第一百五十九章 引き継がれたもの
「旧担当者――引継ぎ状態確認。」
透が画面を開いた。
しばらく読み込んだあと、新しい記録が表示された。
「確認対象――旧担当者情報。」
「うん。」
「確認項目――権限。」
「うん。」
「担当業務。」
「うん。」
「引継ぎ対象。」
「そう。」
女は画面を見た。
「個人名は?」
「権限制限。」
「所属は?」
「C―12。」
「当時?」
「そう。」
「現在?」
「現在の所属は別管理。」
「なるほど。」
女は椅子に座った。
「まず、誰だったかは分からない。」
「うん。」
「でも。」
「うん。」
「何を持っていたかは分かる。」
「そう。」
「権限。」
「M―2。」
「担当業務。」
透が読む。
「外部照会関連。」
「うん。」
「旧記録参照。」
「うん。」
「業務名称対応。」
女は少し考えた。
「これ。」
「うん。」
「第七管理系統に残っている古い記録と。」
「そう。」
「かなり重なる。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「同じ仕事をしていたとは限らない。」
「そう。」
「担当業務の区分が。」
「うん。」
「同じでも。」
「そう。」
「実際に触った記録までは分からない。」
「その通り。」
女は頷いた。
「じゃあ。」
「うん。」
「引継ぎ状態。」
透が開いた。
「業務手順――引継ぎ済み。」
「うん。」
「処理区分――引継ぎ済み。」
「うん。」
「参照条件――引継ぎ済み。」
「うん。」
「旧記録保存場所――引継ぎ済み。」
「うん。」
「個別判断――引継ぎ対象外。」
女は黙った。
「また。」
「うん。」
「個別判断。」
「そう。」
「前にも出てきた。」
「そう。」
「引継ぎ対象外。」
「うん。」
「未引継ぎ情報として。」
「そう。」
「記録されていた。」
「そう。」
女は画面を見た。
「じゃあ。」
「うん。」
「旧担当者が個人的に判断していたことは。」
「記録されない。」
「正確には。」
透が言った。
「業務記録の引継ぎ対象ではない。」
女は頷いた。
「だから。」
「うん。」
「残っていないとは限らない。」
「そう。」
「別の場所にあるかもしれない。」
「そう。」
「あるかもしれないだけ。」
「うん。」
「分からない。」
「そう。」
女はノートを開いた。
「引継ぎ済み。」
「うん。」
「個別判断――対象外。」
「うん。」
「これも。」
「うん。」
「分けて書く。」
彼女は書き込んだ。
「業務は引き継がれた。」
その下に、
「判断が引き継がれたとは限らない。」
と書いた。
透がそれを見た。
「かなり違うね。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「記録上は。」
「そう。」
「同じ担当業務が続いている。」
「そう。」
「だから。」
「うん。」
「人が変わっても。」
「そう。」
「処理は続く。」
「そう。」
女は画面をスクロールした。
「引継ぎ日時。」
「兄の日の二か月前。」
「二か月前?」
「そう。」
「じゃあ。」
「うん。」
「兄の日の処理をした人が。」
「うん。」
「旧担当者本人とは限らない。」
「そう。」
「すでに交代している可能性がある。」
「ある。」
「じゃあ。」
「うん。」
「兄の日の処理を理解するには。」
「そう。」
「旧担当者だけを見ても足りない。」
「そう。」
「引継ぎを受けた側も見る必要がある。」
「そう。」
女は次の項目を開いた。
「引継ぎ先。」
「登録あり。」
「所属。」
「C―12。」
「権限。」
「M―2。」
「名前。」
「権限制限。」
「在籍期間。」
「権限制限。」
女は画面を見た。
「また二人。」
透が確認する。
「二人?」
「この時点で。」
「うん。」
「M―2を持っている人が。」
「二人いる。」
「そう。」
「旧担当者と。」
「うん。」
「引継ぎ先。」
「そう。」
「じゃあ。」
女は指を止めた。
「兄の日には。」
「うん。」
「旧担当者がもういなくても。」
「そう。」
「同じM―2を持つ人がいる。」
「そう。」
「それなら。」
「うん。」
「権限だけを追っても。」
「人は特定できない。」
「そう。」
女は少し笑った。
「また。」
「うん。」
「人を追えなくなった。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「仕事は追える。」
「そう。」
彼女は引継ぎ記録をさらに開いた。
「引継ぎ確認者。」
「登録あり。」
「所属。」
「C―12。」
「権限。」
「M―2。」
「名前。」
「権限制限。」
「確認日時。」
透が読む。
「兄の日の三日前。」
女が顔を上げた。
「兄の日の三日前。」
「そう。」
「引継ぎそのものは。」
「うん。」
「かなり前に終わっている。」
「そう。」
「三日前の確認は?」
「引継ぎ状態確認。」
「何を確認した?」
「処理手順。」
「うん。」
「旧記録参照条件。」
「うん。」
「外部連携条件。」
「うん。」
「名称使用区分。」
女は黙った。
「名称使用区分。」
「そう。」
「兄の日の直前に。」
「うん。」
「もう一度確認している。」
「そう。」
「旧名称が。」
「うん。」
「業務名称として使えるか。」
「そう。」
「その確認?」
「可能性が高い。」
女は画面を見た。
