第244章 古い記録
紙に書かれていた日付は、今から四年前のものだった。
管理の女性は、しばらく動かなかった。
「受け取った」
その文字の下に、古い日付。
昨日の配給とは関係がない。
そう考えるのが自然だった。
けれど、名前は同じだった。
女性は古い帳簿を棚から取り出した。
表紙には、四年前の年が書かれている。
ページをめくっていく。
食料。
衣類。
乾電池。
医療用品。
当時も、今と似たような記録が残っていた。
ただ、今より人の名前が多い。
受け取った人。
受け取らなかった人。
代理で受け取った人。
名前の横には、ときどき小さな印がある。
女性は、紙に書かれた名前を探した。
数分後。
見つかった。
同じ名前だった。
その横には、
「本人受領」
と書かれている。
女性は眉を寄せた。
「同じ人……?」
けれど、四年前に本人が受け取ったことと、昨日の配給所で何かをしたことは結びつかない。
彼女はページを閉じた。
その日の午後。
透の職場に、また昨日の女性が来た。
「すみません」
「はい」
「昨日のことなんですが」
「何か分かりましたか?」
女性は首を振った。
「まだです」
そして、一枚の写真を差し出した。
昨日より新しい写真だった。
そこには、同じ男性が写っている。
今度は一人だった。
「この写真は?」
「四年前です」
透は写真を見る。
「同じ人?」
「たぶん」
女性は少し笑った。
「自信がなくなってきました」
「どうして?」
「人って、写真より変わりますから」
透は頷いた。
「そうですね」
「それに、私が覚えているのは四年前までのその人です」
「今のことは分からない」
「はい」
女性は写真をしまった。
「だから、今日はもう探しません」
「いいんですか?」
「はい」
「どうして?」
「探し続ける理由が、今の私には分からなくなったからです」
透は何も言わなかった。
女性は頭を下げて帰っていった。
その日の帰り。
透は配給所に寄った。
管理の女性が帳簿を整理していた。
「昨日の名前の人、四年前の記録にもありました」
透が言う。
女性は少し驚いた。
「どうして知ってるの?」
「さっき聞きました」
「誰から?」
「探していた女性からです」
管理の女性はしばらく考えた。
「……そう」
「四年前にも、ここで受け取ったらしいです」
「ここ?」
「同じ名前で」
管理の女性は古い帳簿を見た。
「本人だったかは?」
「本人受領って書いてあります」
女性は少し黙った。
「記録って、便利ですね」
「はい」
「でも、記録が本人を証明するとは限らない」
透はその言葉を聞いて、少し考えた。
「名前が同じでも、別の人かもしれない」
「そう」
「同じ人でも、今は違う人かもしれない」
管理の女性は頷いた。
「それもそう」
その夜。
彼女と食事をしていると、彼女が突然言った。
「今日、連絡が来た」
「誰から?」
「昨日の人」
透は少し驚いた。
「探していた女性?」
「うん」
「何て?」
「見つかったって」
「本当に?」
「うん」
彼女はスマートフォンを見せた。
短いメッセージだった。
『たぶん、本人です』
それだけ。
透は画面を見た。
「たぶん?」
「うん」
「会ったの?」
「まだ」
「じゃあ、どうして本人だと思ったんだろう」
彼女は首を振った。
「聞いてない」
透はスマートフォンを返した。
「そうなんだ」
「気になる?」
「少し」
「聞く?」
透は少し考えた。
「いや」
「どうして?」
「今聞いても、たぶん分からないから」
彼女は笑った。
「それもそうね」
二人は食事を続けた。
その頃。
配給所の倉庫では、四年前の帳簿が一冊、棚から取り出されていた。
誰が取り出したのかは分からない。
開かれたページには、例の名前。
その横には、
「本人受領」
とある。
さらにその下に、小さな手書きの文字が残っていた。
「本人ではない」
その文字を見た人間は、誰もいなかった。




