第五百六十八章 認めるということ
三日目の会談は、前日よりも静かに始まった。
人類側から提出された資料は、机の端にまとめられている。
塔側もいくつかの記録を持ってきていた。
しかし、昨日までと違って、誰も最初から資料を開こうとはしなかった。
しばらくして、人類側の代表が口を開いた。
「今日は、過去について話したいと思います」
塔の二人は黙って頷いた。
「私たちは、これまでの調査で、かなり多くのことを知りました」
彼は一度、透を見る。
「そして、認めなければならないこともあります」
主戦派の代表者が静かに尋ねる。
「何ですか?」
「私たちの祖先が、あなた方との約束を守れなかったことです」
部屋の空気が少し変わった。
人類側の代表者は続けた。
「当時の人間たちが何を考えていたのか。全員が同じ考えだったのか。それについて、私たちは断言できません」
「しかし、結果として約束は破られた」
「はい」
短い返事だった。
「技術は本来、双方が共同で扱うことになっていました」
平和派の代表者が言う。
「それが、人類側で広がった」
「はい」
「そして軍事利用された」
「はい」
「その結果、組織そのものが崩壊した」
人類側の代表者は黙って頷いた。
透は口を挟まなかった。
主戦派の代表者が言った。
「私たちが一番問題にしているのは、そこです」
人類側の代表者は顔を上げる。
「分かっています」
「私たちは長い間、あなた方が意図的に連絡を絶ったと思っていました」
「実際には、そうではなかった」
「今は、そう理解しています」
主戦派の代表者は透を見る。
「少なくとも、あなたが調査した記録からは、そう判断するしかありません」
透は小さく頷いた。
人類側の代表者はしばらく黙った。
そして、椅子から立ち上がった。
「それでも」
彼は塔の二人に向かって頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
部屋が静まり返った。
「過去の人間たちが、どのような事情を抱えていたのかは分かりません」
彼は続ける。
「ですが、結果としてあなた方との約束を壊し、多くの人間を戦争に巻き込み、あなた方との連絡も失いました」
頭を下げたまま、彼は言った。
「そのことについて、人類側として謝罪します」
誰もすぐには答えなかった。
主戦派の代表者は、じっと彼を見ていた。
平和派の代表者も同じだった。
やがて、平和派の代表者が言う。
「顔を上げてください」
人類側の代表者が顔を上げる。
「あなた自身が、その時代にいたわけではありません」
「はい」
「私たちも、それは分かっています」
主戦派の代表者も、少し遅れて口を開いた。
「謝罪を受け取ります」
その言葉に、人類側の代表者がわずかに表情を緩めた。
しかし、主戦派の代表者は続けた。
「ただし、謝罪を受け取ったからといって、過去が消えるわけではありません」
「分かっています」
「そして、私たちも過去の判断をすべて正当化するつもりはありません」
人類側の代表者が少し驚いた。
主戦派の代表者は続ける。
「私たちは、あなた方からの連絡が途絶えたあと、あなた方を疑いました」
「はい」
「人類が技術を独占したのではないかと思った」
「はい」
「透が捕らえられた可能性も考えた」
透は黙っていた。
「それは、結果的には間違っていました」
主戦派の代表者は、はっきりと言った。
「だから、私たちにも訂正すべき判断があります」
誰も何も言わなかった。
しばらくして、透が初めて口を開いた。
「それでいいと思います」
全員が透を見る。
「過去に起きたことを、全部なかったことにする必要はありません」
透は静かに言った。
「間違っていたなら、間違っていたと認めればいい」
「そして?」
「その後をどうするかは、今いる人たちが決めればいい」
塔の二人は、黙って透を見た。
人類側の代表者も、しばらく考えていた。
やがて彼は、机の上に置かれた資料へ視線を落とした。
「では、次の話をしたいと思います」
「何についてですか?」
「これからです」
その一言で、会談の空気が少し変わった。
過去の確認は終わっていない。
しかし、話はすでに次へ進み始めていた。
人類側の代表者が言う。
「私たちは、今もこの技術を使っています」
塔側は黙っている。
「そして、今の人類社会では、この技術を簡単に捨てることもできません」
平和派の代表者が頷いた。
「それは理解しています」
「ただ、問題があります」
人類側の代表者が一枚の資料を取り出した。
「透が持ってきた装置です」
部屋の全員の視線が、そこへ集まった。
「この装置がなければ、現在の技術を安定して運用することが難しい」
透は何も言わなかった。
人類側の代表者は続ける。
「だから、私たちは一つお願いがあります」
塔の二人が顔を上げた。
「あなた方が使っている、この装置と同じものを作るための材料を」
そこで一度、言葉が止まった。
「私たちに提供してもらえないでしょうか」
部屋が静かになった。
主戦派の代表者は、すぐには答えなかった。
平和派の代表者も考えている。
透は二人の表情を見ていた。
まだ、答えは出ていない。
ただ、ようやく話すべき問題が、目の前に現れた。
会談は、まだ終わらない。
そして今度は、過去ではなく、これからの話だった。




