第二百八章 回収されないもの
月曜日の朝、商店街の掲示板に新しい紙が貼られていた。
「昨日の清掃で回収された物について」
いくつかの品物が並んでいる。
鍵。
財布。
眼鏡。
小さな袋。
そして、名前の分からない金属製の部品。
透は足を止めた。
昨日の清掃で拾ったものらしい。
「財布、落とした人いるのかな」
後ろから声がした。
振り返ると、昨日一緒に掃除をした若い男性だった。
「分からない」
「持ち主、見つかるかな」
「連絡先が入ってれば」
「財布なら分かるか」
二人で掲示板を見る。
財布には、身分証が入っていたらしい。
そのため、持ち主には連絡できたと書かれている。
鍵には、
「持ち主不明」
とだけある。
眼鏡も同じだった。
部品については、
「用途不明」
と書かれている。
「これ、何に使うんだろう」
男性が部品を指した。
「分からない」
「昨日、拾った?」
「俺は見てない」
「俺も」
その日の昼休み、会社で透が掲示板の話をすると、同僚が言った。
「その部品、会社でも見たことある気がする」
「本当?」
「似たようなのだけど」
「何に使う?」
「知らない」
「じゃあ、同じものかも分からないね」
「そうだな」
話はそこで終わった。
午後、作業場の棚を整理していると、似た形の部品が一つ出てきた。
透は手に取った。
昨日の掲示板にあったものとよく似ている。
班長に見せる。
「これ、何ですか?」
「古い機械の部品」
「まだ使いますか?」
「たぶん使わない」
「分かりました」
透は棚に戻した。
帰り道、掲示板の前を通った。
財布の文字は消えていた。
持ち主が見つかったらしい。
鍵と眼鏡はまだ残っている。
金属部品も残っていた。
「まだあるね」
昨日の男性が声をかけてきた。
「うん」
「持ち主、来ないのかな」
「分からない」
「鍵なんか、見つからないと困るよな」
「そうだね」
男性は掲示板を見ながら言った。
「でも、誰のか分からないと、渡せないよね」
「うん」
二人はその場を離れた。
駅へ向かう途中、透は鍵のことを考えていた。
持ち主がいれば、ただの鍵だ。
持ち主が分からなければ、ただの金属になる。
同じものでも、関係がなくなると意味が変わる。
夜、彼女から連絡が来た。
「今日、昔の知り合いから写真が送られてきた」
「何の写真?」
「昔住んでた場所」
「まだあるの?」
「建物は残ってるみたい」
「行ってみたい?」
しばらく返信がなかった。
「分からない」
「そうだよね」
透はそれ以上聞かなかった。
少しして、
「写真だけで十分かもしれない」
と届いた。
透は、
「うん」
と返した。
スマートフォンを置く。
昔の場所が残っていても、そこに戻る理由があるとは限らない。
持ち主が見つからない鍵もある。
回収されないものもある。
けれど、それは必ずしも誰かが忘れたという意味ではない。
ただ、今はまだ誰のものなのか分からないだけかもしれない。
透は窓の外を見た。
街の明かりは、いつもと変わらなかった。




