第344章 なくなった封筒
封筒がなくなってから、三日が経った。
海は誰かが持っていったのか、それとも別の場所へ移されたのかを調べなかった。
記録には、封筒が最後に確認された時間だけが残っていた。
湊は少し気にしていた。
「本当に探さなくていいんですか?」
「誰かが必要として持っていった可能性があります」
「勝手に?」
「そうかもしれません」
「それでも?」
海は記録を見た。
「中身を見たのかどうかも分かりません」
「もし見ていたら?」
「それも分かりません」
湊はしばらく黙った。
「前なら、調べていた気がします」
「そうですね」
「今は違う?」
「必要な人がいるなら、向こうから来ると思います」
その日の午後、一人の男性がやって来た。
「昨日、ここに封筒を置いた人について聞きたい」
海は顔を上げた。
「どの封筒ですか?」
男性は少し迷った。
「『生きている』と書いてあるものです」
海はすぐには答えなかった。
「どうして、その封筒を知っているんですか?」
「見ました」
「どこで?」
男性は答えなかった。
「それは私のものです」
海は黙った。
「返してください」
「今は手元にありません」
「誰かが持っていった?」
「分かりません」
男性はため息をついた。
「中を見ましたか?」
「私は見ました」
「何が書いてありました?」
海は記録を確認した。
「『生きている』と書かれていました」
男性は目を伏せた。
「やっぱり……」
「あなたが書いたんですか?」
「違います」
「誰が書いたか知っていますか?」
男性は答えなかった。
しばらくして、
「昔、私が一度だけ聞いた言葉です」
と言った。
「誰から?」
「それは言えません」
「では、どうして封筒を探しているんですか?」
男性は椅子に座った。
「その言葉が、誰かに向けられたものだったのか知りたいんです」
「分かると思いますか?」
「分かりません」
男性は笑った。
「だから、見つけたいんです」
海は記録を開いた。
「もし見つかったら、何をしますか?」
「返します」
「誰に?」
男性は黙った。
「……分かりません」
海はそれ以上聞かなかった。
男性は立ち上がった。
「封筒が見つかったら、教えてください」
「分かりました」
男性が帰った後、湊が言った。
「さっきの人、何か知っていそうでしたね」
「そうですね」
「追わないんですか?」
「本人が言わないことまで、こちらから探す必要はありません」
夕方、別の女性が来た。
「封筒を一つ預かっています」
海は顔を上げた。
女性が机の上に封筒を置いた。
見覚えのある封筒だった。
「どこで見つけましたか?」
「外です」
「中は?」
「開けていません」
海は封筒を確認した。
封は破られていない。
ただ、表に小さな文字が追加されていた。
――返さないでください。
海は女性を見る。
「誰かから頼まれましたか?」
「いいえ」
「では、どうして持ってきたんですか?」
「落ちていたからです」
「そのまま置いておくこともできました」
女性は少し考えた。
「でも、誰かが探していたら困ると思って」
海は頷いた。
「分かりました」
女性が帰ったあと、海は封筒を元の場所に戻した。
中身も確認した。
二枚の紙は残っていた。
――生きている。
――返事は、これだけです。
そして、もう一枚。
今までなかった紙が入っていた。
そこには、
――受け取らない。
とだけ書かれていた。
海は紙を見つめた。
誰が書いたのか。
誰に向けた言葉なのか。
それは分からない。
ただ、その一言によって、三つ目の意思だけが残った。
返事をする人。
返事をしない人。
そして、返事そのものを受け取らない人。
海は三枚の紙を別々に記録した。
封筒は、もう誰にも渡さなかった。




