↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/590

第二百三章 見つからないもの

火曜日の朝、会社に着くと、入口の掲示板に一枚の紙が貼られていた。


「紛失物について」


社員証。


鍵。


工具。


手袋。


いくつかの品物の名前が並んでいる。


最後に、


「心当たりのある方は総務まで」


と書かれていた。


透は紙を読んだ。


その中に、昨日使っていた工具と同じ種類のものがあった。


「これ、誰のだろう」


後ろから声がした。


同僚だった。


「分からない」


「昨日まで使ってた人、いたよな」


「いたね」


「今日はいないけど」


透は振り返った。


「休み?」


「知らない」


二人はそれ以上話さず、仕事へ向かった。


午前中、班長が工具を数えていた。


「一つ足りない」


「昨日のやつ?」


「たぶん」


「探しますか?」


「昼までに見つからなかったら報告する」


そう言って、班長は作業場を見回した。


棚の下。


机の横。


工具箱の中。


けれど、見つからなかった。


昼休みになっても、工具は戻ってこなかった。


「なくなったままですね」


同僚が言った。


「うん」


「誰か持って帰ったのかな」


「分からない」


「盗んだ?」


透は少し黙った。


「それも分からない」


「まあ、そうだな」


午後、総務から連絡が来た。


「工具は別の作業場にありました」


「別の?」


「昨日、応援に来ていた人が持っていったようです」


「返ってきますか?」


「今日の夕方には」


「そうですか」


それで話は終わった。


夕方、工具は戻ってきた。


表面に小さな傷が増えていた。


誰かが使ったらしい。


班長は工具を受け取ると、


「次から、持ち出すときは一言お願いします」


と言った。


応援に来ていた人は、


「すみません」


と頭を下げた。


それだけだった。


帰り際、同僚が透に言った。


「朝、盗まれたって言わなくてよかったな」


「うん」


「俺、ちょっと思ったけど」


「俺も」


二人は笑った。


駅へ向かう途中、透は掲示板の前を通った。


朝の紙はまだ貼られている。


紛失物の一覧。


その中から、工具の名前だけが消されていた。


代わりに、


「解決しました」


という小さな文字が書かれている。


透は足を止めた。


問題が起きる。


誰かが疑う。


そして、理由が分かる。


そんな流れは、いつも同じではない。


理由が分からないまま終わることもある。


理由が分かっても、誰かが悪かったとは限らない。


そんなことを考えていると、スマートフォンが鳴った。


彼女からだった。


「今日、探してたものが見つかった」


「何?」


「昔もらった手紙」


「どこにあったの?」


「本の間」


「よかったね」


「うん」


少しして、彼女から続けて届いた。


「でも、読まなかった」


透は画面を見た。


「どうして?」


「今は読まなくてもいいかなって」


「そっか」


それ以上、聞かなかった。


見つかったものを、すぐに確認する必要はない。


持っているだけでいいものもある。


透はスマートフォンをしまった。


駅の階段を上る。


ホームには、いつものように人が並んでいた。


誰かが何かを探している。


誰かが何かを見つけている。


そして、見つけても、そのままにしているものもある。


透は電車に乗った。


今日は、それでよかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。