第一百五十七章 差異
「差異あり。」
女は、その言葉を見たまま動かなかった。
「比較対象は。」
透が画面を確認する。
「権限制限。」
「つまり。」
「まだ見えない。」
「そう。」
「比較したことだけは分かる。」
「うん。」
「何と何を比較したか。」
「分からない。」
「そして。」
「うん。」
「結果が差異あり。」
「そう。」
女は椅子に座り直した。
「いつの比較?」
「今日。」
「兄の日の処理を。」
「そう。」
「今日、もう一度見ている。」
「そう。」
「目的は。」
「補完資料との照合。」
「つまり。」
女は考えた。
「兄の日に作られた手動確認資料と。」
「うん。」
「何か別の情報を比較した。」
「そう。」
「その結果。」
「差異あり。」
「そう。」
女は画面を拡大した。
「差異の項目。」
「権限制限。」
「全部見えない?」
「そう。」
「じゃあ。」
女は息を吐いた。
「また。」
「うん。」
「一番重要なところだけ見えない。」
透は答えなかった。
「でも。」
女は続けた。
「差異があったこと自体は。」
「記録されている。」
「そう。」
「だから。」
「うん。」
「何かが変わった可能性はある。」
「可能性。」
「そう。」
「ただし。」
「うん。」
「比較対象の一方が現在の情報なのか。」
「分からない。」
「別の旧記録なのか。」
「分からない。」
「別の補完資料なのか。」
「分からない。」
「そう。」
女はノートを開いた。
「差異あり。」
その下に、
「対象不明。」
と書いた。
「これも残す。」
「うん。」
「決めない。」
「そう。」
彼女は画面を見た。
「でも。」
「うん。」
「一つだけ。」
「何?」
「今までの記録では。」
「うん。」
「兄の日の処理は。」
「うん。」
「条件に適合している。」
「そう。」
「名称も。」
「そう。」
「業務区分も。」
「そう。」
「入力経路も。」
「そう。」
「照会先も。」
「そう。」
「全部。」
「条件上は。」
「一致。」
「そう。」
「なのに。」
「うん。」
「今日の再確認で。」
「差異あり。」
「そう。」
女は少し考えた。
「つまり。」
「うん。」
「当時の処理条件と。」
「うん。」
「現在から見た何かの情報が。」
「うん。」
「一致していない。」
「可能性がある。」
「そう。」
「でも。」
女は言った。
「その差異が。」
「うん。」
「人の違いなのか。」
「うん。」
「記録の違いなのか。」
「うん。」
「経路の違いなのか。」
「うん。」
「分類の違いなのか。」
「そう。」
「まだ分からない。」
「そう。」
女は画面を閉じた。
「ここで。」
「うん。」
「兄の日の処理を。」
「うん。」
「最初から見直した方がいい。」
透は頷いた。
「何を?」
「『一致』だったところ。」
「うん。」
「全部。」
「全部?」
「うん。」
「名前一致。」
「うん。」
「連携識別子一致。」
「うん。」
「整合性一致。」
「うん。」
「情報状態一致。」
「うん。」
「全部。」
女は一つずつ指を折った。
「何が一致したのか。」
「うん。」
「何と何が一致したのか。」
「うん。」
「誰について一致したのか。」
「うん。」
「そして。」
彼女は最後の指を立てた。
「何が一致しなかったのか。」
透は検索を始めた。
まず「名称一致」。
「名称一致。」
「対象――旧名称。」
「うん。」
「結果――一致。」
「人?」
「対象外。」
「そう。」
「だから人ではない。」
「うん。」
次に「連携識別子一致」。
「対象――D―41―09。」
「うん。」
「結果――一致。」
「人?」
「対象外。」
「そう。」
「業務経路の識別子。」
「そう。」
次に「整合性一致」。
「対象――分類条件。」
「うん。」
「結果――一致。」
「人?」
「対象外。」
女は頷いた。
「次。」
「情報状態一致。」
「対象――個人識別情報。」
女の表情が変わった。
「人?」
「本人一致確認――未実施。」
「つまり。」
「情報の状態。」
「そう。」
女は画面を見た。
「四つの一致。」
「うん。」
「全部。」
「うん。」
「人を確認していない。」
「そう。」
「なのに。」
「うん。」
「記録だけ読むと。」
「そう。」
「『一致』が何度も出てくる。」
「そう。」
女は静かに言った。
「これが。」
「うん。」
「一番誤解しやすい。」
「そう。」
「一致。」
「うん。」
「同じ。」
「うん。」
「本人。」
「違う。」
「そう。」
「この三つが。」
「うん。」
「別。」
「そう。」
女はノートに大きく書いた。
「一致≠本人一致」
そして、その下に、
「差異≠本人差異」
と書いた。
透が見た。
「それも。」
「うん。」
「今の記録には。」
「そう。」
「差異あり。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「人の差とは限らない。」
「そう。」
女は頷いた。
「だから。」
「うん。」
「今度の差異も。」
「うん。」
「同じように分解する。」
透は再び詳細を開いた。
「差異区分――四項目。」
「四つ?」
「そう。」
「何?」
透が読む。
「名称使用区分。」
「うん。」
「業務区分。」
「うん。」
「入力経路。」
「うん。」
「本人識別情報状態。」
女は黙った。
「四つ。」
「そう。」
「これまでの条件。」
「うん。」
「名称。」
「うん。」
「業務区分。」
「うん。」
「入力経路。」
「そう。」
「そして。」
「本人識別情報。」
「そう。」
女は画面を見た。
「どれが違った?」
透が一つずつ開く。
「名称使用区分――一致。」
「業務区分――一致。」
「入力経路――一致。」
