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嘘の向こう側  作者: 亀


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第六十三章 空欄の理由

翌朝。


透は、


昨日の資料をもう一度開いた。


C区分。


管理主体――空欄。


照会条件――


「旧担当部署からの照会依頼による」。


そこだけが、


妙に引っかかっていた。


管理主体が書かれていない。


だからといって、


誰も管理していないとは限らない。


むしろ、


照会条件が存在する以上、


どこかに照会を受ける仕組みはある。


透は、


紙の端に書いた。


空欄=不在、ではない。


その下に、


もう一つ。


空欄=不明、でもない。


誰かが意図的に書かなかった。


あるいは、


この表そのものに書く必要がなかった。


あるいは、


別の資料に記録されている。


可能性は、


いくつもある。


透は、


昨日の電話を思い出した。


「現在は記録管理部門です」


そう答えた担当者も、


「旧資料については個別確認が必要」と言った。


つまり、


現在の管理と、


過去の管理は、


完全には重なっていない。


透は、


新しい紙を出した。


左側に、


現在


右側に、


当時


と書く。


現在――


記録管理部門。


当時――


空欄。


その間に、


一本の線を引いた。


その線の上に、


「移管」


と書く。


しかし、


すぐに消した。


移管されたことは分かっている。


だが、


どこからどこへ、


どの資料が、


どの管理単位で移ったのか。


そこまでは分からない。


透は、


「移管」という言葉だけで、


空白を埋めることをやめた。


昼前。


女から電話が来た。


「昨日の資料、見た?」


「はい」


「私も気になってる」


「管理主体ですか」


「うん」


彼女は、


少し間を置いてから言った。


「弟なら、ここを調べたと思う」


「どうしてですか」


「弟は、人の名前より、記録の作られ方を見るようになっていたから」


透は、


その言葉を聞いて、


少しだけ考えた。


以前なら、


「だから弟は何かを知っていた」


と考えていたかもしれない。


しかし、


今は違った。


調べた可能性と、


知っていたことは、


別だ。


「その資料、どこにあったんですか」


「古いフォルダ」


「フォルダ名は?」


「『確認関係』」


透は、


その名前を書いた。


「他には?」


「『移管』と『旧資料』」


三つ。


確認。


移管。


旧資料。


それぞれ、


別のフォルダに入っていた。


「同じ場所には?」


「入ってない」


透は、


そのことにも線を引いた。


資料が分かれている。


しかし、


分かれていること自体は、


隠されていることを意味しない。


管理目的が違えば、


分ける理由はある。


「弟さんのメモは残ってますか」


「少しだけ」


彼女が写真を送ってきた。


紙の端に、


弟の文字があった。


短い。


ところどころ、


途中で切れている。


「管理主体を書かないのは――」


そこで終わっていた。


透は、


画像を拡大した。


その下には、


別の文字がある。


「――を書かないためではない」


何を、


書かないためなのか。


そこだけが、


欠けていた。


透は、


女に聞いた。


「この紙、破れてますか」


「うん。右側がない」


「他の部分は?」


「見つからない」


「なら、ここから意味を決めない方がいいと思います」


「分かってる」


女は、


すぐに答えた。


「私も、前なら勝手に続きまで考えてた」


少し笑った。


「今は、空白は空白のままにしてる」


透は、


何も言わなかった。


それでよかった。


午後。


透は、


もう一度、


現在の会社へ問い合わせた。


今度は、


「管理主体」という言葉そのものについて聞いた。


担当者は、


「資料によります」


と答えた。


透は、


具体的な資料名を伝えた。


しばらくして、


別の人に代わった。


「この年代の資料については、現在の様式とは違います」


「管理主体という欄は、今もありますか」


「あります」


「必ず記載しますか」


「通常は記載します」


「では、昔の資料で空欄の場合は?」


「それだけでは理由は判断できません」


透は、


少し安心した。


それでよかった。


「当時の担当部署が別の資料に記載されている場合もありますか」


「あります」


「管理主体と保管場所が違う場合も?」


「あります」


透は、


そこに線を引いた。


管理主体 ≠ 保管場所


昨日まで、


「別管理」を、


場所の問題として考えすぎていた。


しかし、


管理する主体と、


資料を置く場所は、


別にできる。


さらに、


担当者と、


管理主体も、


別かもしれない。


透は、


三つ並べた。


人


組織


場所


同じではない。


電話を切った後、


透は、


白石へ連絡した。


「昔の管理室では、資料をどこに置いていたんですか」


白石から返事が来る。


資料による。


「管理していたのは?」


これも資料による。


「管理室の人間が全部管理していたわけではない?」


少し時間があった。


そういうことになる。


透は、


続けた。


「では、管理室という名前だけを追っても、管理主体は分からない?」


分からない場合がある。


そこで、


白石からもう一通届いた。


ただ、昔の資料には「管理室確認」という記録が残っていることがある。


透は、


その言葉を見て、


手を止めた。


「管理室確認」。


管理主体ではない。


確認した場所、


あるいは確認した部署を示しているだけかもしれない。


透は、


すぐに決めなかった。


そして、


女にその情報を送った。


「これ、弟の資料にありませんでしたか」


しばらくして、


返信が来た。


一枚の写真。


古い表だった。


項目は、


資料番号


確認区分


確認日


確認経路


最後の欄に、


こう書かれていた。


管理室経由


透は、


息を止めるようにして見た。


N―07。


その行にも、


書かれている。


確認経路:管理室経由


だが、


担当者名はない。


管理主体もない。


透は、


その表を見ながら、


一つだけ理解した。


N―07が、


管理室そのものを意味していたわけではない。


管理室を通った、


という意味で使われている可能性がある。


しかし、


それもまだ、


この表だけでは確定できない。


透は、


その言葉の横に、


小さく書いた。


「経路」


番号。


業務。


窓口。


管理主体。


保管場所。


確認経路。


これまで、


全部が同じ線の上にあるように見えていた。


しかし、


実際には、


別々の線だった。


そして、


どこかで交わっている。


夜。


女から、


もう一枚、


写真が届いた。


弟のメモだった。


今度は、


かなり短かった。


「番号を追うな。」


「管理の線を追え。」


その下に、


小さく、


もう一行。


「ただし、線が一本とは限らない。」


透は、


しばらく画面を見ていた。


一本ではない。


業務の線。


人の線。


記録の線。


移管の線。


確認の線。


それぞれが、


同じ資料を通過することもある。


だが、


同じものではない。


透は、


紙を五つに分けた。


業務


人


記録


移管


確認


そして、


N―07を、


その中心には置かなかった。


それぞれの線の上に、


必要な場所だけ書いた。


N―07は、


番号として、


いくつかの線に現れている。


しかし、


だからといって、


すべてが同じ意味ではない。


透は、


最後に、


昨日の問いを書き直した。


「別管理とは、どこか。」


その下に、


新しい答えを一つ加えた。


「どこか、ではなく、どの線か。」


まだ、


弟が何を見つけたのかは分からない。


南区で何を確認したのかも、


分からない。


誰が管理していたのかも、


分からない。


けれど、


少なくとも一つ、


変わった。


透は、


もう「別管理」という言葉を、


一つの場所として探してはいなかった。

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