第五百五十七章 太陽系の外縁
最初に異変を確認したのは、地上の研究施設ではなかった。
太陽系の外縁部を観測していた観測台から、緊急信号が送られてきた。
「未確認天体を検出」
担当者が画面を拡大する。
最初は、遠方を通過する大型天体だと思われた。
しかし、通常の天体とは動きが違っていた。
一定の軌道を進んでいるわけではない。
太陽系の外側から、内側へ向かっている。
しかも、その速度が明らかに速かった。
「位置を再計算してください」
「すでに三回やっています」
別の観測員が答えた。
「結果は同じです」
画面上の点が移動する。
太陽系の外縁。
そのさらに外側。
そこに、それまで存在を確認できなかった巨大な物体が現れていた。
観測員が息を呑む。
「これ……自然天体じゃない」
「まだ断定するな」
「でも、減速していません」
別の画面に速度が表示される。
数字が変化していく。
「地球方向へ向かっています」
その報告は、すぐに上層部へ送られた。
同じ頃。
研究施設では、X-17が突然反応した。
透が装置の前に立っている。
表示が大きく変化した。
「……来た」
研究者が振り返る。
「何が?」
透は答えなかった。
装置の内部から、低い振動音が響いている。
昨日までとは明らかに違う。
X-17は、長い間眠っていた機能を次々に起動させていた。
通信機能。
航行機能。
そして、外部との接続を確認するための機能。
同時に、研究施設の別の装置が警告を出した。
「出力が上がっています!」
「安定化系統を確認!」
「正常です!」
「では、なぜ変動している?」
研究者たちが一斉に端末を見る。
技術システム全体の出力が揺れていた。
これまでX-17によって抑えられていた微細な変動が、再び表面化している。
透はその画面を見ていた。
「X-17が、元の状態に戻り始めています」
「だから、技術も不安定になる?」
「はい」
「なぜ?」
透は一瞬だけ考えた。
「X-17が、安定化のために使われていた状態から離れているからです」
それ以上は説明しなかった。
人間側の技術がX-17を必要としている。
しかし、X-17はもともと人間の技術を安定させるために作られたものではない。
今まで人間が利用していたのは、本来の機能の一部ではなかった。
その本来の機能が、戻ろうとしている。
そして、そのきっかけになっているものがある。
透は空を見た。
まだ何も見えない。
しかし、装置はすでに反応している。
そのとき、研究施設の通信端末が鳴った。
「観測台から緊急報告です」
担当者が画面を開く。
「太陽系外縁部で未確認天体を確認」
透の目が止まった。
「現在、地球方向へ接近中」
画面に観測データが表示される。
距離。
速度。
進行方向。
複数の観測台から送られてきたデータが重なっていく。
「人間の観測機器で確認できる大きさです」
「速度は?」
「非常に速いです」
「自然天体ではないのか?」
「まだ確定していません」
その瞬間、別の通信が入った。
「統治機構からです」
「こちらにも同じ情報が届いているそうです」
透は画面を見つめた。
観測データと、X-17の反応。
二つが一致している。
そして、装置に表示された信号の特徴も変わった。
透には、それが分かった。
「……間違いない」
研究者が聞く。
「何がですか」
透は画面から目を離さなかった。
「塔です」
誰も声を出さなかった。
透は続けた。
「塔が太陽系に入ってきた」
遠い場所から来た何かが、すでに太陽系の外縁を越えている。
そして、地球へ向かっている。
人間の観測台は、その姿を捉えた。
X-17も、その存在を感じ取った。
長い時間の後。
塔と人類の距離が、再び縮まり始めていた。




