた。


「これ、


照合結果の定義じゃない?」


表題は、


「確認結果区分」


だった。


一番上に、


「一致」の説明がある。


「照合対象として指定された項目が、確認資料上の登録内容と一致した場合」


透は、


そこを読んだ。


「指定された項目」


「うん」


「全部ではない」


彼女が言った。


「そう」


透は、


その下を見た。


不一致。


「照合対象として指定された項目の全部または一部が一致しない場合」


確認不能。


「必要な資料が取得できない場合」


要再確認。


「照合対象または確認資料に疑義がある場合」


透は、


紙の端に書いた。


一致=全部が同じ、ではない。


「これ、


結構重要じゃない?」


女が言った。


「はい」


「『一致』って書いてあっても、


人間として同じとは限らない」


「その通りです」


「項目が一致しただけ」


「はい」


透は、


K―14とP―4―***の記録に戻った。


これなら、


少なくとも、


「K―14とP―4が同じ人だった」


とは言えない。


むしろ、


その二つは、


確認する側と、


照会対象側を表すコードかもしれない。


ただし、


P―4―***の形式が、


何を表すのかはまだ分からない。


透は、


古いコード一覧を探した。


P系統には、


P―1。


P―2。


P―3。


P―4。


さらに、


P―4―001。


P―4―002。


P―4―003。


という形式もある。


女が、


画面を見ながら言った。


「P―4だけじゃなくて、


その後ろに番号が付く場合がある」


「はい」


「それなら、


P―4は管理区分で、


後ろの番号が個別記録?」


「可能性があります」


透は、


P―4を、


また一段階分けた。


P―4


↓


P―4―***


だが、


ここでも断定しない。


コード体系が、


そういう構造だったと確認できる資料が必要だった。


二人は、


現在の会社に再び問い合わせた。


今回は、


コードそのものではなく、


形式について聞いた。


「P―4―001のような記録形式は、


個別記録を示しますか」


担当者は、


資料を確認してから答えた。


「旧体系では、


そういう使い方をしていたものがあります」


透は、


「あります」という言葉を聞いて、


少し安心した。


「P―4は?」


「管理区分です」


「P―4―001は?」


「管理区分に紐づく個別番号です」


透は、


書き留めた。


これで、


少なくとも、


一つの構造が見えた。


P―4=管理区分


P―4―001=その区分内の個別番号


しかし、


それが現在の資料にも同じように適用できるとは限らない。


「現在は、


同じ形式ですか」


「現在は別体系です」


「では、


P―4―001と現在の番号を対応させることは?」


「旧対応表があれば可能な場合があります」


「その対応表は、


公開されていますか」


「権限が必要です」


また、


権限。


透は、


電話を切った。


女が言った。


「また、


権限だね」


「はい」


「でも、


今度は権限者を探さない」


透は、


頷いた。


「まず、


対応表が存在するかを確認します」


「そこから?」


「はい」


「人じゃなくて、


資料を追う」


「その方が、


今は安全です」


二人は、


古いファイルを探した。


すると、


一つだけ、


名前の似た資料があった。


旧個別番号対応表


しかし、


中身は、


すべてではなかった。


P―4―001。


現在コード――C―12―041。


P―4―002。


現在コード――C―12―042。


P―4―003。


現在コード――空欄。


四番目。


P―4―004。


現在コード――C―12―044。


透は、


そこで止まった。


P―4―003だけ、


現在コードがない。


女が、


すぐに言った。


「これ……」


透は、


首を横に振った。


「まだ何も分かりません」


「でも、


一つだけ抜けてる」


「はい」


「それが弟?」


「分かりません」


彼女は、


何も言わなかった。


透は、


空欄の横に、


小さく書いた。


「未移管」


すぐに消す。


次に、


「廃止」


これも消す。


「別管理」


それも消した。


そして、


最後に、


「不明」


だけを残した。


「空欄に意味を与えるのは、


まだ早いです」


女が、


頷いた。


その日の夕方。


古い資料の別の場所から、


P―4―003についての記録が見つかった。


日付は、


数年前。


内容は、


短い。


「照会履歴あり」


回答記録――


「本人確認済」


確認者コード――


K―14。


透は、


紙を見た。


P―4―003。


K―14。


本人確認済。


昨日見つけた記録と、


かなり近い。


だが、


まだ同じものとは限らない。


透は、


さらに日付を確認した。


P―4―003の記録は、


弟が会社を辞める数か月前。


昨日の「一致」記録は、


その後。


時間の順序がある。


本人確認済


↓


数か月後


↓


一致


この二つが、


同じ個別記録についてのものなら、


何かが継続している可能性がある。


しかし、


P―4―003という番号が、


途中で別の対象に再利用されていないか。


それも確認しなければならない。


透は、


そこで一度止めた。


「番号の継続性を確認する必要があります」


女が言う。


「どうやって?」


「番号の履歴を見る」


「履歴?」


「同じ番号が、


いつからいつまで、


同じ対象を指していたのか」


彼女は、


少し考えた。


「つまり、


番号の意味じゃなくて、


番号の寿命を見る?」


透は、


その表現に少し驚いた。


「……それ、


分かりやすいです」


彼女は、


笑った。


「じゃあ、


番号の寿命を調べよう」


透は、


資料のタイトルを作った。


P―4―003 使用履歴


最初の日付。


最後の日付。


用途。


管理区分。


移管記録。


照会記録。


本人確認。


一つずつ、


埋めていく。


すると、


P―4―003には、


意外な空白があった。


数か月間、


記録がない。


その期間だけ、


何も残っていない。


「ここ、


何もない」


女が指した。


透は、


頷いた。


「はい」


「記録が消えた?」


「それは分かりません」


「別管理?」


「可能性はあります」


「じゃあ、


ここを探せば……」


透は、


少し考えた。


「探す価値はあります」


「やっと、


人に近づく?」


透は、


P―4―003を見た。


「まだ、


記録に近づいているだけです」


彼女は、


苦笑した。


「それでも、


前よりは近い」


透は、


否定しなかった。


夜。


彼は、


新しい表を作った。


P―4―003


* 旧管理区分:P―4

* 個別番号:003

* 照会履歴:あり

* 本人確認:あり

* 確認者コード:K―14

* 現在コード:空欄

* 使用期間:一部不明

* 個人名:なし


最後に、


一行。


「この番号が、誰を指していたかは、まだ分からない。」


透は、


その言葉を残した。


そして、


資料の束の中から、


古い照会履歴をもう一度取り出した。


P―4―003。


その横に、


小さな記載がある。


これまで、


見落としていた。


「照会理由:本人申告」


透の手が止まった。


本人申告。


それは、


以前にも見た言葉だった。


兄の「所在確認:不要」。


そこにも、


「本人申告による」


と書かれていた。


透は、


二つの日付を並べた。


一つは、


P―4―003。


もう一つは、


兄の所在確認。


まだ、


同じ人物だとは言えない。


同じ仕組みだとも、


言えない。


しかし、


同じ言葉が、


別々の記録に残っている。


透は、


その二つを線で結ばなかった。


ただ、


同じ欄に置いた。


「本人申告」


そして、


その下に、


一つだけ書いた。


「本人が何を申告したのか。」


そこから先は、


まだ、


空白だった。

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