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嘘の向こう側  作者: 亀


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第275章 三日間の

その部屋は、以前は倉庫として使われていた。


壁際には古い棚が残っていて、窓の一つは木の板で塞がれている。


それでも、屋根があり、扉があり、二人で眠るには十分だった。


朝、少年は妹より先に起きた。


妹はまだ眠っている。


少年は静かに部屋を出て、共同の水場へ向かった。


廊下には、同じように仮の部屋を使っている人たちがいた。


誰もが、少しずつ違う事情を持っている。


食料が足りない人。


仕事を探している人。


帰る場所を失った人。


そして、帰れる場所があっても戻りたくない人。


少年が水を汲んでいると、隣の男が話しかけてきた。


「新しく来たのか?」


「はい」


「何日?」


「三日です」


男は笑った。


「みんな最初は三日だ」


少年は男を見る。


「その後は?」


「人による」


「あなたは?」


「もう二週間いる」


「二週間?」


「追い出されてないからな」


男は冗談のように言った。


少年は少し笑った。


「じゃあ、三日で出なくてもいいんですか?」


「それは知らない」


男は水を汲み終えると、桶を持って歩き出した。


「でも、三日後にまだいる理由があれば、話はできる」


少年はその言葉を覚えていた。


部屋に戻ると、妹が起きていた。


「お兄ちゃん、どこ行ってたの?」


「水」


「おなかすいた」


「もうすぐ行こう」


二人は配給所へ向かった。


昨日と同じように並んでいると、受付の女性が少年を見つけた。


「昨日より顔色がいいですね」


「妹も元気です」


「それはよかった」


食料を受け取ったあと、少年は少し迷ってから尋ねた。


「仕事はありますか?」


「あなたが?」


「はい」


「何歳?」


少年が答えると、女性は少し考えた。


「軽い仕事ならあるかもしれません」


「やります」


「妹さんは?」


「一人で待てます」


妹がすぐに言った。


「待てる」


女性は二人を見る。


「無理はしないでくださいね」


少年はうなずいた。


午後から、少年は倉庫で簡単な作業を始めた。


箱を運ぶ。


数を確認する。


棚を拭く。


最初は慣れなかった。


一度、数を間違えた。


「十六個です」


「十五個ですよ」


少年が箱を見る。


「……すみません」


「大丈夫です。もう一度数えてください」


少年は数え直した。


十五個だった。


「すみません」


「謝らなくていいです」


作業を教えていた男が言った。


「間違えることより、間違えたままにするほうが困る」


少年はうなずいた。


その日の終わり、少年は小さな紙を渡された。


「今日の仕事の分」


そこには数字が書かれていた。


少年はそれを見て、少し驚いた。


「こんなにもらえるんですか?」


「決められた分です」


「もっと働けます」


「今日はこれで十分」


少年は紙をしまった。


帰り道、妹が聞いた。


「お兄ちゃん、仕事したの?」


「うん」


「楽しかった?」


少年は少し考えた。


「まだ分からない」


妹は笑った。


「じゃあ、明日も?」


「明日もやってみる」


その夜、少年は部屋の隅に座って、昼にもらった紙を見ていた。


三日間の部屋。


三日間の食事。


三日間の仕事。


それ以上のことは、まだ何も決まっていない。


けれど、以前とは少し違っていた。


ここでは、明日を決めるために、今日のことを自分で話すことができる。


少年は、折りたたんだもう一枚の紙を取り出した。


あの男から渡された紙だった。


しばらく見つめたあと、またポケットに戻した。


今はまだ、使わなくてもいい。


それだけは、自分で決められた。

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