第二章 閉鎖された場所
仕事を終えたあとも、透の頭から倉庫で見つけた箱のことが離れなかった。
帰り道、何度も端末を取り出しては、配送記録を確認した。
やはり同じだった。
――配送先:南区第七居住棟。
配送日時は、昨日。
しかし、南区第七居住棟は三年前に閉鎖された場所だった。
ただの入力ミスかもしれない。
古いデータが残っていただけかもしれない。
そう考えれば、不思議なことではない。
だから透は、夕食のときに恒一へ聞いてみることにした。
「恒一さん」
「ん?」
「今日、倉庫で変な配送記録を見つけたんです」
恒一の箸が、一瞬だけ止まった。
「どんな記録だ?」
「南区第七居住棟への配送です」
「……南区?」
「はい。昨日の日付になっていました」
恒一は少し黙ってから、何でもないことのように答えた。
「古いデータじゃないか?」
「僕も最初はそう思ったんです。でも、昨日の日付だったので……」
「管理システムには、古い情報が残ることがある」
「そうなんですか?」
「ああ。珍しいことじゃない」
恒一はスープを一口飲んだ。
「だから、気にしなくていい」
「でも……」
「透」
静かな声だった。
透は口を閉じた。
「知らなくていいこともある」
「……はい」
「南区は今、設備の点検中だ。立ち入りも禁止されている」
恒一は透を見る。
「危険かもしれない場所に、わざわざ近づく必要はないだろう?」
「そうですね」
「ここで普通に暮らせている。それで十分だ」
その言葉には、責めるような響きはなかった。
むしろ、透を心配しているように聞こえた。
「君には、危険なことをしてほしくないんだ」
「……分かりました」
透は頷いた。
それでいい。
いつものように、恒一の言うことを聞いていればいい。
食事を終え、部屋へ戻る。
ベッドに横になっても、なかなか眠れなかった。
目を閉じると、あの金属製のコンテナが浮かんでくる。
南区第七居住棟。
三年前に閉鎖された場所。
なぜ、昨日そこへ物資が送られたのか。
透は端末を手に取った。
配送記録を開く。
送り主――居住区管理局。
配送先――南区第七居住棟。
受取人――空欄。
「……空欄?」
透は画面を拡大した。
その瞬間だった。
画面が一度だけ点滅した。
そして、記録が消えた。
「え?」
透は慌てて検索し直した。
該当する記録はありません。
もう一度。
やはり同じだった。
さっきまで確かに存在していた記録が、どこにもない。
透はしばらく画面を見つめた。
自分の見間違いだったのかもしれない。
そう考えようとした。
けれど、その夜。
居住区全体の照明が突然消えた。
暗闇は、三秒ほど続いた。
そして非常灯が点いた。
その直後だった。
遠くから、金属製の大きな扉が開く音が聞こえた。
――ゴォン。
透はベッドの上で身を起こした。
何の音だろう。
その答えを考えるより先に、館内放送が流れた。
『南区への立ち入りは、引き続き禁止されています』
透は動かなかった。
なぜ、今になって南区の放送が流れたのか。
そして、なぜ自分はその言葉を聞く必要があったのか。
分からない。
ただ一つだけ。
今朝、恒一が言った言葉が頭に残っていた。
――南区には行くな。
透は端末を握りしめた。
そして初めて、その言葉を「命令」ではなく、一つの「選択肢」として考えた。




