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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百七十二章 優先範囲

「優先範囲――未設定。」


女は、その文字を見つめていた。


「関連先――複数。」


「うん。」


「適用範囲――所在関連情報。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「どこを優先するかは。」


「未設定。」


「そう。」


女は画面を指でなぞった。


「じゃあ。」


「うん。」


「この情報は。」


「そう。」


「存在している。」


「うん。」


「使える可能性もある。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「どこに使うかが決まっていない。」


「そう。」


「だから確認待ち。」


「そう。」


女はノートを開いた。


「情報の存在。」


「うん。」


「情報の分類。」


「うん。」


「情報の適用先。」


「うん。」


「情報が誰を指しているか。」


「そう。」


彼女は一つずつ書いた。


「全部、別。」


透は頷いた。


「これまで。」


「うん。」


「私は。」


「そう。」


「一つの情報があったら。」


「うん。」


「その情報が誰を指しているのかを考えていた。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「この記録では。」


「そう。」


「情報が誰を指すかより先に。」


「うん。」


「どの業務に使えるかが決められる。」


「そう。」


女は書き終えると、画面を見た。


「じゃあ。」


「うん。」


「関連先が複数というのは。」


「そう。」


「R―3とP―4と。」


「うん。」


「第三の記録。」


「そう。」


「それぞれに。」


「うん。」


「この情報が使える可能性がある。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「全部に同じように適用するわけではない。」


