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嘘の向こう側  作者: 亀


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第十八章 同じ情報

その日の夜、透は一人で部屋にいた。


机の上には、三つの端末が並んでいた。


一つは自分のもの。


一つは南区で見つけた古い記録を保存するために使っているもの。


もう一つは、昨日女から借りた古い端末だった。


もちろん、女は中身を全部見せたわけではない。


ただ、弟が以前使っていた端末だという。


それだけだった。


透は三つの画面を順番に見た。


南区第七居住棟。


北側物流。


南―07。


そして、昨日見つけた名前。


同じものを見ているはずなのに、端末によって残っている情報が違っていた。


ある記録には名前がある。


別の記録にはない。


ある場所では「使用中」。


別の場所では「閉鎖」。


そして、配送記録では現在も番号が使われている。


透は紙に書き出した。


「南区第七居住棟」


その下に、


「北側物流」


さらに、


「南―07」


その横に、


「弟」


最後に、


「名前」


と書いた。


線を引こうとして、手を止めた。


まだ繋げてはいけない。


一つの情報を見つけるたびに、それらを同じものだと思いたくなる。


だが、それこそが危険なのかもしれない。


似ている。


関係がありそう。


だから同じ。


その判断が間違っている可能性もある。


透は紙を裏返した。


その時、端末が鳴った。


女からだった。


『今、話せる?』


透は少し迷ってから、


『はい』


と返した。


数秒後、通話が始まった。


「今日、白石と会った?」


「はい」


「何を話した?」


透は答える前に、少しだけ考えた。


「物流のことです」


「それだけ?」


「それ以上は……」


透はそこで言葉を止めた。


「何?」


「僕も、まだ話したくないことがあります」


電話の向こうが静かになった。


やがて女が言った。


「そう」


責める声ではなかった。


「分かった」


透は少し驚いた。


「怒らないんですか?」


「どうして?」


「僕が何か隠しているから」


「私も隠してるから」


「……そうですね」


「じゃあ、お互い様」


透は少し笑った。


「それでいいんですか?」


「今はね」


その言葉が妙に自然だった。


全部を話さなくてもいい。


全部を知ろうとしなくてもいい。


少なくとも今は。


女が言った。


「ただ、一つだけ伝えておく」


「何ですか?」


「弟の端末に、さっきもう一つメッセージが届いた」


透は姿勢を正した。


「何と?」


「『北側には行くな』」


透は黙った。


「それだけ?」


「うん」


「昨日のメッセージとは違いますね」


「そう」


「じゃあ、誰かが弟の端末を使っている?」


「分からない」


女の声が少し低くなった。


「でも、これだけは分かる」


「何ですか?」


「誰かが、私たちに北側を意識させようとしている」


透は考えた。


確かにそうだった。


倉庫。


物流。


南―07。


そして今日のメッセージ。


すべてが北側へ意識を向けさせている。


だが、それが本当に北側に何かがあるという意味なのか。


それとも、北側に何かがあると思わせたいだけなのか。


そこまでは分からない。


「明日、北側には行かない」


透が言った。


「私も行かない」


「でも、調べます」


「どうやって?」


透は机の上の紙を見た。


「北側に行かずに、北側を知っている人を探します」


電話の向こうで、女が少し笑った。


「それなら、私も手伝える」


「本当ですか?」


「一人だけ、心当たりがある」


「誰ですか?」


「弟の昔の同僚」


透はペンを取った。


「名前は?」


女はすぐには答えなかった。


「会う前に、あなたに言っておきたいことがある」


「何ですか?」


「その人は、弟のことをあまり話したがらない」


「どうして?」


「弟と一緒に仕事を辞めたから」


透の手が止まった。


「二人とも?」


「うん」


「理由は?」


「それを聞くために会う」


電話が切れた。


透はしばらく動かなかった。


紙の上には、まだ一本も線を引いていない。


それでも、少しずつ人が増えていく。


白石。


女。


女の弟。


弟の同僚。


北側物流。


南区。


そして、記録に残らない名前。


透は思った。


人を繋げるのではなく、


人が持っている情報を繋げる。


それなら、誰か一人を信じる必要はない。


翌朝、透は紙を折ってポケットに入れた。


そして、昨夜まで隠していた名前も、その紙の中に入れた。


まだ誰にも見せない。


ただ、自分の中だけで整理する。


それだけで十分だった。


部屋を出ると、廊下の先に白石が立っていた。


「どこへ行く?」


「人に会います」


「誰に?」


透は一瞬だけ黙った。


「まだ決めていません」


白石は透を見た。


「そうか」


それ以上、聞かなかった。


透も何も言わなかった。


二人はすれ違った。


少し歩いたところで、透は振り返った。


白石はもう見えなくなっていた。


透は前を向いた。


今日会う人間が、何を知っているのかは分からない。


自分に何を隠すのかも分からない。


そして、自分自身が何を隠すことになるのかも分からない。


ただ一つだけ分かっていることがある。


情報を共有する相手を、自分で選べる。


その選択だけは、誰かに渡さなくていい。


透は静かに歩き始めた。

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