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嘘の向こう側  作者: 亀


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第五百六十六章 初めて向き合う

部屋の中には、しばらく誰も話さなかった。


人類側の代表者たちも、塔から来た二人の代表者たちも、互いの顔を見ている。


これまで、双方は長い間、記録や資料を通してしか相手を知らなかった。


今は違う。


同じ部屋にいる。


声も聞こえる。


表情も見える。


透は、少し離れた場所に座っていた。


彼は最初に口を開かなかった。


今日の会談は、自分が説明するためだけのものではない。


ここにいる人たちが、自分自身で相手を見るための時間だった。


やがて、人類側の代表が立ち上がった。


「まずは、遠いところから来ていただいたことに感謝します」


塔の代表者の一人が、静かに頷いた。


「こちらこそ」


その声は、透が覚えているものとほとんど変わっていなかった。


もう一人の代表者も続ける。


「私たちも、こうして人類と直接話すことになるとは思っていませんでした」


人類側の一人が苦笑した。


「私たちも同じです」


それだけだった。


だが、その短い言葉で、部屋の空気が少しだけ柔らかくなった。


主戦派の代表者が人類側を見る。


「先ほどまで、あなた方の世界を見ていました」


「どうでしたか?」


「複雑でした」


人類側の代表者が少し驚いた顔をする。


「悪い意味ですか?」


「そうではありません」


彼は少し考えた。


「軍事施設もありました。武器もありました。技術を利用している場所もありました」


「はい」


「しかし、それだけではありませんでした」


主戦派の代表者は続けた。


「病院も見ました。水を作っている施設も見ました。普通の家も見ました」


人類側は黙って聞いていた。


「私たちは、あなた方がどのような世界を作ったのかを知りたかった」


彼は透を見る。


「少なくとも、私が想像していた世界とは違いました」


透は何も答えなかった。


それを聞いて、もう一人の代表者が小さく笑った。


「私の場合は、逆でした」


「逆?」


「想像していたより、普通でした」


人類側から、わずかに笑い声が漏れた。


「普通、ですか」


「はい」


彼は頷いた。


「朝になれば人が起きて、仕事へ行く。食事をして、家に帰る。病院には患者がいて、学校には子供がいる」


少し間を置いてから、彼は言った。


「技術が大きく変わっても、人間そのものはそれほど変わらないのかもしれません」


誰も否定しなかった。


透は二人の顔を見た。


昔から、二人の考え方は違っていた。


今も変わっていない。


それが少しだけ懐かしかった。


人類側の代表者が透を見る。


「あなたは、ずっとこの世界で生きていたんですね」


「はい」


「記憶を失った状態で?」


「長い間は、そうでした」


「それでも、最後には戻った」


「戻ったというより、思い出したという方が近いと思います」


「違いがありますか?」


透は少し考えた。


「あると思います」


だが、それ以上は説明しなかった。


塔の代表者の一人が、透に向き直った。


「私たちには、まだ信じられません」


「何がですか?」


「あなたがここにいることです」


透は少し笑った。


「僕も、まだ不思議ですよ」


その答えに、二人の代表者が顔を見合わせた。


そして、昔からの知り合いに向けるような表情になった。


「昔は、もっと無愛想でした」


「そうだったかな」


「そうでした」


もう一人が言った。


「何かを聞いても、必要なことしか答えなかった」


「今もあまり変わっていないと思います」


「それは変わっていませんね」


今度は、はっきりと笑い声が起きた。


人類側の代表者たちは、その様子を静かに見ていた。


そこには、これまで記録からしか見えなかった存在がいた。


敵でも味方でもない。


ただ、長い時間を隔てて再会した者たちだった。


しばらくして、人類側の代表者が言った。


「私たちは、過去についてすべて説明できるわけではありません」


塔の二人は黙って聞く。


「先ほど透から聞いた記録についても、私たち自身が経験したことではありません」


「分かっています」


平和派の代表者が答えた。


「私たちも同じです。あなた方の過去を直接知っているわけではありません」


その言葉を聞いて、人類側の代表者は少し安心したようだった。


「それなら、今日はそれでいいのかもしれません」


「何がですか?」


「すぐに結論を出さないことです」


部屋に再び静かな時間が流れた。


誰かが時計を見る。


長い会談になると思っていた。


しかし、実際にはまだ、互いのことを知るだけで精一杯だった。


人類側の代表者が立ち上がった。


「今日は、ここまでにしましょう」


塔の二人も頷いた。


「はい」


「また話しましょう」


それは正式な合意ではなかった。


約束と呼ぶほど重いものでもない。


ただ、もう一度話すための言葉だった。


透は二人を見送った。


二人が部屋を出る直前、片方が振り返った。


「透」


「はい」


「次は、もっと昔の話をしましょう」


透は少しだけ笑った。


「覚えている範囲なら」


「それで十分です」


扉が閉じた。


部屋に残った人類側の代表者たちは、しばらく何も言わなかった。


やがて、その一人が小さく息を吐く。


「本当に、来たんですね」


透は答えた。


「はい」


窓の外には、遠い空が見えていた。


これまで人類が見上げるだけだった空の向こうに、今は確かに誰かがいる。


そして、その誰かは、すでにこちらを見ていた。

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