第240章 二点の理由
翌朝、広場の前には、昨日より人が少なかった。
机の上には、古着と日用品が並んでいる。
ただし、昨日まで貼られていた紙は変わっていた。
「一人二点まで」
その下には、昨日と同じ小さな文字が残っている。
「昨日、三点持って帰った人がいました」
誰かが紙を指差した。
「三点持って帰ったから、二点になったんだって」
「でも昨日は三点までだったんでしょう?」
「そう」
「じゃあ、悪くないじゃん」
「そうだけど……」
そこから先は続かなかった。
透は彼女と一緒に広場へ来ていた。
「昨日の人かな」
彼女が言った。
「三点持って帰った人?」
「うん」
「分からない」
「そうだね」
二人は机の上を見た。
昨日あった古い鍋はなくなっている。
工具も減っている。
本はかなり残っていた。
彼女が一冊手に取った。
「これ、昨日なかったよ」
「新しく置かれたのかな」
「たぶん」
本の表紙は少し汚れていた。
中を開くと、最初のページに名前が書かれていた。
「誰かの名前だね」
「うん」
「消したほうがいいかな」
透は首を振った。
「そのままでいいんじゃない?」
彼女は本を閉じた。
「そうだね」
そこへ、昨日の工具を持っていた男性がやって来た。
「おはよう」
「おはようございます」
男性は机を見る。
「今日は二つまでか」
「そうみたいです」
「昨日は三つだったのにね」
「知ってるんですか?」
「昨日ここにいたから」
男性は笑った。
「三つ持って帰った人、見た?」
透が聞いた。
男性は少し考えた。
「見たよ」
「誰でした?」
「知らない人」
「どんな人?」
「普通の人だったよ」
彼女が笑った。
「それじゃ分からないね」
「まあ、そうだね」
男性は肩をすくめた。
「でも、三つ持って帰ったからって、取りすぎたとは限らないでしょう」
「どうして?」
「三つ必要だったのかもしれない」
「でも、二つまでになった」
「それも、誰かが必要だと思ったんでしょう」
男性はそれ以上話さず、机の上から古い工具箱を一つ取った。
「これは?」
「二点までです」
「じゃあ、これ一つ」
受付の人が頷く。
男性は工具箱だけを持って帰った。
その後ろ姿を見ながら、彼女が言った。
「昨日の人も、今日の人も、自分で決めてるね」
「うん」
「でも、決める人が変わると、ルールも変わる」
透は紙を見る。
「そうだね」
昼過ぎ。
広場の管理をしている女性が、机の横で新しい紙を貼っていた。
「何か変わったんですか?」
透が聞く。
「少しだけ」
「二点まで?」
「うん」
「理由は?」
女性は少し迷った。
「昨日、三点持っていった人がいたから」
「その人が問題だったんですか?」
「そういうわけじゃないの」
女性は紙を押さえながら言った。
「昨日、三点持っていった人が、あとから一つ返しに来たの」
「返した?」
「うん」
「どうして?」
「一つは必要なかったって」
彼女が横から聞いた。
「じゃあ、二点までにする必要はなかったんじゃないですか?」
女性は苦笑した。
「そうかもしれないね」
「じゃあ、どうして?」
「昨日、三点持っていったのを見た人が、今日も三点持っていく人が出ると思ったから」
透は紙を見た。
「まだ誰も三点取ってないのに?」
「そう」
女性は少し笑った。
「先に変えたほうがいいと思ったの」
彼女は何も言わなかった。
透も何も言わなかった。
その日の夕方。
広場の隅に、一人の少年が立っていた。
机の上を眺めている。
「何か欲しいものある?」
管理の女性が声をかけた。
少年は首を振った。
「ない」
「じゃあ、どうして来たの?」
「昨日、三つ持っていった人を探してる」
女性の表情が変わった。
「どうして?」
「その人、俺の家の前にいたから」
透と彼女が顔を見合わせた。
少年は続けた。
「でも、何を持ってたかは知らない」
「その人の顔は?」
「覚えてる」
「知ってる人?」
「知らない」
少年は少し考えてから言った。
「でも、たぶん、悪い人じゃない」
管理の女性は何も言わなかった。
少年はそのまま帰っていった。
夜。
透と彼女は駅へ向かって歩いていた。
「三点持っていった人、少し気になるね」
彼女が言った。
「うん」
「でも、探す?」
透は少し考えた。
「必要になったら」
「それだけ?」
「今は、僕たちには関係ないから」
彼女は頷いた。
「そうだね」
駅前の掲示板には、また新しい紙が貼られていた。
「明日から、一人一件まで」
その下には、理由が書かれていなかった。
透は立ち止まった。
彼女も隣で紙を見る。
「今度は理由がないね」
「うん」
「聞く?」
透は少し考えた。
「……今日はいいや」
彼女は笑った。
「うん。それでいいと思う」
二人は掲示板を離れた。
その夜、誰かが広場の机の下に、一枚の紙を置いた。
そこには、昨日三点持って帰った人の名前が書かれていた。
ただ、その名前を見ても、誰もその人が誰なのか分からなかった。




