↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/590

第五十七章 残された控え

翌日の午後。


透と女は、別々に動くことにした。


同じ場所を一緒に見れば、


同じものを見て、


同じように考えてしまう。


それが悪いわけではない。


ただ、


最近の透は、


「同じものを見た二人が、同じ結論に至るとは限らない」


ということを意識するようになっていた。


だから今回は、


透が引き継いだ側の資料を探し、


女は弟の残した資料をもう一度確認する。


夕方になったら、


見つかったものだけを交換する。


それで十分だった。


透は、前日に見つけた現在の会社の資料を辿った。


旧会社から現在の会社へ。


しかし、


実際には一度で移ったわけではなかった。


資料を読んでいくと、


途中に別の法人が入っていた。


最初の移管。


その後の再編。


そして、


現在の事業部門への統合。


透は紙に三つの箱を書いた。


旧会社


↓


中間会社


↓


現在の会社


それぞれの下に、


「業務」


「記録」


「名称」


と書いた。


そして、


一つずつ確認していった。


旧会社から中間会社へ。


業務――一部移管。


記録――一部保存。


名称――継続。


中間会社から現在の会社へ。


業務――統合。


記録――電子化。


名称――継続。


透はそこで止まった。


名前は、


二度の移管を通っている。


一方で、


記録は途中で形を変えている。


人については、


何も書かれていない。


「同じ名前が残っている」


という事実だけなら、


人が同じだった証拠にはならない。


むしろ、


仕事が続いていたから名前が残った可能性がある。


透は、


そこまでを書いた。


その時、


画面の下に小さな添付資料があることに気づいた。


タイトルは、


旧資料引継一覧


だった。


開く。


一覧表だった。


番号。


資料名。


保存形式。


保存期間。


移管先。


透は一つずつ見ていった。


大部分は、


契約書。


業務手順書。


請求関係。


問い合わせ記録。


普通の資料だった。


そして、


最後の方に、


一つだけ見慣れない項目があった。


外部確認窓口記録


保存形式――紙・電子混在。


移管先――旧管理資料保管室。


透は眉を寄せた。


現在の会社の部署名ではない。


「保管室」。


つまり、


現在も仕事をしている場所ではなく、


過去の資料を保存するための場所かもしれない。


透は住所を調べた。


現在の会社の本社ではなかった。


少し離れた場所にある、


古い倉庫だった。


だが、


公開されている情報だけでは、


そこが本当に資料保管場所なのか分からない。


透は住所を紙に書いた。


それから、


白石に連絡した。


「旧管理資料保管室という場所を知っていますか」


しばらくして、


返事が来た。


名前だけなら知っている。


透は続けた。


何を保管していた場所ですか。


返信は少し遅れた。


私が知っているのは、古い業務資料だ。


人の所在を管理する場所ではない。


透はそこで、


一度手を止めた。


「人の所在を管理する場所ではない」。


白石は、


そこまでしか言っていない。


だから、


それ以上を想像しない。


透は、


現在も使われていますか。


と送った。


しばらくして、


分からない。


と返ってきた。


透はその言葉を記録した。


そして、


白石にはそれ以上聞かなかった。


夕方。


女から連絡が来た。


「こっちは一つだけ見つかった」


「何ですか」


「弟のノートの切れ端」


写真が送られてきた。


小さな紙だった。


文字は途中で切れている。


そこには、


こう書かれていた。


引継ぎ先を見れば――


その下は破れている。


さらに、


右端に小さく、


旧記録と同じとは限らない


とあった。


透は画像を拡大した。


「これ、弟さんの字ですか」


「たぶん」


「たぶん?」


「昔のノートを見比べたけど、似ている。ただ、全部が本人の字かは分からない」


透は、


「本人の字」


という言葉にすぐ飛びつかなかった。


似ている。


それだけだ。


写真を保存した。


「他には?」


「ない」


「じゃあ、僕の方も一つ」


透は、


旧資料引継一覧の画面を撮った。


「現在の会社に、旧資料の保管場所が残っているみたいです」


女はすぐに返した。


「そこに行く?」


「まだ行きません」


「どうして?」


「そこが何なのか、先に確認したいです」


「住所はある?」


「あります」


「じゃあ、行って見ればいいんじゃない?」


透は少し考えた。


以前なら、


すぐに行っていた。


場所を見れば何か分かると思っていた。


けれど、


今は違う。


場所を見ることと、


その場所の意味を理解することは別だ。


「行く前に、資料の名前を確認します」


「分かった」


電話を切った。


透は検索を続けた。


保管室の名称。


旧会社名。


中間会社名。


移管年度。


すると、


古い社内規程の断片が見つかった。


その中に、


一行だけあった。


外部確認窓口に関する旧記録は、業務移管後も一定期間保存する。


透はその一行を読んだ。


「業務移管後も」。


つまり、


仕事が移った後も、


過去の記録が残る期間があった。


それなら、


弟が見ていた可能性がある。


ただし、


弟がそこを見た証拠ではない。


透はそこを分けた。


確認できたこと


・旧資料が保管されている。


・外部確認窓口の記録が含まれている。


・業務移管後も一定期間保存された。


まだ分からないこと


・弟が見たか。


・弟が何を探していたか。


・N―07が残っているか。


・古い使用名が残っているか。


・当時の担当者が記録されているか。


透は、


最後の項目を見つめた。


当時の担当者。


そこに名前があれば、


また同じ問題が起こる。


名前を見つけた瞬間、


その人物を探したくなる。


しかし、


その名前が担当者本人を示すとは限らない。


役職名かもしれない。


窓口名かもしれない。


引継ぎ時の記録上の担当名かもしれない。


透は紙の端に、


以前から使っている言葉を書いた。


名前 ≠ 人


その下に、


新しく一つ。


担当記録 ≠ 現在の担当者


書き終えたところで、


女からもう一度メッセージが来た。


弟のノートに、もう一つありました。


写真だった。


今度は、


破れた紙の裏側。


薄い文字が残っていた。


透は拡大した。


そこには、


一行だけあった。


「引継ぎ先は、受け取ったものをそのまま持っているとは限らない。」


透はしばらく画面を見ていた。


これは、


かなり重要な言葉に見える。


だが、


重要に見えることと、


意味が確定することは違う。


記録を受け取らなかったのか。


受け取った後に整理したのか。


保存期間が終わったのか。


形式を変えたのか。


あるいは、


仕事だけを引き継いで、


記録は別の場所に残したのか。


どれもあり得る。


透は返信した。


明日、保管室についてもう少し調べます。


女から、


私も調べる。


と返ってきた。


透はスマートフォンを置いた。


窓の外は暗くなっていた。


机の上には、


三つの紙が並んでいる。


一枚目。


引継ぎ元


二枚目。


引継ぎ先


三枚目。


何が移ったのか


その三枚を見ながら、


透は気づいた。


これまで自分たちは、


「どこに行ったのか」


を探していた。


人がどこに行ったのか。


名前がどこに行ったのか。


記録がどこに行ったのか。


けれど、


もしかすると、


最初から問い方が違っていた。


人が移ったのではない。


仕事が移った。


記録が残った。


名前が残った。


そして、


それぞれが別々の場所に分かれた。


透は、


四枚目の紙を取り出した。


そこに、


新しい問いを書いた。


「分かれたものは、どこにあるのか。」


その問いの下には、


まだ何も書かなかった。


答えを急ぐ必要はない。


明日は、


旧資料保管室について調べる。


そこに何が残っているのか。


それだけを確認する。


誰がいるのかは、


その後でいい。


あるいは、


最後まで分からないかもしれない。


透は、


そう思いながら、


机の上の資料を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。