「そう。」


「優先順位が必要。」


「そう。」


女は少し考えた。


「その優先順位を決める条件は?」


透は検索した。


「関連先優先条件。」


「うん。」


「三つ。」


「何?」


「業務区分。」


「うん。」


「入力経路。」


「うん。」


「名称使用区分。」


「また。」


「そう。」


女は苦笑した。


「また名前。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「今回は名前だけじゃない。」


「そう。」


「業務区分と。」


「うん。」


「入力経路。」


「そう。」


「三つがそろったとき。」


「うん。」


「適用先の優先順位が決まる。」


「そう。」


女は画面を見た。


「兄の日は?」


透が確認する。


「業務区分――所在関連情報。」


「うん。」


「入力経路――業務窓口。」


「うん。」


「名称使用区分――業務名称。」


「うん。」


「三つとも。」


「一致している。」


「そう。」


女は黙った。


「だから。」


「うん。」


「この情報は。」


「そう。」


「所在関連情報に。」


「うん。」


「優先的に適用される可能性が高い。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「実際には。」


「優先範囲――未設定。」


「そう。」


「なぜ?」


透は設定履歴を開いた。


「兄の日の処理開始時。」


「うん。」


「優先条件そのものは存在していた。」


「そう。」


「ただ。」


「うん。」


「複数の関連先が同じ条件を満たした場合の処理が。」


「未設定。」


女は画面を見た。


「つまり。」


「うん。」


「条件はある。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「条件を満たしたものが複数あった場合。」


「そう。」


「どれを選ぶかが決まっていない。」


「そう。」


「だから。」


「うん。」


「確認待ち。」


「そう。」


女は椅子にもたれた。


「それなら。」


「うん。」


「今までの『一致』も。」


「そう。」


「少し違って見える。」


「どう?」


「一致した。」


「うん。」


「だから一つに絞れる。」


「そう。」


「と思っていた。」


「うん。」


「でも。」


「そう。」


「一致したものが複数ある場合。」


「うん。」


「一致していても。」


「そう。」


「一つには決まらない。」


「そう。」


「だから。」


「うん。」


「一致と確定は。」


「別。」


「そう。」


女はノートに書いた。


「一致≠一意。」


透はその文字を見た。


「それは。」


「うん。」


「今回かなり大事だと思う。」


「そう。」


「名称使用区分が一致しても。」


「うん。」


「業務区分も一致して。」


「うん。」


「入力経路も一致して。」


「そう。」


「それでも。」


「うん。」


「関連先が複数あれば。」


「そう。」


「一つに決まらない。」


「そう。」


女は頷いた。


「じゃあ。」


「うん。」


「兄の日の記録が。」


「そう。」


「確認待ちになったのは。」


「うん。」


「条件が足りなかったからではない。」


「そう。」


「条件が。」


「うん。」


「複数の記録を同時に満たしていたから。」


「そう。」


女はしばらく考えた。


「それなら。」


「うん。」


「P―4。」


「うん。」


「R―3。」


「うん。」


「第三の記録。」


「うん。」


「この三つのうち。」


「そう。」


「どれか一つが正しい。」


「そうとは限らない。」


「全部、別の意味で正しい?」


「その可能性はある。」


女は画面を見た。


「それぞれ。」


「うん。」


「違う種類の情報を持っている。」


「そう。」


「だから。」


「うん。」


「一つにまとめる必要もない。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「処理する側は。」


「そう。」


「どれを優先するか決めなければならない。」


「そう。」


「その決まりが。」


「未設定。」


「そう。」


女は静かに息を吐いた。


「ここ。」


「うん。」


「かなり人間的な問題に見える。」


「どういう意味?」


「記録は。」


「うん。」


「条件を並べられる。」


「そう。」


「一致も判定できる。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「複数の候補が出たとき。」


「そう。」


「どれを選ぶか。」


「そう。」


「その判断まで自動で決められるとは限らない。」


「そう。」


「だから。」


「うん。」


「最後に人間の判断が必要になる。」


「そう。」


女は画面を見た。


「でも。」


「うん。」


「その人間が。」


「そう。」


「誰だったかは。」


「分からない。」


「そう。」


「判断した内容も。」


「全部は残っていない。」


「そう。」


「だから。」


「うん。」


「結果だけが残る。」


「そう。」


女はその言葉を書いた。


「判断の痕跡はある。」


「うん。」


「判断そのものは見えない。」


「そう。」


透はしばらく黙っていた。


「ただ。」


「うん。」


「兄の日には。」


「そう。」


「一度。」


「うん。」


「記録外情報が存在すると判定されている。」


「そう。」


「その後。」


「うん。」


「本人識別情報が補完された。」


「そう。」


「さらに。」


「うん。」


「複数の関連先があると判定された。」


「そう。」


「そして。」


「うん。」


「利用状態が確認待ちになった。」


「そう。」


女はその順番を見た。


「記録外情報。」


「うん。」


「補完。」


「うん。」


「関連先複数。」


「うん。」


「確認待ち。」


「そう。」


「全部。」


「うん。」


「同じ情報について起きている?」


透は答える前に検索した。


「それは。」


「うん。」


「確定できない。」


「そう。」


「それぞれの記録番号が違う。」


「そう。」


「関連付けはある。」


「うん。」


「でも。」


「同一案件として統合されていない。」


「そう。」


女は頷いた。


「また。」


「うん。」


「つながっているように見える。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「完全にはつながっていない。」