「そして。」
「うん。」
「兄の日。」
「そう。」
「実際に使われた。」
「そう。」
「だから。」
「うん。」
「兄の日の処理は。」
「うん。」
「突然始まったわけではない。」
「そう。」
「三日前に引継ぎ状態を確認して。」
「うん。」
「旧名称の使用条件を確認して。」
「うん。」
「当日。」
「そう。」
「新しい入力方式で処理した。」
「そう。」
女は頷いた。
「それなら。」
「うん。」
「兄の日に起きたことの一部は。」
「そう。」
「業務再編の流れで説明できる。」
「そう。」
「新しい処理方式。」
「うん。」
「旧名称の再利用。」
「うん。」
「引継ぎ。」
「うん。」
「外部入力。」
「そう。」
「どれも。」
「うん。」
「前から準備されていた。」
「そう。」
女は少し黙った。
「じゃあ。」
「うん。」
「何が兄の日に特別だった?」
透は答えなかった。
女が画面を見た。
「今まで。」
「うん。」
「何度も同じことを確認してきた。」
「そう。」
「名称は特別じゃない。」
「うん。」
「外部入力も特別じゃない。」
「うん。」
「新方式も特別じゃない。」
「うん。」
「引継ぎも特別じゃない。」
「そう。」
「本人識別情報がないことも。」
「そう。」
「特別じゃない。」
「そう。」
「じゃあ。」
彼女は静かに言った。
「兄の日だけに起きたことは。」
透が検索画面を開く。
「後処理。」
「うん。」
「旧名称関連情報再確認。」
「うん。」
「記録外情報の確認。」
「うん。」
「本人識別情報の補完。」
「うん。」
「差異検出。」
「そう。」
女は頷いた。
「つまり。」
「うん。」
「特別なのは。」
「処理の入口ではなく。」
「そう。」
「入口の後。」
「そう。」
「最初の処理では普通だった。」
「うん。」
「その後。」
「そう。」
「何かが引っかかった。」
「そう。」
「それが。」
「本人識別情報状態の差異。」
「そう。」
女はしばらく考えた。
「だったら。」
「うん。」
「兄の日を調べるとき。」
「うん。」
「入口だけを見ていたら。」
「そう。」
「何も見つからない。」
「そう。」
「だから。」
「うん。」
「今まで。」
「うん。」
「ずっと出口側を見ている。」
透は頷いた。
「処理結果。」
「うん。」
「再確認。」
「うん。」
「補完。」
「うん。」
「差異。」
「そう。」
女は画面を閉じた。
「そして。」
「うん。」
「今度は。」
「うん。」
「引継ぎの後に。」
「そう。」
「何が追加されたのかを見る。」
「そう。」
透が次の検索を始めた。
「引継ぎ後追加記録。」
検索結果が一件だけ表示された。
女が画面を覗き込む。
「日時。」
「兄の日の午前十時五十二分。」
「外部入力の前。」
「そう。」
「内容。」
透が読む。
「処理条件追加。」
女は黙った。
「追加条件――記録外情報が存在する場合、補完確認を実施。」
「……」
「設定理由――過去記録との整合性確保。」
女は画面を見たまま動かなかった。
「それ。」
「うん。」
「いつ設定された?」
透が確認する。
「兄の日の当日。」
「何時?」
「午前十時三十七分。」
女はゆっくり息を吐いた。
「外部入力の三十七分前。」
「そう。」
「新しい条件が。」
「そう。」
「当日の朝に追加されている。」
「そう。」
「そして。」
「うん。」
「その条件が。」
「そう。」
「兄の日の処理で初めて使われた。」
「そう。」
女は画面を見つめた。
「これは。」
「うん。」
「少なくとも。」
「うん。」
「今までと違う。」
透は答えなかった。
女は続けた。
「でも。」
「うん。」
「この条件が。」
「そう。」
「兄のために作られたとは。」
「言えない。」
「そう。」
「設定理由は。」
「過去記録との整合性確保。」
「そう。」
「だから。」
「うん。」
「別の業務上の理由でも成立する。」
「そう。」
女は頷いた。
「それでも。」
「うん。」
「兄の日の三十七分前に。」
「そう。」
「条件が追加された。」
「そう。」
「その条件が。」
「うん。」
「後の記録外情報確認につながっている。」
「そう。」
「ここは。」
女はノートを開いた。
「時間として残す。」
彼女は書いた。
「10:37 処理条件追加」
その下に、
「10:52 条件追加後の初回確認」
さらに、
「11:14 外部入力開始」
と続けた。
最後に、
「15:12 本人識別情報補完」
と書いた。
そして、その四つを線で結ばずに並べた。
「まだ。」
「うん。」
「線にはしない。」
透は頷いた。
「時間が近いだけだから。」
「そう。」
「関係しているかもしれない。」
「うん。」
「していないかもしれない。」
「そう。」
女はノートを閉じた。
「でも。」
「うん。」
「次に見る場所は。」
「うん。」
「10時37分の条件追加。」
「そう。」
「誰が設定したか。」
「うん。」
「ではなく。」
「そう。」
「なぜその条件が必要になったのか。」
透は画面を見た。
「設定根拠――別管理。」
女は静かに言った。
「また。」
「うん。」
「別管理。」
「そう。」
「じゃあ。」
彼女は立ち上がった。
「今度は。」
「うん。」
「その別管理を探す。」
画面には、まだ一行だけ残っていた。
「設定根拠――別管理。」
その言葉の下には、参照先の番号が表示されていなかった。




