↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

555/590

第五百五十五章 受け継がれたもの

会議は、その日のうちには終わらなかった。


塔との約束。


戦争。


技術の継承。


そして、現在の社会。


一つの問題を話すたびに、別の問題が現れた。


統治側の代表は、机の上に並べられた資料を見ていた。


「祖先が何をしたのかは、もう分かっています」


「はい」


「では、私たちは何を引き受けるべきなのでしょう」


透はしばらく考えた。


「技術を引き継いだこと」


「それだけですか?」


「それだけではありません」


透は資料の一つを指した。


「あなたたちは、この技術によって作られた社会も引き継いでいます」


代表は黙って聞いている。


「それには、良い部分も悪い部分もある」


「しかし、それを作ったのはあなたたちではありません」


透は淡々と続けた。


「だから、祖先と同じ判断をしたと考える必要はないと思います」


「では、過去を切り離していい?」


「そういう意味ではありません」


透は首を横に振った。


「過去を知ることと、過去の人間になることは違います」


その言葉を聞いて、代表は少し考えた。


「……知った以上、これから何をするかは自分たちで決めろ、ということですか」


「そうです」


「塔との約束についても?」


「はい」


「過去に破られた約束を、今の人間が改めて守るのか」


「それも、あなたたちが決めることです」


研究者の一人が資料を閉じた。


「しかし、塔から見れば、私たちは約束を破った人類の子孫です」


「そうでしょう」


「それでも、塔と話すことができると思いますか」


透は答えなかった。


その可能性について、確かなことは言えない。


塔が何を考えているのか。


どの程度の情報を持っているのか。


透にはまだ分からない。


ただ、一つだけ分かっていることがある。


「話す前に、隠さないことです」


透は言った。


「私たちが何をしたのか」


「何を知らなかったのか」


「そして、今の人間が何をしているのか」


代表は頷いた。


「分かりました」


会議室を出ると、外の廊下には数人の研究者が待っていた。


その中の一人が透に近づいた。


「あなたの話を聞いて、一つ気になったことがあります」


「何ですか」


「この技術が戦後の社会を救ったという話です」


透は黙って聞いた。


「私たちは、これまでそのことを当たり前だと思っていました」


「戦争で失われたものを取り戻すために、この技術を使った」


「それが正しいことなのか、悪いことなのか、今まで深く考えたことはありません」


透はその研究者を見た。


「考える必要がなかったのかもしれません」


「なぜ?」


「目の前で人が死んでいたからです」


研究者は黙った。


「エネルギーがなければ生活できない」


「設備が動かなければ食料も作れない」


「医療も止まる」


「だから、使った」


透は言った。


「人間が生きるために使った。それだけです」


研究者はしばらく考えた。


「でも、それが塔との約束に反していた」


「はい」


「……難しいですね」


「簡単ではないと思います」


透はそれ以上説明しなかった。


廊下の窓から外を見る。


街には夜の明かりが増えていた。


それらの明かりの多くが、かつてのX-17によって安定化された技術の上に成り立っている。


誰も、そのことを知らない。


そして、その技術を作った人間たちも、もういない。


残っているのは、生活だけだった。


透はその光景を見ながら、ふと自分の過去を思い出した。


自分が人間として生きていた頃。


この社会とは違う場所だった。


それでも、人間は同じように働き、食べ、眠り、誰かを好きになり、誰かを嫌いになり、何かを守ろうとしていた。


そして、死んだ。


その後、自分の遺した装置が別の人間の手に渡った。


その人間たちは、装置の意味を知らなかった。


それでも、それを使って社会を立て直した。


透は少しだけ目を閉じた。


「……不思議ですね」


隣にいた研究者が聞き返した。


「何がですか?」


「何でもありません」


透は目を開けた。


そのとき、遠くで警報が鳴った。


短い警告音だった。


研究者たちが一斉に端末を見る。


「また異常です」


「どこですか?」


「複数の施設です」


透は何も言わず、装置のある方向を見た。


もう一度、警報が鳴った。


今度は少し長かった。


研究者が走り出す。


透も後を追った。


装置の前まで戻ると、表示されていた数値がさらに変化していた。


昨日よりも明らかに小さい。


透は画面を見つめた。


塔が近づいている。


それだけは、もう疑いようがなかった。


しかし、どの程度近いのか。


いつ到達するのか。


何をしに来るのか。


そこまでは分からない。


透は装置に手を触れた。


かつて自分が塔へ帰るために使っていたものだった。


長い時間、人間の世界に残されていた。


そして今、ようやく本来の役割を思い出し始めている。


透は静かに言った。


「もうすぐだ」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


ただ、過去について調べる時間は終わった。


これからは、向こうから来るものに答えなければならない。


透は表示され続ける数字を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。