第二百二十章 届かなかった荷物
月曜日の朝、会社に小さな荷物が届いた。
宛名は、部署名だけだった。
差出人の名前はない。
事務担当が箱を持って、しばらく送り状を見ていた。
「これ、誰宛てだろう」
「部署宛てなら、ここでいいんじゃない?」
「中身が分からないんだけど」
「開ければ?」
「勝手に開けていいのかな」
周りにいた何人かが箱を見る。
誰も手を伸ばさなかった。
結局、担当者が送り状に書かれていた連絡先へ電話をかけた。
「こちらに荷物が届いているんですが、宛名が部署名だけになっています」
少し話してから、電話を切る。
「昨日、別の場所へ送る予定だったものらしい」
「じゃあ、間違い?」
「たぶん」
「返すの?」
「確認してからだって」
昼前、もう一度電話が来た。
今度は送り主が直接取りに来るらしい。
午後、一人の男性が会社へ来た。
「すみません。こちらの荷物です」
担当者が箱を確認する。
「中身は何ですか?」
「作業用の部品です」
「送り先は?」
「別の倉庫です」
「どうしてここに?」
男性は少し困った顔をした。
「昨日、住所が変わったんです」
「変更の連絡は?」
「したつもりだったんですが……」
それ以上は誰も責めなかった。
箱は男性に渡された。
「次から気をつけます」
「はい」
男性は箱を抱えて帰っていった。
透はその後ろ姿を見ながら、少しだけ考えた。
連絡したつもりだった。
受け取ったつもりだった。
伝わったつもりだった。
そういうことは、以前にも何度かあった。
それが嘘だったのかどうかは、分からない。
夕方、帰り道にコンビニへ寄った。
レジの前で、男性が店員に尋ねていた。
「この荷物、今日届く予定でしたよね?」
店員が端末を確認する。
「こちらでは、まだ確認できません」
「昨日は今日って聞いたんですけど」
「申し訳ありません。配送状況が更新されていないようです」
男性は少し困った顔をした。
「じゃあ、明日ですか?」
「それも、今の時点では分かりません」
「そうですか」
男性はスマートフォンを取り出し、どこかへ電話をかけた。
透はその横を通り過ぎた。
家に帰ると、彼女から連絡が来ていた。
「今日、荷物が届かなかった」
「何か大事なもの?」
「急ぎではないよ」
「じゃあ、明日?」
「分からない」
「そっか」
少しして、彼女からまたメッセージが来た。
「前だったら、届かなかった理由を調べてたと思う」
透は画面を見た。
「今は?」
「今日は疲れたから、明日でいい」
「それでいいと思う」
「透も?」
「うん」
スマートフォンを置く。
届かなかった荷物。
届いたけれど、宛先が違った荷物。
連絡したつもりだった人。
連絡を受けたつもりだった人。
どちらが間違っていたのか、分からないこともある。
それでも、荷物は誰かのところへ向かっている。
今日届かなかったものは、明日届くかもしれない。
届かなければ、また確認すればいい。
透は冷蔵庫から水を一本取り出した。
そして、明日の朝に飲むものを一本だけ残して、冷蔵庫を閉めた。




