↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

564/590

第五百六十四章 最初の会談

会談の日。


人類側は、都市中心部から少し離れた旧政府施設を会場に選んだ。


建物そのものは古かった。


戦争以前から残っている部分もある。


一方で、内部の設備は何度も改修されていた。


塔の代表たちは、建物の前で立ち止まった。


主戦派の代表が周囲を見る。


「ここが、人類側の代表が集まる場所か」


「現在はそうです」


案内役が答えた。


主和派の代表は建物を見上げた。


「古い」


「何度も使われています」


「壊れなかったのか?」


「壊れた部分もあります」


案内役は答えた。


「そのたびに修理しました」


主和派の代表は、それ以上聞かなかった。


扉が開く。


透が先に入る。


その後ろを二人の代表が続いた。


会議室には、人類側の代表がすでに集まっていた。


研究者。


政府関係者。


軍関係者。


技術管理部門の責任者。


そして、現在の人類社会を代表する立場にある数人。


全員が同じ意見を持っているわけではない。


それは、塔の代表たちにもすぐに分かった。


主戦派の代表が席に着く。


主和派の代表も隣に座る。


透は少し離れた位置に座った。


最初に、人類側の代表が口を開いた。


「遠いところから来ていただき、ありがとうございます」


主戦派の代表は答えた。


「我々がここへ来た目的は、礼を受けることではない」


室内の空気が少し硬くなった。


「我々は、過去の記録について説明を受けた」


「そして、現在の人類について確認するために来た」


「その点については、理解しています」


人類側の代表が答える。


主戦派の代表は続けた。


「最初に確認したい」


「我々との約定を、人類側は知っているのか」


人類側の研究責任者が答えた。


「現在、完全な形で知っている者は多くありません」


「なぜだ」


「当時の組織が崩壊したからです」


「その後の記録も失われました」


主戦派は目を細めた。


「失われた?」


「はい」


「それでも技術は残った」


「そうです」


「約定は失われ、技術だけが残ったということか」


「結果としては、そうなります」


主戦派はしばらく黙った。


「それを都合のいい話だとは思わないのか」


人類側の代表が答えに迷った。


そのとき、別の人物が口を開いた。


「都合がいいかどうかは、判断できません」


研究者だった。


「我々は、祖先が何を考えていたのかをすべて知っているわけではありません」


「ただ、残された資料から分かる範囲では、戦争の後、この技術が生き残るために使われたことは確認できます」


主戦派が尋ねる。


「戦争を起こしたことについては?」


「否定できません」


研究者は答えた。


「技術が戦争に使われたことも」


「その結果、多くの人が死んだことも」


「すべて事実です」


主和派の代表が初めて口を開いた。


「では、あなたたちは、その過去をどう考えている?」


人類側は互いに顔を見た。


しばらくして、別の代表が答えた。


「私たちが決められることではないと思っています」


主戦派が聞く。


「なぜ?」


「自分たちが起こした戦争ではないからです」


「しかし、その技術を受け継いでいる」


「はい」


「ならば責任も受け継ぐべきではないのか」


室内が静かになった。


人類側の代表は少し考えてから答えた。


「責任という言葉の意味によります」


主戦派は黙って聞いた。


「祖先がしたことを、今生きている人間が同じように償うべきだという意味なら、私はそうは思いません」


「しかし」


代表は続けた。


「過去の結果によって現在の社会が成り立っている以上、その歴史を無視することもできません」


「だから、記録を残しています」


「そして、同じことを繰り返さないために研究しています」


主戦派は何も言わなかった。


主和派の代表が尋ねた。


「今の人類は、この技術を独占しているのか」


技術管理部門の責任者が答える。


「完全な意味では独占していません」


「しかし、すべての地域が自由に利用できるわけでもありません」


「なぜ?」


「技術の管理には資源が必要だからです」


「そして、軍事利用も残っている」


「はい」


「それを止めるつもりは?」


責任者は少し考えた。


「簡単ではありません」


「なぜ?」


「この技術を手放せば、軍事的に不利になると考える勢力が存在するからです」


主戦派の代表が初めて、少しだけ表情を変えた。


「やはり」


その一言だけだった。


主和派の代表は反対に、質問を続けた。


「では、軍事利用をなくせない理由は、技術そのものではない」


「人間同士の関係か」


「そうです」


「相手が持っているなら、自分たちも持たなければならない」


「そういう考え方があります」


主和派はしばらく黙っていた。


「我々が過去に見たものと、あまり変わっていない」


人類側の代表が答える。


「そうかもしれません」


「ただし」


研究者が続けた。


「現在の人類が全員、戦争を望んでいるわけではありません」


「それも理解している」


主和派が言った。


会議室の空気が少しだけ緩んだ。


しかし、主戦派の代表は資料を一枚取り出した。


「我々は、昨日の視察で軍事施設を見た」


「はい」


「技術が現在も兵器に使われている」


「事実です」


「ならば、我々がそれを問題にすることも理解してほしい」


人類側の代表は頷いた。


「理解します」


「我々は、約定を破った人類を許すと言っているわけではない」


「それも理解しています」


「だが、今ここにいる人間に、当時の人間と同じ責任があるとも考えていない」


その言葉に、会議室の何人かが顔を上げた。


主戦派の代表自身が、少しだけ言葉を止めた。


主和派の代表が横を見る。


「それが、あなたの結論なのか?」


主戦派は答えなかった。


しばらくして言った。


「まだ結論ではない」


「ならば、何を求めている?」


「確認だ」


主戦派は人類側を見る。


「現在の人類が、この技術をどう扱うつもりなのか」


「そして、我々との新しい関係を作る意思があるのか」


人類側の代表が答えた。


「あります」


即答だった。


「ただし、すべてを今日決めることはできません」


「分かっている」


主和派の代表が言った。


「我々も同じだ」


透はそのやり取りを聞いていた。


会談はまだ始まったばかりだった。


過去の説明はできる。


事実も並べられる。


しかし、今後どうするかについては、まだ何も決まっていない。


それでも。


少なくとも、両者は同じ部屋に座っている。


かつて途切れた約束について、直接話している。


それだけで、過去とは違っていた。


会議室の窓の外では、夕方の街に明かりが灯り始めていた。


主和派の代表が、その明かりを見ながら言った。


「今日はここまでにしよう」


主戦派も反対しなかった。


人類側の代表が立ち上がる。


「明日も続けます」


「そうしよう」


二人の代表が席を立った。


透は最後に部屋を出た。


廊下を歩きながら、主戦派の代表が透に声をかけた。


「透」


「はい」


「お前は、これからどうなると思う?」


透は少し考えた。


「分かりません」


主戦派は黙っていた。


「でも」


透は続けた。


「今日よりは、分からないことが減ったと思います」


主戦派は何も答えなかった。


ただ、少しだけ人間の街を振り返った。


そこには、夜の明かりが広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。