女の目が止まった。
「じゃあ。」
「うん。」
「最後。」
透が開いた。
「本人識別情報状態――差異あり。」
女は黙った。
「それだけ?」
「そう。」
「三つは一致。」
「うん。」
「一つだけ差異。」
「そう。」
「本人識別情報。」
「そう。」
女はしばらく画面を見ていた。
「でも。」
「うん。」
「本人一致ではない。」
「そう。」
「じゃあ。」
「うん。」
「何が違う?」
透が詳細を開こうとした。
「比較項目――」
そこで止まった。
「どうした?」
「また制限。」
「何が?」
「比較項目。」
女は画面を見た。
「じゃあ。」
「うん。」
「比較結果だけ。」
「差異あり。」
「理由。」
「権限制限。」
女は息を吐いた。
「でも。」
「うん。」
「一つだけ分かる。」
「何?」
「名称も。」
「うん。」
「業務区分も。」
「うん。」
「入力経路も。」
「うん。」
「当時と現在で一致している。」
「そう。」
「変わった可能性があるのは。」
「本人識別情報の状態。」
「そう。」
女は少し考えた。
「状態。」
「うん。」
「値じゃない。」
「そう。」
「つまり。」
「うん。」
「情報そのものが違うのではなく。」
「そう。」
「受信状態。」
「うん。」
「保存状態。」
「うん。」
「分離状態。」
「そう。」
「どこかが違う。」
「可能性がある。」
女は頷いた。
「なら。」
「うん。」
「兄の日に補完された本人識別情報と。」
「うん。」
「現在の分離後個人識別情報。」
「そう。」
「その管理状態が。」
「うん。」
「変わった可能性がある。」
「そう。」
女は画面を見た。
「それなら。」
「うん。」
「差異は。」
「うん。」
「兄が違うという意味ではない。」
「そう。」
「記録の状態が違う。」
「可能性が高い。」
「そう。」
女はノートをめくった。
「でも。」
「うん。」
「ここで。」
「うん。」
「一つ気になる。」
「何?」
「なぜ。」
「うん。」
「今日。」
「うん。」
「今さら。」
「うん。」
「兄の日の本人識別情報状態を。」
「そう。」
「再確認した?」
透は記録を検索した。
「再確認理由――旧名称関連情報再評価。」
女が顔を上げた。
「旧名称関連情報。」
「そう。」
「また。」
「うん。」
「旧名称。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「今回は。」
「本人識別情報状態。」
「そう。」
女は考えた。
「つまり。」
「うん。」
「旧名称関連情報の再評価をするために。」
「うん。」
「本人識別情報の状態差異が。」
「そう。」
「問題になった。」
「そう。」
「それなら。」
女は画面を見た。
「名前そのものではなく。」
「うん。」
「名前と本人情報の接続状態が。」
「うん。」
「問題になっている。」
「可能性がある。」
「そう。」
女は黙った。
「ここで。」
「うん。」
「兄の日のメッセージ。」
「うん。」
「『名前が同じなら、人も同じだと思うな。』」
透は彼女を見た。
「兄が言った。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「この記録を見た後だと。」
「うん。」
「その言葉の意味が。」
「少し違って見える。」
「どういう意味?」
女は首を振った。
「まだ決めない。」
「そう。」
「ただ。」
「うん。」
「名前が同じでも。」
「うん。」
「記録の状態が違う。」
「そう。」
「同じ記録でも。」
「うん。」
「扱われる区分が違う。」
「そう。」
「本人情報が存在していても。」
「うん。」
「本人一致とは限らない。」
「そう。」
女は画面を見た。
「兄が。」
「うん。」
「これを知っていたかどうかも。」
「分からない。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「兄の日の処理には。」
「そう。」
「実際に。」
「うん。」
「同じ名前と。」
「うん。」
「別の個人識別情報状態が。」
「そう。」
「同時に存在している。」
「そう。」
女は静かに息を吐いた。
「じゃあ。」
「うん。」
「次に見るべきなのは。」
「うん。」
「今日の再評価が。」
「そう。」
「何をきっかけに始まったのか。」
透は検索した。
再評価開始。
今日、午前。
「開始理由――過去記録との差異検出。」
女は画面を見た。
「過去記録。」
「うん。」
「どれ?」
透が詳細を開く。
「参照先――第三の記録。」
女の目が止まった。
「また。」
「うん。」
「第三の記録。」
「そう。」
「つまり。」
彼女はゆっくり言った。
「今日の再評価も。」
「うん。」
「第三の記録から始まっている。」
「そう。」
「そして。」
「うん。」
「比較の結果。」
「そう。」
「本人識別情報状態に差異。」
「そう。」
女は画面を見つめた。
「第三の記録が。」
「うん。」
「ずっと残っている。」
「そう。」
「兄の日にも。」
「そう。」
「今日も。」
「そう。」
「名前ではなく。」
「うん。」
「経路でもなく。」
「うん。」
「今度は。」
「うん。」
「本人識別情報の状態に。」
「そう。」
「何かを引っかけている。」
透は頷いた。
女はしばらく黙っていた。
そして、最後に一つだけ言った。
「第三の記録。」
「うん。」
「これ。」
「うん。」
「本当にただの古い記録なのかな。」
透は答えなかった。
画面には、今日の再評価記録が残っていた。
「再評価状態――継続。」
その下には、
「次回確認条件――本人識別情報状態の差異解消」
と表示されていた。
二人は、その一行をしばらく見つめていた。




