第二百七章 引き受けた仕事
土曜日の朝、透は近所の掲示板の前で足を止めた。
新しい紙が貼られている。
「共同清掃のお知らせ」
商店街の裏にある空き地と、その周辺の道路を掃除するらしい。
参加は自由。
道具は用意されている。
集合時間は九時。
透は時計を見た。
まだ少し時間がある。
そのまま帰ろうとしたが、掲示板の前には何人か人が集まっていた。
「今日、人が足りないらしいよ」
近所の男性が言った。
「そうなの?」
「昨日の雨で、かなり汚れたから」
透は少し考えた。
「じゃあ、行ってみます」
「助かるよ」
九時になると、十人ほど集まった。
商店街の店主。
近所の住民。
学生らしい若者。
小さな子どもを連れた女性。
年齢も仕事も違っていた。
担当者が説明する。
「ここからあそこまでお願いします」
「誰がゴミをまとめますか?」
「終わった人からお願いします」
「分別は?」
「燃えるものと、それ以外で」
「細かく分けないんですか?」
「回収するときに分けます」
少し曖昧だった。
けれど、作業は始まった。
透は道路脇のゴミを拾った。
空き缶。
壊れた傘。
古い包装材。
小さな部品。
誰かが落としたもの。
誰かが捨てたもの。
それを一つずつ袋に入れる。
途中で、若い男性が大きな箱を持ってきた。
「これ、燃える?」
透が見る。
「分からない」
「じゃあ、こっちでいいか」
別の人が、
「それは燃えないほうじゃない?」
と言った。
「じゃあ、そっちで」
箱は別の袋へ入れられた。
作業は続いた。
一時間ほどして、担当者が言った。
「ここは終わりです」
「まだ向こうにありますよ」
「そっちは別の班です」
「別の班?」
「はい」
透は向こうを見る。
誰もいない。
「まだ来てないみたい」
担当者は少し困った。
「じゃあ、できる人だけお願いします」
何人かが向こうへ歩いていった。
透もついていった。
そこには、道路脇に大量のゴミが残っていた。
「こっちのほうが多いね」
誰かが言った。
「そうですね」
それでも、少しずつ片づけていく。
昼前には、道路がかなりきれいになった。
最後に集めた袋を並べる。
全部で二十袋ほどになった。
担当者が数えていると、一人の男性が言った。
「最初の予定より多いですね」
「そうですね」
「回収車、全部持っていけますか?」
「たぶん」
男性は笑った。
「また、たぶんだ」
担当者も笑った。
「回収できるとは聞いてます」
「じゃあ、大丈夫ですね」
袋は一か所に集められた。
透はそのまま家に帰った。
午後、彼女から連絡が来た。
「今日は一人で出かけてきた」
「どうだった?」
「普通」
「昨日の予定と違ったね」
「うん」
「楽しかった?」
「一人でも悪くなかった」
透は、
「よかった」
と返した。
少しして、
「透は?」
と聞かれた。
「朝、掃除してた」
「珍しい」
「近所のやつ」
「疲れた?」
「少し」
「じゃあ、今日は休んで」
「うん」
スマートフォンを置く。
窓の外を見る。
朝までゴミがあった道路は、今はきれいになっている。
誰が一番働いたのか。
誰が一番役に立ったのか。
透には分からない。
そもそも、決める必要もない気がした。
ただ、そこにいた人たちが、それぞれ少しずつ動いた。
それだけで、道路はきれいになった。
透はカーテンを閉めた。
午後はまだ長い。
今日は何もしなくてもいい。
そう思って、ソファに座った。




