↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

227/590

第二百二十七章 見送った人

火曜日の朝、駅のホームにいつもより人が多かった。


一本前の電車が運休になったらしい。


電光掲示板には、


「車両点検のため運転を見合わせています」


と表示されていた。


ホームにいた人たちは、それぞれスマートフォンを見ていた。


「何分くらい止まるんだろう」


「分からない」


「次の電車は来る?」


「それも分からないみたい」


駅員に尋ねる人もいた。


駅員は同じ説明を繰り返していた。


「現在、確認中です。運転再開の時間はまだ決まっておりません」


透は時計を見た。


会社には少し早めに着く予定だった。


このまま待つこともできる。


別の路線へ移ることもできる。


歩いて別の駅へ向かうこともできる。


しばらく考えてから、透はホームを出た。


別の駅まで歩くことにした。


途中の交差点で、同じ会社の社員を見かけた。


「透さんも別の駅?」


「うん」


「俺、もう少し待つ」


「そうなんだ」


「動きそうな気がするから」


「じゃあ、また会社で」


「うん」


二人は別れた。


透は歩いた。


別の駅へ着くと、こちらも少し混んでいた。


それでも電車は動いていた。


会社へ着いたのは、予定より十五分遅かった。


「今日は大変だったね」


同僚が言った。


「そっちは?」


「俺はずっと駅で待ってた」


「間に合った?」


「ギリギリ」


「動いたんだ?」


「うん。思ったより早かった」


「じゃあ、待っててもよかったな」


同僚は笑った。


「そうだな」


その日の昼過ぎ、朝に別れた社員が出社してきた。


「結局、歩いたの?」


透が聞く。


「いや、待ってた」


「そうなんだ」


「十分くらいしたら動いた」


「よかったね」


「そっちは?」


「別の駅から来た」


「そっちも正解だったな」


「どうだろう」


透は笑った。


どちらが正しかったのか。


それは決められなかった。


結果だけ見れば、待ったほうが早かった人もいる。


別の道を選んだほうが早かった人もいる。


同じ状況でも、選んだ場所によって結果は違った。


夕方、駅へ向かう途中で、朝のホームにいた男性を見かけた。


男性は電話をしていた。


「うん。今日はやめる」


誰かに予定を伝えているらしい。


「電車が止まってるから」


少し聞いてから、


「また今度でいいよ」


と言って電話を切った。


透はその横を通り過ぎた。


その人が本当に電車のせいで予定をやめたのか、それとも別の理由があったのか。


透には分からない。


けれど、どちらでもよかった。


駅の階段を下りる。


ホームには、朝とは違って人が少ない。


掲示板には運転再開の案内が出ていた。


今度は電車が来る。


透はそのまま列に並んだ。


夜、彼女に今日のことを話した。


「私は待つかな」


「どうして?」


「歩くの面倒だから」


「なるほど」


「透は?」


「今日は歩いた」


「明日なら?」


「分からない」


彼女は笑った。


「じゃあ、そのとき決めればいいね」


「うん」


電車が駅に入ってくる。


透は人の流れに合わせて乗り込んだ。


朝、待つことを選んだ人。


別の道を選んだ人。


予定そのものをやめた人。


それぞれが、それぞれの理由で動いていた。


誰かの選択を見ただけでは、その人が何を考えていたのかまでは分からない。


透は窓の外を見た。


電車は、いつものように次の駅へ向かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。