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嘘の向こう側  作者: 亀


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第243章 確認された人

電話を切ったあとも、透はしばらく紙を見ていた。


「生存確認済み」


その文字だけが、妙に目に残った。


誰かが書いた。


それだけは分かる。


けれど、誰が、いつ、何を確認したのかは分からない。


事務員が言った。


「どうします?」


「今日、仕事が終わってからなら」


「伝えておきます」


透は頷いた。


昼休み。


同僚が弁当を食べながら聞いてきた。


「昨日の女性、何だったの?」


「昔の知り合いを探してるみたい」


「配給所の人?」


「たぶん、関係してる」


「やっぱり?」


「まだ分からない」


同僚は笑った。


「それ、もう口癖だね」


「そうかも」


午後の仕事が終わる頃、事務員から声をかけられた。


「外で待ってます」


昨日の女性だった。


彼女は透を見ると、小さく頭を下げた。


「急にすみません」


「いえ」


「少し歩けますか?」


二人は会社を出た。


しばらく無言で歩く。


女性は何度か周囲を見た。


「この辺りで、名前を見たんです」


「どこで?」


「掲示板です」


「三つ持っていった人の名前?」


「そうです」


透は黙って聞いた。


「その名前、私が探していた人と同じでした」


「同じ名前なんですね」


「はい」


「同じ人かどうかは?」


「まだ分かりません」


透は少し驚いた。


「確認しに来たんですか?」


「そうです」


女性は立ち止まった。


「でも、昨日ここに来て、名前を見たとき……少し怖くなりました」


「どうして?」


「その人なら、こんなところで名前が出るようなことをする人じゃないと思っていたから」


「昔から知っているんですか?」


「昔は」


女性はそう答えた。


「昔は、よく知っていました」


その言葉のあとに、少し長い沈黙があった。


「今は?」


「分かりません」


透はそれ以上聞かなかった。


二人は小さな公園の前まで来た。


そこに、昨日の工具を持っていた男性がいた。


女性が立ち止まった。


「あの人……」


男性がこちらを見た。


女性はしばらく彼を見ていた。


「知ってますか?」


男性が聞いた。


女性は首を振った。


「……知りません」


男性もそれ以上聞かなかった。


女性は公園のベンチに座った。


「ごめんなさい」


「何がですか?」


「さっき、あなたに聞いてしまったけど」


「大丈夫です」


「本当は、あなたに確認してほしかったわけじゃないんです」


透は黙っていた。


「私自身が、確認するのが怖かっただけです」


女性は鞄から一枚の古い写真を取り出した。


そこには、数人の男女が写っていた。


その中に、一人の男性がいる。


顔は少し若い。


「この人です」


透は写真を見た。


見覚えはなかった。


「名前は?」


女性は答えなかった。


代わりに写真をしまった。


「今日は、ここまでで大丈夫です」


「見つかったんですか?」


「まだです」


「そうですか」


女性は立ち上がった。


「でも、一つだけ分かりました」


「何が?」


「私が探していた人と、掲示板に書かれていた名前が同じでも、それだけでは同じ人だとは言えない」


透は少し笑った。


「そうですね」


女性も笑った。


「ありがとう」


彼女が帰ったあと、透は一人で公園に残った。


少し離れたところにいた男性が近づいてきた。


「知り合い?」


「いえ」


「そう」


男性はベンチに座った。


「さっきの写真、見た?」


「少し」


「何か分かった?」


「分かりません」


「そうだよね」


男性は空を見上げた。


「でも、名前が同じってだけで、いろんな人が動き始めるんだな」


透は返事をしなかった。


その夜、彼女と会った。


「今日はどうだった?」


「人を探してる女性と会った」


「人?」


「うん」


透は今日あったことを話した。


彼女は黙って聞いていた。


「その人、本当に探してるのかな」


「分からない」


「見つけたら、どうするんだろうね」


「それも分からない」


彼女は笑った。


「今日はいつもより分からないね」


「そうだね」


しばらく歩いてから、彼女が言った。


「私なら、見つけても会わないかもしれない」


「どうして?」


「昔知っていた人が、今も同じ人だとは限らないから」


透は少し考えた。


「それでも会いたい人もいるんじゃない?」


「いると思う」


「じゃあ?」


「だから、私なら自分で決める」


透は頷いた。


そのとき、彼女のスマートフォンが鳴った。


彼女は画面を見た。


一瞬だけ表情が変わった。


「誰?」


透が聞く。


彼女は画面を伏せた。


「知ってる人」


「そう」


「聞かないの?」


「言いたくなったら言うでしょう」


彼女は少し笑った。


「うん」


二人はそのまま歩いた。


その頃、配給所では管理の女性が一人で倉庫を整理していた。


古い箱を動かすと、箱の底から一枚の紙が落ちた。


そこには、昨日と同じ名前が書かれていた。


その下には、


「受け取りなし」


とある。


さらにその下に、別の筆跡で一言。


「受け取った」


管理の女性は紙を裏返した。


裏には日付があった。


それは、昨日の日付ではなかった。


何年も前の日付だった。

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