↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

572/590

第五百七十二章 残す記録

試験が終わった翌日。


人類側は、これまでの経緯をまとめた記録を作ることになった。


誰かが強く要求したわけではない。


前日の会話の中で、自然に決まったことだった。


会議室の机には、いくつもの資料が並べられている。


最初の人類側の組織。


塔との接触。


技術の共有。


その後の各国の研究。


軍事利用。


戦争。


組織の崩壊。


そして、現在。


人類側の代表者が資料を眺める。


「これだけのことがあったのに、記録が足りませんね」


技術者が答える。


「戦争で失われたものが多いので」


「残っているものも、書いた人間によって内容が違います」


透は黙って資料を見ていた。


同じ出来事でも、立場が違えば記録の仕方が変わる。


それは、今回の調査で何度も確認したことだった。


平和派の代表者が一枚の資料を手に取る。


「この記録では、技術を共有したことが問題だったと書かれています」


別の資料を見る。


「こちらでは、共有そのものは問題ではなかったと書いてあります」


「どちらが正しい?」


人類側の代表者が尋ねる。


平和派の代表者は首を横に振った。


「分かりません」


透が少し笑った。


「僕も同じ答えだと思います」


主戦派の代表者が言う。


「重要なのは、同じことをもう一度起こさないことでしょう」


「そのために記録を残す」


「はい」


人類側の代表者は頷いた。


「では、今回の記録には、塔側の見解も入れましょう」


「私たちの?」


「はい」


「なぜですか?」


「人類側だけの記録にすると、また人類側から見た歴史になります」


その言葉に、塔の二人は黙った。


「塔側から見た出来事も残した方がいい」


平和派の代表者が言う。


「それなら、私たちも協力します」


主戦派の代表者も頷いた。


「ただし、私たちの記録も完全ではありません」


「それでいいと思います」


透が言った。


「完全な記録にする必要はないんじゃないでしょうか」


人類側の代表者が透を見る。


「なぜ?」


「後から読んだ人が、どこまで分かっていて、どこから分からなかったのか判断できるからです」


部屋が静かになる。


透は続けた。


「分からないことを、分かったように書くよりはいいと思います」


主戦派の代表者が笑った。


「やはり、それは変わりませんね」


「何がですか?」


「あなたの考え方です」


透は苦笑した。


記録作りは、その日の午後まで続いた。


過去の出来事だけではない。


今回の素材についても記録された。


提供された量。


使用された場所。


試験結果。


利用目的。


そして、今後の報告方法。


人類側の代表者が最後のページを確認する。


「これでいいでしょうか?」


塔の二人が確認する。


「はい」


「問題ありません」


そこには、一つの短い文章が追加されていた。


『本技術は、双方の協力によって発展したものであり、いずれか一方の所有物として扱わない。』


人類側の代表者がそれを読む。


「昔の約束と、ほとんど同じですね」


平和派の代表者が答える。


「ただ、少し違います」


「どこが?」


「今回は、過去の約束がなぜ失われたのかも記録します」


人類側の代表者は黙った。


主戦派の代表者が続ける。


「約束だけを残しても、守れなければ意味がありません」


「だから、失敗したことも残す」


「はい」


透は、その記録を見ていた。


昔の約束は、一度失われた。


しかし、消えたわけではなかった。


誰かが古い記録を見つけた。


誰かが疑問を持った。


誰かが調べた。


そして、今ここで再び言葉になっている。


夕方。


記録が完成した。


人類側の代表者が透に尋ねた。


「あなたも確認しますか?」


「はい」


透は最後のページまで目を通した。


そこには、自分の名前もあった。


塔から来た調査官。


人間として生きた人物。


そして、現在も人類側に残っている存在。


透はその部分をしばらく見ていた。


「どうですか?」


「いいと思います」


「何か修正するところは?」


透は首を横に振った。


「ありません」


人類側の代表者が記録を閉じる。


「これで、過去の整理は一段落ですね」


「はい」


透は窓の外を見る。


空は夕暮れから夜へ変わり始めていた。


遠くには、塔の船が見えている。


まだ帰ってはいない。


そして、会談もまだ終わっていない。


次に話すべきことは、もっと簡単だった。


これから、どう付き合っていくのか。


過去を確認したあとに残るのは、いつもその問題だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。