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嘘の向こう側  作者: 亀


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第五百六十五章 戻された装置

塔との通信を終えた翌日。


透は、研究施設の地下へ向かった。


そこには、あの装置が置かれていた。


かつては透が塔との通信や帰還に使っていた装置。


その後、人間の歴史の中を長い時間流れ、いつしか「安定化弁」と呼ばれるようになったものだった。


今は、研究施設の設備に接続されている。


しかし、塔が太陽系へ接近してから、装置の状態は大きく変化していた。


本来の機能が少しずつ戻り始めたことで、人類側の新しい技術を安定させる機能が弱くなっていた。


透は装置の前に立った。


研究員が近づいてくる。


「これから、どうしますか?」


「元に戻します」


「元に?」


「人類側の設備に」


研究員は少し驚いた。


「塔との通信には、もう使わないんですか?」


「必要な通信は終わりました」


透は装置を見た。


「それに、この装置がないと、今の設備が安定しません」


研究員は黙った。


透は装置の接続状態を確認した。


「これを返します」


装置は、再び人類側の設備に接続された。


しばらくして、周囲の計測値が変化する。


不安定だった数値が、少しずつ落ち着いていった。


研究員が画面を確認する。


「安定しました」


「よかった」


透はそれだけ言った。


研究員は装置を見る。


「不思議ですね」


「何がですか?」


「これが、もともとあなたの装置だったんですよね」


「はい」


「それなのに、今は人間の設備を動かしている」


透は少し考えた。


「長い時間が経ったので」


それ以上は言わなかった。


装置は、もう透のものではなかった。


少なくとも、今は人間の世界で使われている。


透は地下室を出た。


その日の午後。


塔の代表二人が視察を終えた。


最初に地球へ来たときよりも、二人の表情は落ち着いていた。


施設の外で待っていた透を見つけると、主和派の代表が足を止めた。


「透」


「お疲れさまでした」


「お前は相変わらずだな」


「何がですか?」


「こちらが長い旅をしてきたというのに、普通に挨拶する」


透は笑った。


「何と言えばいいんですか?」


主戦派の代表も笑った。


「確かに」


三人はしばらく顔を見合わせた。


その後、主和派の代表が透の顔をじっと見る。


「やはり、不思議だ」


「何がですか?」


「目の前にいるのは、お前だ」


「はい」


「だが、人間でもある」


透は少し笑った。


「今は人間です」


「そう言われても、まだ慣れない」


主戦派の代表も頷いた。


「我々は、お前が長い間、塔のどこかで調査を続けていると思っていた」


「私も、まさか人間として一生を過ごすとは思いませんでした」


「一生……」


主和派の代表がその言葉を繰り返した。


「その間、我々はお前がいないことを何度も話した」


透は少し黙った。


「そうですか」


「心配していた」


主戦派の代表が言った。


「かなりな」


透は二人を見た。


「すみません」


「お前が謝ることではない」


主戦派は首を振った。


「だが、こうして会えたのだから、それでいい」


三人は施設の横にある小さな休憩室へ移動した。


飲み物が用意された。


透は椅子に座る。


二人の代表も向かいに座った。


しばらく、昔の話をした。


塔での仕事。


以前の調査。


透がまだ塔にいた頃の失敗。


二人の意見が昔から合わなかったこと。


話しているうちに、透は何度か笑った。


記憶のすべてが戻っているわけではない。


それでも、目の前の二人と過ごした時間があったことだけは分かる。


「変な感じですね」


透が言った。


「何が?」


「長い時間が経ったのに、話していると昔とあまり変わらない」


主和派の代表が笑う。


「我々もそう思っている」


主戦派の代表が透を見る。


「ただ、一つだけ違う」


「何ですか?」


「お前は人間のことを、我々よりよく知っている」


透は少し考えた。


「そうかもしれません」


「だから、聞きたい」


主戦派の代表が言った。


「今の人間を見て、お前はどう思う?」


透は窓の外を見た。


施設の外では、人が歩いている。


車が通る。


誰かが仕事をしている。


「普通だと思います」


二人の代表が黙った。


「普通?」


「はい」


透は答えた。


「良い人もいます」


「悪い人もいます」


「何も考えていない人もいます」


「何かを守ろうとしている人もいます」


「それぞれ違います」


主和派の代表が小さく頷いた。


「なるほど」


主戦派の代表は少し考えてから言った。


「塔にいた頃のお前なら、もっと簡単に答えていたかもしれない」


透は笑った。


「人間として長く生きたので」


その言葉に、二人も笑った。


夕方。


透は二人を人類側の会議室へ案内した。


「ここで?」


主和派の代表が尋ねる。


「はい」


「何をする?」


「人類側の代表と会います」


主戦派の代表が透を見る。


「我々だけで?」


「最初は、全員で話した方がいいと思います」


「お前が仲介するのか?」


「少しだけ」


透は扉の前で立ち止まった。


「その後は、皆さんで話してください」


二人の代表が頷いた。


透が扉を開ける。


会議室の中には、人類側の代表者たちがすでに集まっていた。


政府関係者。


研究者。


技術担当者。


そして、現在の人類社会を代表する数人。


全員が立ち上がった。


塔の二人の代表も歩み入る。


一つの部屋に、二つの世界の代表が初めて揃った。


透は中央に立った。


そして、二人を人類側へ紹介した。


「こちらが、塔の代表です」


続いて、人類側の代表を二人に紹介する。


それが終わると、透は一歩下がった。


もう自分がすべてを説明する必要はない。


今日ここに集まったのは、過去を決めるためではない。


まず、互いの顔を見るためだった。


主戦派の代表が、人類側を見渡した。


主和派の代表も同じように見た。


人類側も、二人を見ていた。


誰もすぐには話さなかった。


やがて、人類側の代表が口を開いた。


「お会いできて、よかったです」


主和派の代表が答えた。


「こちらこそ」


主戦派の代表も短く頷いた。


透は少し離れた場所で、その様子を見ていた。


長い時間をかけて、ようやくここまで来た。


そして今。


二つの世界は、初めて同じ場所で向き合っていた。

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