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嘘の向こう側  作者: 亀


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第318章 想像したこと

翌朝、海が受付を開けると、昨日の箱がまだ一つ残っていた。


返却された荷物を仕分けしていると、湊が子ども用の靴を見つけた。


「これは昨日の子のですか?」


「違います」


海は別の箱を指した。


「そちらです」


湊は箱を開けた。


中には古い衣類と、名前の書かれていない小さな袋が入っていた。


「これ、誰のものですか?」


「分かりません」


「返却した人は?」


「名前を残していません」


湊は袋を手に取った。


「中身を確認しますか?」


海は少し考えた。


「必要な理由がありますか?」


「中身が分からないと、分類できません」


「それなら確認しましょう」


袋を開けると、小さな写真が数枚入っていた。


一枚目には、若い男性が写っている。


二枚目には、同じ男性と女性。


三枚目には、子どもが一人。


湊は写真を並べた。


「家族でしょうか」


「分かりません」


「でも、同じ人が写っています」


「そうですね」


写真の裏には日付だけが書かれていた。


名前はない。


湊は一枚を裏返した。


「この子、昨日の子に少し似ていませんか?」


海は写真を見た。


確かに、髪型と顔立ちが少し似ているようにも見えた。


「似ているかもしれません」


「同じ家族だったりして」


「可能性はあります」


「じゃあ、昨日の箱に入っていたものかもしれませんね」


海は首を振った。


「それも分かりません」


湊は写真を置いた。


「……すみません」


「謝る必要はありません」


「でも、つい想像してしまいます」


「想像することはできます」


海は写真を袋に戻した。


「ただ、想像したことを事実として扱わないことです」


昼前、昨日の荷物を返却した女性が再び来た。


「昨日の箱に、写真が入っていませんでしたか?」


海は写真の袋を取り出した。


「これですか?」


女性は写真を見ると、すぐに頷いた。


「はい」


「所有者を確認できるものはありますか?」


女性は一枚目の写真を指差した。


「これ、私の父です」


「では、この写真はあなたに渡せます」


女性は写真を受け取った。


「全部返したつもりだったんですけど」


「写真だけ残っていました」


女性は写真を見た。


「これは、持っていけないと思って」


「どうしてですか?」


「父が写っているからです」


海は黙って待った。


女性は少し笑った。


「変ですよね」


「いいえ」


「父は、私に写真を持っていくなと言っていました」


「そうですか」


「でも、捨てることもできなかった」


女性は写真を一枚ずつ確認した。


「だから、荷物と一緒に返したんです」


「今は、持っていきますか?」


女性はしばらく考えた。


「……一枚だけ」


三枚のうち、父親だけが写っている写真を残した。


女性と父親が一緒に写っている写真と、子どもの写真は返した。


「これは置いていきます」


海は受け取った。


「理由を記録しますか?」


女性は首を振った。


「いりません」


「分かりました」


女性は写真を一枚だけ持って帰った。


午後になって、湊が残された二枚を見ながら言った。


「どうして一枚だけ持っていったんでしょう」


「本人がそう決めたからです」


「でも、理由は?」


「聞いていません」


「聞かなくてもいい?」


「本人が話したいなら、話すと思います」


湊は写真を袋に戻した。


「昨日の子の写真かもしれないと思ったんですけど」


海は首を振った。


「それは、もう考えなくていいでしょう」


「分かりました」


夕方、残された写真は元の袋に戻された。


そこには日付だけが残っていた。


誰が写っているのか。


なぜ撮られたのか。


なぜ一枚だけ持ち帰られたのか。


それらは、記録されなかった。


海は袋を保管棚に置いた。


その夜、湊が最後に言った。


「今日、僕は勝手にいろいろ想像しました」


「はい」


「でも、実際に分かったのは、写真の所有者が誰だったかだけでした」


海は頷いた。


「それで十分なこともあります」


湊は明かりを消した。


棚の中には、まだ説明されていないものがいくつもあった。


それらは、説明されていないからといって、存在しないわけではない。


そして、存在しているからといって、誰かが説明しなければならないわけでもなかった。

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