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嘘の向こう側  作者: 亀


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第二十七章 管理室

翌日。


透は一人で古い建物へ向かった。


女とは、別の時間に行くことにしていた。


昨日見つけた写真。


そこに写っていた「第七管理室」という文字が気になっていた。


建物の正面には、現在の会社名が掲げられている。


しかし、裏手へ回ると、古い外壁が一部だけ残っていた。


透は写真と見比べる。


窓の位置。


非常階段。


壁のひび。


写真と一致していた。


建物は同じだった。


入口の横には、新しい案内板がある。


現在の事務所配置が書かれていた。


一階。


二階。


倉庫。


会議室。


だが、「第七管理室」という名前はない。


透は建物の周囲を歩いた。


裏側に、小さな鉄製の扉があった。


鍵はかかっていない。


扉を開けると、狭い廊下が続いていた。


照明はついていない。


壁には古い番号札が残っている。


一。


二。


三。


その先に、


七


と書かれた札があった。


透は足を止めた。


札の横には、古い文字で、


管理室


と書かれている。


写真と同じだった。


ドアを開ける。


中には机が一つ。


古い電話。


棚。


そして、壁一面のファイル。


透は部屋の中を見回した。


何かを探しているようには見えなかった。


むしろ、長い間誰も使っていないようだった。


机の引き出しを開ける。


空だった。


二段目も空。


三段目には、古い鍵が一本入っていた。


鍵には札がついている。


N―07


透はそれを手に取った。


その瞬間、背後から声がした。


「それ、まだ残ってたんだ」


透は振り返った。


男が立っていた。


昨日の男性だった。


古い会社について話してくれた、あの男だ。


「どうしてここに?」


「昔の癖だ」


男は管理室へ入った。


「月に一度くらい、ここを見に来る」


「今の会社の人間なんですか?」


「違う」


「では、なぜ?」


男は鍵を見た。


「これが残っているから」


「N―07」


「そう」


「これは何ですか?」


男はすぐには答えなかった。


「昔は部屋番号だった」


「第七管理室?」


「そう」


「南区第七居住棟とは?」


男は少し考えた。


「同じ番号を使っていただけだ」


「偶然ですか?」


「最初は違った」


透は鍵を握った。


「では?」


「同じ管理方式を使っていた」


男は棚から一冊のファイルを取り出した。


表紙には、


区域管理記録


と書かれている。


中には建物の名前ではなく、番号だけが並んでいた。


N―01。


N―02。


N―03。


そして、


N―07。


「これは場所を管理する番号じゃない」


透はページを見た。


「では何を?」


「状態」


「状態?」


「人や物が、今どこにあるか」


男は指で一つの欄を示した。


所在確認


その隣には、


確認不要


という文字がある。


透は息を止めた。


以前見た文書と同じだった。


「確認不要って……」


「本人が確認を望まない場合」


男は静かに言った。


「それと、確認する必要がないと判断された場合」


「誰が判断するんですか?」


「それは記録に残っていない」


透はファイルをめくった。


一つのページに、いくつかの番号が並んでいる。


その中に、


N―07


があった。


状態欄には、


移動済み


と書かれている。


「どこへ?」


「それが分からない」


「記録は?」


「そこから先がない」


透はページを見つめた。


「でも、南区第七居住棟にはN―07があった」


「そうだ」


「北側物流にも」


「そうだ」


「じゃあ、N―07は場所じゃない?」


男は頷いた。


「少なくとも、今はな」


透は黙った。


男はファイルを閉じた。


「この仕組みを作った人間を探しているなら、やめた方がいい」


「どうしてですか?」


「一人じゃないからだ」


透は男を見る。


「最初に考えた人間はいたかもしれない。でも、その後は多くの人間が使った」


「知らないまま?」


「知らないまま使った人もいる」


「知っていて使った人は?」


「いるだろう」


「どちらが多い?」


男は少し笑った。


「数えたことがない」


透も笑わなかった。


男は鍵を指差した。


「それを持っていくなら、気をつけろ」


「何に?」


「鍵は、開けるためだけにあるわけじゃない」


透は鍵を見た。


「閉めるためにも?」


「そうだ」


男は管理室のドアを開けた。


「この部屋も、昔は誰かが閉めていた」


透は鍵をポケットに入れた。


外へ出る。


廊下の先から、足音が聞こえた。


男が振り返る。


「誰か来たな」


二人は黙った。


足音は近づいてくる。


一人ではない。


二人。


やがて、廊下の角から人影が現れた。


透は反射的に鍵を握った。


だが、現れたのは作業員だった。


二人は現在の会社の制服を着ている。


「ここ、まだ使えるんですか?」


若い方が男に聞いた。


「今日は使わない」


男が答える。


「そうですか」


作業員はそれ以上聞かなかった。


二人はそのまま通り過ぎていった。


透はその背中を見送った。


特別なことは何も起きていない。


誰も追ってこない。


誰も問い詰めない。


ただ、古い部屋を見つけただけだった。


外へ出ると、男が言った。


「今の二人は、この部屋のことを知らない」


「どうして分かるんですか?」


「聞かなかったから」


透は少し考えた。


「知らないから聞かなかったのかもしれません」


「そうだな」


男は頷いた。


「私も、昔はそう思っていた」


「今は?」


「分からない」


二人は建物の前で別れた。


透は駅へ向かいながら、ポケットの中の鍵に触れた。


N―07。


それは、場所ではなかった。


人でもなかった。


誰かが作った仕組みの中で、


何かを示すために使われる番号だった。


そして、その番号が示すものを、


誰も完全には知らない。


透は立ち止まった。


端末を見る。


女からメッセージが届いていた。


『今から会える?』


透は返信した。


『はい』


少しして、


『私も一つ見つけた』


と返ってきた。


透は画面を閉じた。


二人が見つけたものが同じとは限らない。


けれど、


別々に見たものを持ち寄れば、


昨日まで見えなかったものが見えるかもしれない。


そのことだけは、


今の透にも分かっていた。

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