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嘘の向こう側  作者: 亀


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第二百二十一章 決められた場所

火曜日の朝、会社の入口に小さな紙が貼られていた。


「本日より、休憩場所を変更します」


今まで使っていた部屋ではなく、建物の反対側にある空き部屋を使うらしい。


理由は書かれていなかった。


出勤してきた社員たちは、紙を見ながら話していた。


「なんで変わったんだろう」


「昨日、誰かが何か壊したって聞いた」


「俺は、別の部署が使うって聞いたけど」


「どっちなんだ?」


「分からない」


透も紙をもう一度見た。


そこには、場所だけが書かれていた。


午前の仕事が始まる。


休憩時間になると、何人かが新しい休憩場所へ向かった。


しかし、一人の社員が前の部屋へ入ってしまった。


「こっちじゃないですよ」


別の社員が声をかける。


「え? 昨日までここだっただろ」


「今日から変更です」


「ああ、そうだった」


その人は笑いながら出ていった。


新しい部屋には、まだ椅子が足りなかった。


三人が立ったまま昼食を食べている。


「椅子、いつ来るんだろう」


「午後には来るって」


「誰が言った?」


「総務の人」


「じゃあ、来るんじゃない?」


透は壁際に置かれた折り畳み椅子を見つけた。


一脚だけだった。


「これ、使っていいですか」


近くにいた人へ聞く。


「たぶん大丈夫」


透は椅子を開いた。


その人が言った。


「それ、壊れてるかもしれないよ」


透は一度座るのをやめた。


椅子を確認すると、脚の一つが少し曲がっていた。


「危ないですね」


「だから置いてあったのかも」


透は椅子を元の場所へ戻した。


午後になっても、新しい椅子は来なかった。


夕方、総務から連絡があった。


「椅子の搬入は明日に変更になりました」


「やっぱり今日じゃなかったんだ」


誰かが言った。


「午後には来るって聞いたけど」


「予定が変わったらしい」


透はそれを聞きながら、特に何も言わなかった。


帰り道、駅で彼女と会った。


「今日はどうだった?」


「休憩場所が変わった」


「急だね」


「うん」


「理由は?」


「分からない」


「聞かなかったの?」


「場所が分かれば仕事には困らないから」


彼女は少し考えた。


「前なら聞いてた?」


「たぶん」


「今は?」


「必要になったら聞くと思う」


「それで?」


「今のところ、必要じゃない」


彼女は笑った。


「ずいぶん簡単になったね」


「そうかな」


「うん」


二人は駅の階段を下りた。


途中で、彼女が立ち止まった。


「そういえば、私も今日、予定が一つ変わった」


「何かあった?」


「友達と会う予定だったけど、向こうの都合でなくなった」


「残念だったね」


「少しね」


「また別の日に会えばいい」


「そう思ってる」


彼女はスマートフォンを見た。


「でも、次がいつになるかはまだ決めてない」


「じゃあ、まだ決まってないんだね」


「うん」


二人はまた歩き始めた。


駅の外では、バスの時刻表が新しく貼り替えられていた。


昨日までの時間とは少し違っている。


誰かが変更した。


誰かが知らせた。


誰かがまだ知らない。


そういうことが、街のあちこちで起きている。


透は時刻表を写真に撮った。


理由を知りたいからではない。


明日、同じ時間に来てしまわないためだった。

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