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嘘の向こう側  作者: 亀


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第五百七十章 見せるもの

翌日、塔側から一つの要望が出された。


「実際の利用場所を見たい」


人類側はそれを受け入れた。


大げさな準備はしなかった。


会議室を用意することもしなかった。


透と二人の代表者、それから人類側の数人だけが同行することになった。


最初に向かったのは、病院だった。


建物の中には、多くの人がいた。


患者。


医師。


看護師。


家族。


誰も、塔から来た者たちを特別な存在として見ているわけではない。


二人は、それを少し不思議そうに眺めていた。


「ここで技術を使っているのですか?」


「はい」


人類側の技術者が説明する。


「主に電力と医療設備です」


平和派の代表者が、装置を見る。


「これが止まると?」


「一部の設備が止まります」


「人が困る?」


「場合によっては、命に関わります」


その言葉を聞いて、主戦派の代表者が黙った。


医師が近くを通り過ぎる。


誰も会談のことを知らない。


そのまま仕事を続けている。


平和派の代表者が小さく言った。


「技術そのものを見ていると、数字だけに見えます」


「はい」


「でも、ここでは違いますね」


透は答えなかった。


その後、二人は病室も見た。


特別な場所ではない。


患者が横になっている。


家族が椅子に座っている。


看護師が記録を確認している。


それだけだった。


主戦派の代表者は、しばらく何も言わなかった。


病院を出ると、次に水処理施設へ向かった。


そこでは、巨大な設備が静かに動いていた。


人類側の技術者が説明する。


「この技術によって、以前より多くの水を安定して処理できるようになりました」


「以前は?」


「地域によっては、水の確保そのものが難しかった」


塔の二人は設備を見上げた。


平和派の代表者が言う。


「あなた方は、戦争の後にこれを作ったのですね」


「はい」


「誰が?」


技術者は少し考えた。


「分かりません」


「分からない?」


「当時の記録が十分に残っていないんです」


その答えに、塔の代表者は何も言わなかった。


彼らもまた、失われた歴史を持っている。


すべてを記録できる文明などない。


最後に、発電施設へ向かった。


そこでは、都市へ送られる電力が管理されていた。


主戦派の代表者が尋ねる。


「この施設も、透の装置に依存していますか?」


「完全ではありません」


技術者が答えた。


「ですが、安定化に重要な役割を果たしています」


主戦派の代表者は頷いた。


「つまり、あの装置がなくなれば?」


「今すぐ全部が止まるわけではありません」


「しかし?」


「長期的には問題が出ます」


二人は何も言わなかった。


帰りの車の中でも、しばらく会話はなかった。


やがて平和派の代表者が口を開く。


「私たちは、技術を使うことそのものを止めろとは言えませんね」


主戦派の代表者が答える。


「私もそう思います」


「意外ですね」


「なぜ?」


「最初は、もっと強く反対すると思っていました」


主戦派の代表者は窓の外を見た。


「反対する理由がなくなったわけではありません」


「はい」


「ただ、実際に見てしまうと、単純には言えない」


透は後部座席で二人の会話を聞いていた。


主戦派の代表者は続けた。


「技術が戦争に使われたことも事実です」


「はい」


「そして、その技術が人を生かしたことも事実です」


誰も反論しなかった。


「どちらか一方だけを消すことはできない」


その言葉に、透は窓の外を見た。


人類の町が流れていく。


昨日まで塔の代表者たちは、人類を一つの集団として見ていた。


今は少し違う。


同じ技術を使っていても、そこには違う人間がいる。


違う生活がある。


違う事情がある。


そして、違う選択がある。


基地へ戻ると、人類側の代表者が二人に尋ねた。


「どうでしたか?」


平和派の代表者はすぐに答えた。


「材料の提供について、前向きに考えたいと思います」


人類側に安堵の表情が浮かぶ。


しかし、主戦派の代表者が続けた。


「ただし、一つだけ条件があります」


人類側の代表者が身構える。


「何でしょう?」


「この技術を、人類だけのものにしないでください」


人類側の代表者は黙って聞いた。


「私たちも、あなた方から奪うつもりはありません」


主戦派の代表者は言った。


「ただ、昔と同じことが起きないようにしたい」


「それは、どういう意味ですか?」


「一部の人間だけが独占し、他の人間を支配する道具にしないことです」


人類側の代表者はしばらく考えた。


そして答えた。


「分かりました」


それは、まだ正式な条件ではなかった。


具体的な制度も決まっていない。


しかし、人類側はその言葉を受け止めた。


透は二人を見ていた。


昨日までは、塔が材料を提供するかどうかが問題だった。


今日は、その材料を何のために使うのかという話になった。


話は少しずつ前へ進んでいる。


それだけだった。


だが、その日の夜。


透の前に、一つの小さな容器が置かれた。


中には、透明とも金属ともつかない小さな素材が入っている。


塔が持ってきた試験用の原材料だった。


人類側の技術者がそれを見つめる。


「これで、作れるんですか?」


透は首を横に振った。


「僕には分かりません」


技術者が苦笑する。


「また、それですか」


「分からないものは、分からないので」


その言葉に、部屋の中で小さな笑いが起きた。


だが、その素材を前にした人類側の視線は真剣だった。


長い時間をかけて失われたものが、もう一度、人類の手元に届こうとしていた。

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