「そう。」


「それなら。」


「うん。」


「私たちが勝手につないだら。」


「そう。」


「記録以上の話を作ってしまう。」


「そう。」


女はノートを閉じた。


「だから。」


「うん。」


「今は。」


「そう。」


「関連付けられている記録だけを見る。」


「そう。」


「関連付けられていないものは。」


「うん。」


「候補として置いておく。」


「そう。」


そのとき、透が別の履歴を見つけた。


「一つある。」


「何?」


「優先範囲の設定変更。」


「いつ?」


「兄の日の翌日。」


女が顔を上げた。


「翌日?」


「そう。」


「何が変わった?」


透は画面を開いた。


「変更前――複数候補。」


「うん。」


「変更後――業務区分優先。」


女は黙った。


「業務区分。」


「そう。」


「名称より先に?」


「そう。」


「入力経路より?」


「そう。」


「業務区分を優先するようになった。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「その変更理由。」


透が読む。


「関連先複数時の判断基準明確化。」


「……兄の日の翌日。」


「そう。」


「その日から。」


「うん。」


「業務区分が優先された。」


「そう。」


「兄の日は。」


「うん。」


「まだ優先順位がなかった。」


「そう。」


女は少し考えた。


「だから。」


「うん。」


「兄の日の処理では。」


「そう。」


「R―3も。」


「うん。」


「P―4も。」


「うん。」


「第三の記録も。」


「うん。」


「候補になった。」


「そう。」


「翌日からは。」


「うん。」


「業務区分が違えば。」


「そう。」


「優先順位をつけられる。」


「そう。」


女は画面を見た。


「この変更。」


「うん。」


「兄の日の処理を。」


「そう。」


「後から整理するためだった可能性は?」


「可能性はある。」


「でも。」


「うん。」


「その変更が。」


「兄の日のためだったとは。」


「言えない。」


「そう。」


「同じ問題が。」


「うん。」


「以前から存在していた?」


「そう。」


透が履歴を検索する。


「三年前。」


「うん。」


「同じ理由の変更申請が一件。」


「そのときは?」


「業務区分優先ではなく。」


「うん。」


「入力経路優先。」


「そう。」


「二年前。」


「うん。」


「名称使用区分優先。」


「そう。」


「そして兄の日の翌日。」


「業務区分優先。」


女は頷いた。


「つまり。」


「うん。」


「優先順位そのものが。」


「そう。」


「何度も変わっている。」


「そう。」


「その時々の業務上の都合で。」


「そう。」


「だから。」


「うん。」


「兄の日の翌日の変更も。」


「そう。」


「特別なものとは限らない。」


「そう。」


女は画面を閉じた。


「でも。」


「うん。」


「兄の日に。」


「そう。」


「優先順位が未設定だった。」


「そう。」


「それは事実。」


「そう。」


「そして。」


「うん。」


「翌日。」


「そう。」


「業務区分優先になった。」


「そう。」


「これも事実。」


「そう。」


「その二つの間に。」


「うん。」


「何があったかは。」


「分からない。」


「そう。」


女はその三行を書いた。


「前日――未設定。」


「当日――未設定。」


「翌日――業務区分優先。」


ペンを置く。


「これだけで十分。」


「うん。」


「余計な意味を足さない。」


「そう。」


二人はしばらく黙っていた。


透が次の履歴を開いた。


「優先順位変更後。」


「うん。」


「兄の日の記録。」


「どうなった?」


「再評価。」


「いつ?」


「変更の三日後。」


「結果。」


透が画面を見る。


「優先先――所在関連情報。」


女は少し身を乗り出した。


「決まった?」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「本人一致確認は?」


「対象外。」


「そう。」


「つまり。」


「うん。」


「どの業務に使うかは。」


「そう。」


「決まった。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「それが誰の情報なのかは。」


「そう。」


「確認していない。」


「そう。」


女は画面を見た。


「じゃあ。」


「うん。」


「今まで探していた『兄がどこにいるか』という問いは。」


「そう。」


「この記録群からは。」


「うん。」


「直接出てこない。」


「そう。」


「出てくるのは。」


「うん。」


「情報が。」


「そう。」


「どの業務に使われたか。」


「そう。」


「どの記録と関連づけられたか。」


「そう。」


「どの条件で再利用されたか。」


「そう。」


「どの範囲に適用されたか。」


「そう。」


女は静かに言った。


「人の所在を探しているつもりで。」


「うん。」


「実際には。」


「そう。」


「情報の所在を追っている。」


透は答えなかった。


女はその言葉をノートに書いた。


「人の所在と、情報の所在は違う。」


しばらくして、彼女はページをめくった。


「それでも。」


「うん。」


「ここまで来たら。」


「そう。」


「もう一つだけ。」


「何?」


「優先先が決まった後。」


「うん。」


「その情報は。」


「そう。」


「どこへ行った?」


透が履歴を開く。


画面に、新しい項目が表示された。


「適用先――所在関連情報。」


その下に、


「後続処理――所在関連情報照会。」


さらに、


「照会先――記録対象外。」


と続いていた。


女は画面を見つめた。


「また。」


「うん。」


「照会先が。」


「そう。」


「記録対象外。」


「そう。」


「誰に照会したか。」


「分からない。」


「そう。」


「何を照会したかも。」


「詳細は制限。」


「そう。」


女はしばらく何も言わなかった。


そして、最後に一つだけ書いた。


「情報の行き先は分かる。」


「うん。」


「人の行き先は分からない。」


透は、その一行を見た。


画面にはまだ、


「照会先――記録対象外。」


と表示されていた。

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