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嘘の向こう側  作者: 亀


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第四十二章 分けて見る

翌朝、透は机の上に紙を五枚並べた。


一枚目。


弟が南区へ行ったこと。


二枚目。


N―07。


三枚目。


一つ目の名前。


四枚目。


二つ目の名前。


五枚目。


「所在確認:不要」。


それぞれの紙の間には、何も置かなかった。


昨日、女と話したことを思い出していた。


見つけた情報を一本の線につなげる。


その方が分かりやすい。


だが、分かりやすいことと、正しいことは同じではない。


透は五枚の紙を見ながら、一つずつ確認した。


弟は南区へ行った。


これは事実だった。


少なくとも、複数の記録と元同僚の話が一致している。


N―07が存在した。


これも事実。


しかし、それが南区を意味するとは限らない。


二つの名前が存在した。


これも事実。


しかし、その二人が弟と関係しているとは限らない。


「所在確認:不要」という記録が存在した。


これも事実。


しかし、弟本人が申告したのかどうかは確認できていない。


透は一枚目の紙に小さく丸をつけた。


次に二枚目。


丸。


三枚目。


丸。


四枚目。


丸。


五枚目。


丸。


全部に事実がある。


問題は、その間にある線だった。


透は鉛筆を取り出した。


一枚目と二枚目をつなごうとして、手を止めた。


まだ分からない。


二枚目と三枚目。


これも分からない。


三枚目と四枚目。


同じN―07が書かれている。


それでも、つながっているとは限らない。


透は線を引く代わりに、


?


と書いた。


その時、電話が鳴った。


女だった。


「今、少し話せますか」


「はい」


「昨日の後、もう一度ノートを見ました」


「何かありましたか」


「日付がありました」


透は姿勢を正した。


「どの日付ですか」


「二つ目の名前の近くです」


「いつ?」


女が日付を伝えた。


透は手元の資料を確認した。


弟が南区へ行った日の、八日前だった。


「その日、弟さんは何をしていたか分かりますか」


「会社の勤務記録では、普通に出勤しています」


「それ以外は?」


「分かりません」


「名前の横に何か書いてありますか」


「ありません」


透は考えた。


「その日付を、弟さんは他にも使っていますか」


「少し待ってください」


電話の向こうで紙をめくる音がした。


しばらくして、


「あります」


「どこに?」


「古い予定表です」


「何の予定?」


「何も書いてありません」


「日付だけ?」


「はい」


女の声が少し低くなった。


「ただ、その日のところだけ、線が引かれています」


透はメモを取った。


「横に何か?」


「ありません」


「じゃあ、その日付だけを調べてみましょう」


「はい」


電話を切った後、透は五枚の紙を片付けた。


代わりに新しい紙を出した。


そこに日付を書いた。


南区へ行く八日前。


そして、その下に、


二つ目の名前


と書いた。


それだけだった。


午後、透は元同僚に会った。


「また来ましたか」


「一つ確認したいことがあります」


「何ですか」


透は日付だけを伝えた。


「この日、弟さんと一緒にいましたか」


男は考えた。


「……一緒ではありません」


「会社では?」


「会っています」


「話しましたか」


「少し」


「何を?」


「仕事の話です」


透は黙った。


男は続けた。


「ただ、帰る前に弟が管理室の方を見ていました」


「管理室?」


「はい」


「何か言いましたか」


「『今日はいるかな』と」


透は聞き返した。


「誰が?」


「それは聞いていません」


「何を探しているようでしたか」


「分かりません」


「その後、弟は管理室へ行きましたか」


「見ていません」


透は少し考えた。


「その日に、あなたは管理室へ行きましたか」


男の表情が変わった。


ほんのわずかだった。


「……行きました」


「何時頃?」


「夕方です」


「何のために?」


「書類を取りに」


「どんな書類?」


男は答えなかった。


透は待った。


やがて男が言った。


「弟さんから頼まれていたものです」


「弟さんに頼まれた?」


「はい」


「何を?」


「封筒です」


透は黙った。


「その封筒は、まだ持っていますか」


「ありません」


「誰に渡したんですか」


男は視線を逸らした。


「覚えていません」


「覚えていない?」


「はい」


透はそれ以上追及しなかった。


少しして男が言った。


「ただ、一つだけ覚えています」


「何ですか」


「封筒には名前が二つありました」


透の指が止まった。


「二つ?」


「はい」


「二つの名前は、別々でしたか」


「違う名前でした」


「N―07は?」


男は答えなかった。


透は質問を変えた。


「その封筒を渡した時、誰かに会いましたか」


「会いました」


「誰ですか」


「知りません」


「顔は?」


「覚えていません」


「男?」


「……分かりません」


「声は?」


男はしばらく黙った。


「ほとんど話していません」


透は立ち上がらなかった。


ここで何かを決める必要はない。


ただ、記録する。


弟は八日前に、誰かを探していた可能性がある。


元同僚は、その日に管理室へ行った。


封筒には二つの名前があった。


そして、その封筒は今はない。


それだけだ。


帰り道、透は女に電話した。


「一つ分かりました」


「何が?」


「二つ目の名前は、弟さんが南区へ行く八日前から記録されていました」


女は黙った。


「でも、まだ南区とはつながりません」


「弟は、その日に誰かを探していたかもしれない」


「はい」


「誰を?」


「分かりません」


女はしばらく黙ってから言った。


「弟は、南区へ行く前に誰かを探していた」


「そうですね」


「じゃあ、その人を見つければ」


「それも、まだ分かりません」


女は少し笑った。


「また『分からない』ですね」


「はい」


「でも、前より嫌じゃなくなりました」


透も少し笑った。


「僕もです」


電話を切った。


駅の前で、透は立ち止まった。


ふと、昨日の言葉が頭に浮かんだ。


同じ番号は、同じ意味を保証しない。


ならば、


同じ名前も。


同じ日付も。


同じ場所も。


同じ人間も。


すべて、一度分けて考える必要がある。


透はスマートフォンを取り出した。


白石からメッセージが来ていた。


最近、昔の管理室について調べていますか。


透は画面を見た。


以前なら、すぐに何を調べているか答えていただろう。


だが、今日は違った。


透は短く返信した。


少しだけ。


それだけ送った。


何を見つけたのか。


誰に会ったのか。


どんな名前を知ったのか。


書かなかった。


送信した後、透はスマートフォンをポケットに入れた。


情報を隠したわけではない。


誰かを騙したわけでもない。


ただ、


まだ自分の中で整理できていない情報を、


そのまま他人の判断に渡さなかった。


そのことが、以前より自然にできるようになっていた。


そしてその夜。


女から一枚の写真が届いた。


弟の古い予定表だった。


南区へ行く八日前の日付。


そこには、一本の線が引かれている。


その横に、小さな文字があった。


透は画像を拡大した。


そこには、


「見るだけ」


と書かれていた。


誰を見るのか。


何を見るのか。


それについては、何も書かれていなかった。

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