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嘘の向こう側  作者: 亀


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第五百六十二章 降りてくる者たち

塔の船が太陽系外縁に停止してから、二日が過ぎた。


地球側では、その間にいくつもの会議が開かれていた。


人類側の代表を誰にするのか。


どこで会談を行うのか。


塔の代表をどこまで人間社会に入れるのか。


そして、彼らに何を見せるのか。


意見は簡単にはまとまらなかった。


「こちらから選んだ場所だけを見せれば、視察の意味がなくなる」


透は会議の途中で言った。


向かい側に座っていた人物が透を見る。


「では、自由に行動させるのか?」


「それも危険です」


「だったら、どうする」


「行き先は事前に決める。ただし、見せるものはこちらで選ばない」


「矛盾していないか?」


「範囲を決めることと、内容を決めることは別です」


透は資料を机の上に置いた。


「彼らが何を見るかは、彼らに決めてもらえばいい」


会議室に沈黙が落ちた。


人間側にとっても、簡単な問題ではなかった。


塔の代表が人間の生活を見て、何を思うのか。


誰にも分からない。


だからこそ、人間側が先回りして答えを作ることはできなかった。


その日の夕方。


塔から新しい通信が入った。


「代表団の出発準備が完了した」


観測室の全員が画面を見る。


「人数は?」


「二名」


「主戦派代表が一名」


「主和派代表が一名」


透は静かに聞いていた。


「二人は同じ場所から来るのですか?」


「同じ船で移動する」


「意見は?」


「一致していない」


即答だった。


透は少しだけ笑った。


「そうですか」


「何か問題があるか」


「いいえ」


透は首を横に振った。


「その方が自然だと思います」


通信が切れた。


翌朝。


人類側の観測施設から、地球へ接近する小型船が確認された。


大きな船ではなかった。


太陽系外縁に停泊している本体から切り離された、小型の移動艇だった。


速度は人類の既存技術では説明できない。


しかし、地球側は迎撃しなかった。


事前に進路も速度も共有されていたからだ。


やがて、小型船は大気圏の手前で速度を落とした。


透は画面を見つめた。


その光景を見ながら、以前とは違う感覚を覚えていた。


昔の自分は、このような船に乗っていた。


塔から地球へ向かっていた。


しかし、今は地球側から、その船を見ている。


立場だけが逆になっていた。


小型船は指定された施設へ向かった。


着陸したのは、都市から離れた旧研究施設だった。


扉が開く。


最初に降りてきたのは、背の高い人物だった。


人間とほとんど変わらない姿をしている。


その後ろから、もう一人が降りてきた。


二人とも周囲を見回した。


しかし、表情は違っていた。


先に降りた人物は、施設そのものを注意深く観察している。


もう一人は、遠くの道路を走る車を見ていた。


透が近づく。


「お久しぶりです」


二人が透を見る。


主戦派の代表が言った。


「お前は、本当に透なのか」


「はい」


「記録上の姿とは違う」


「今は人間なので」


主戦派の代表は透をしばらく見た。


「人間として生きたのか」


「そうです」


「そして、人間として死んだ」


「はい」


代表は何も言わなかった。


隣にいた主和派の代表が口を開いた。


「それについては、後で聞こう」


主戦派の代表が振り返る。


「なぜ後だ?」


「今は我々が何を見に来たのかを忘れない方がいい」


二人の間に短い沈黙があった。


透はそれを見ていた。


やはり、簡単には意見がまとまらない。


施設の外へ出る。


風が吹いていた。


主和派の代表が空を見上げる。


「空気の成分は、我々の記録と大きく違わない」


「そうですね」


「この場所は、現在も使われているのか」


「一部だけです」


「では、現在の人間が暮らしている場所を見たい」


主戦派の代表が言った。


「その前に、研究施設を確認する」


主和派が振り返る。


「なぜ?」


「我々の技術が、現在どのように使われているか確認するためだ」


「それなら、研究施設だけでは分からない」


「技術そのものを見れば分かる」


「生活を見なければ、技術が何を支えているのか分からない」


二人はまた対立した。


透は口を挟まなかった。


どちらが正しいのかを決める必要はない。


ただ、二人とも違うものを見ようとしている。


人間側の案内役が近づいてきた。


「まず、施設内部をご案内します」


主戦派の代表が頷いた。


主和派の代表も続いた。


施設の中には、現在使われている設備が残っていた。


古いものもある。


新しいものもある。


一部の設備では、X-17の影響を受けた技術が使われている。


主戦派の代表は、装置を見ながら質問を続けた。


「この技術は、誰が管理している?」


「政府と複数の研究機関です」


「軍も使用しているのか」


「一部は使用しています」


その答えを聞いた瞬間、代表の表情が変わった。


「まだ軍事利用しているのか」


「完全に禁止されているわけではありません」


主戦派の代表は黙った。


主和派の代表は、別の装置を見ていた。


「これは?」


「浄水設備です」


「この技術を?」


「はい」


「どれくらいの地域で使われている?」


説明を聞く。


代表はしばらく黙っていた。


「つまり、この技術がなければ、現在の生活を維持できない地域もある」


「そうです」


「すべてではありません」


案内役が答える。


「代替技術もあります。ただ、効率や維持費の問題で、この技術に依存している地域もあります」


主和派の代表は頷いた。


その横で、主戦派の代表が言った。


「だからといって、過去の行為が消えるわけではない」


「消えません」


主和派は答えた。


「私も消えるとは言っていない」


二人の会話を、透は黙って聞いていた。


その日の視察は、夕方まで続いた。


研究施設。


エネルギー設備。


水処理施設。


そして、都市の外側にある居住区域。


塔の代表たちは、そこで初めて一般の人間を直接見た。


仕事から帰る人。


店を開けている人。


子供を連れて歩く人。


壊れた設備を修理している人。


特別な人物ではない。


ただ生活している人間たちだった。


主戦派の代表は、しばらく道路の向こうを見ていた。


「彼らは、我々が何者なのか知らない」


「そうですね」


「それでも普通に暮らしている」


透は答えなかった。


主和派の代表が、小さく言った。


「だから、見に来る必要があった」


主戦派は振り返った。


「まだ判断するには早い」


「分かっている」


「人間が過去に何をしたかは変わらない」


「分かっている」


「ならば、なぜそんなことを言う」


主和派の代表は、目の前の街を見た。


「まだ、現在を知らないからだ」


それ以上は言わなかった。


夜になった。


二人の代表は、人類側が用意した施設に戻った。


明日からは、さらに広い範囲を視察する予定になっている。


そして、その後には人類側との正式な会談が待っている。


透は施設の外に出た。


遠くの空を見上げる。


太陽系外縁には、塔の船がいる。


地球には、その代表がいる。


過去について怒る者と、現在を見ようとする者。


二人は同じ報告書を読んだ。


それでも、見ているものは違っている。


透は、まだ先のことを考えなかった。


ただ、明日になれば、また新しいものが見える。


それだけを知っていた。

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