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嘘の向こう側  作者: 亀


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第百九十九章 順番待ち

木曜日の朝、会社へ向かう途中で、透は駅前にできた長い列を見つけた。


何の列なのか、最初は分からなかった。


駅の外に簡易テントがあり、その前に人が並んでいる。


看板には、


「生活相談」


と書かれていた。


その下に、小さく、


「受付番号をお取りください」


とある。


透は少し離れたところから眺めた。


列の先頭では、係の女性が一人ずつ番号札を渡している。


「今日は三十番までです」


「昨日も来たんですが」


「昨日の番号は今日には使えません」


「そうですか」


「申し訳ありません」


その男性は少し考えてから、番号札を受け取った。


透はそのまま会社へ向かった。


昼休みになると、同僚の一人が言った。


「駅前の相談所、知ってる?」


「朝、見た」


「俺、昨日行った」


「何の相談?」


「仕事」


「決まった?」


「まだ」


「そうなんだ」


同僚は弁当を食べながら続けた。


「相談するだけでも結構待つんだよ」


「何人くらい?」


「分からない」


「番号札は?」


「三十番まで」


「じゃあ、三十一番の人は?」


「また次の日」


透は少し考えた。


「大変だね」


「うん」


同僚はそれ以上話さなかった。


午後、会社に一枚の紙が届いた。


「従業員向け生活相談窓口について」


内容を見ると、勤務時間、給与、住居、通勤などについて相談できるらしい。


ただし、


「相談内容によっては、回答まで時間を要する場合があります」


と書かれていた。


誰かが、


「結局、待つんだな」


と言った。


別の人が、


「相談できるだけでもいいんじゃない?」


と言った。


その二つの声が、同じ場所に残った。


仕事が終わったあと、透は駅前を通った。


朝のテントはもう片づけられていた。


その代わり、掲示板に紙が貼られている。


「本日の受付は終了しました」


その下に、翌日の受付時間。


透は立ち止まった。


そこへ、朝に見かけた男性が歩いてきた。


「今日も駄目だった」


独り言のように言った。


透は何も言わなかった。


男性は掲示板を見上げる。


「明日は早く来ないと」


「そうですね」


透が答えると、男性は少し驚いたようにこちらを見た。


「明日も来るんですか?」


「俺じゃないです」


「ああ」


男性は笑った。


「そうですよね」


そのまま駅へ入っていった。


透も後を追った。


電車の中で、彼女から連絡が来た。


「今日、相談に行ってきた」


透は少し驚いた。


「駅前の?」


「うん」


「どうだった?」


「待った」


「長かった?」


「二時間くらい」


「それで?」


「話は聞いてもらえた」


「解決した?」


少し時間が空いた。


「まだ」


透は画面を見た。


「そっか」


「でも、話を聞いてもらえたから、今日はそれでいい」


「うん」


彼女から、


「透は?」


と来た。


「今日は仕事」


「それだけ?」


透は少し考えた。


「駅前の相談所を見た」


「私も行ったよ」


「知ってる」


「そっか」


それだけで会話が終わった。


電車が駅に着く。


透はスマートフォンをしまった。


相談すれば、すぐに答えが出るわけではない。


待てば、必ず何かが変わるとも限らない。


それでも、人は列に並ぶ。


必要だから。


あるいは、ほかに方法がないから。


透には、その違いまでは分からなかった。


駅を出る。


夜の街には、まだ人が残っていた。


明日の朝も、同じ場所に列ができるのだろう。


そう思ったが、確かめる理由はなかった。

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