第二百二章 戻ってきたもの
月曜日の夕方、会社の倉庫で古い箱が見つかった。
棚の奥に押し込まれていた。
誰かが移動させたとき、床に落ちたらしい。
箱には日付だけが書かれていた。
数年前の日付だった。
「これ、どうする?」
同僚が透に聞いた。
「中身、見てみる?」
箱を開ける。
古い工具。
予備の部品。
使いかけの梱包材。
そして、何枚かの紙が入っていた。
「これ、まだ使えるかな」
同僚が部品を一つ持ち上げる。
透は見た。
「分からない」
「じゃあ、聞いてみるか」
二人で班長のところへ持っていった。
班長は部品を確認した。
「これはもう使ってない」
「捨てます?」
「一応、確認して」
誰に確認するのかは言わなかった。
同僚が、
「誰に?」
と聞く。
「管理のほう」
「分かりました」
箱はそのまま倉庫の隅へ戻された。
翌日。
箱はなくなっていた。
透が班長に聞くと、
「処理した」
という返事だった。
「全部?」
「たぶん」
「部品も?」
「そう」
「そうですか」
それ以上は聞かなかった。
ところが水曜日、別の部署から電話が来た。
「昨日の部品、そっちにありませんでした?」
「昨日の?」
「古い箱に入っていたやつです」
透は班長に確認した。
「もう処理したそうです」
電話の向こうが黙った。
「……そうですか」
「何か必要だったんですか?」
「一つだけ、まだ使う予定だったんです」
「そうなんですね」
「まあ、別のものを探します」
電話が切れた。
その日の午後、別の箱が倉庫に届いた。
中には、同じ種類の部品が入っていた。
「これで大丈夫だって」
班長が言った。
透は箱を見た。
「前のものと同じですか?」
「たぶん」
同僚が笑った。
「最近、たぶんが多いな」
「そうだね」
二人で作業を続けた。
仕事が終わる頃、透は倉庫の隅を見た。
古い箱があった場所には、何もない。
必要だったものが捨てられた。
でも、別のものが戻ってきた。
それだけだった。
帰り道、透は駅前の店に寄った。
店主が店先で商品を並べている。
「この前の部品、見つかった?」
透が何となく聞くと、同僚が話していたことを思い出した。
「何の部品?」
「いや、会社の話」
「会社の部品は知らないよ」
「そうですよね」
店主は笑った。
「でも、最近、古いものを探しに来る人は増えたよ」
「古いもの?」
「昔の工具とか、部品とか」
「どうして?」
「新しいものが手に入らないからじゃない?」
「なるほど」
「理由は知らないけどね」
店主は棚の奥から古い部品を一つ出した。
「これも売れるかな」
「分からないです」
「じゃあ、置いとくか」
透は店を出た。
夜、彼女から連絡が来た。
「今日、昔の友達から連絡が来た」
「久しぶり?」
「かなり」
「どうだった?」
「普通だった」
「何か話した?」
「昔のこと」
「楽しかった?」
少し間があった。
「楽しかったというより、不思議だった」
「何が?」
「同じことを覚えてるはずなのに、覚えてる場所が違った」
透は画面を見つめた。
「どっちが正しいんだろうね」
そう送ろうとして、やめた。
代わりに、
「そういうこともあるね」
と送った。
彼女から、
「うん」
と返ってきた。
透はスマートフォンを置いた。
古いものは、戻ってくることがある。
物も。
人も。
記憶も。
けれど、戻ってきたからといって、前と同じ場所に置けるとは限らない。
透はそんなことを考えながら、電気を消した。




