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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百四十五章 旧処理記録

「旧処理記録。」


女は、その文字を見た。


「N―08。」


「うん。」


「所在関連情報の前身。」


「そう。」


透は参照先を開いた。


最初に表示されたのは、N―08の分類定義だった。


「処理区分――所在関連処理。」


「対象――外部照会関連情報。」


「処理目的――所在関連情報の受付および照合。」


女はそこで止まった。


「所在関連処理。」


「うん。」


「やっぱり。」


「何が?」


「S―系統で『所在関連情報』になったのは。」


「うん。」


「兄の日に突然作られた分類じゃない。」


「そう。」


「N―08の時代から存在していた。」


「うん。」


女はさらに下を見た。


「旧処理条件。」


透が読む。


「名称照合。」


「うん。」


「外部入力。」


「うん。」


「業務区分。」


「そう。」


「本人一致確認――必須ではない。」


女は黙った。


「ここも。」


「うん。」


「ずっと同じ。」


「そう。」


「本人確認をしないことも。」


「うん。」


「昔からの処理条件。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「じゃあ。」


「うん。」


「S―系統に移行したから本人確認をしなかったわけじゃない。」


「そう。」


「N―08の時代から。」


「うん。」


「本人確認を必須にしていなかった。」


「そう。」


女は頷いた。


「理由は?」


透は旧処理記録の詳細を開いた。


「外部照会対応の継続性確保。」


「それだけ?」


「もう一つある。」


「何?」


「業務名称による照合を優先。」


女は眉を寄せた。


「業務名称。」


「うん。」


「個人名ではなく?」


「そう。」


「だから。」


「うん。」


「名前が一致しても。」


「本人確認には進まない。」


「そう。」


女は静かに言った。


「最初から。」


「うん。」


「人ではなく。」


「業務を照合する仕組みだった。」


「そう。」


女はノートを開いた。


「業務名称。」


「うん。」


「業務区分。」


「うん。」


「外部入力。」


「そう。」


「この三つ。」


「うん。」


「これが揃えば。」


「処理を続けられる。」


「そう。」


「本人が誰かは。」


「必須ではない。」


「そう。」


女は少し黙っていた。


「じゃあ。」


「うん。」


「兄の日の『所在関連情報』も。」


「うん。」


「兄の所在を確認するための情報とは限らない。」


「そう。」


「業務上の所在。」


「うん。」


「連絡先。」


「そう。」


「照会先。」


「うん。」


「管理位置。」


「そう。」


「そういう意味の『所在』。」


「定義上はそう。」


女は画面を見た。


「それなら。」


「うん。」


「兄が南区に入った日と。」


「うん。」


「所在関連情報が登録された日が同じでも。」


「そう。」


「それだけでは。」


「何も言えない。」


「そう。」


女は頷いた。


「でも。」


「うん。」


「分類根拠の詳細が残っている。」


「そう。」


「そこを見る。」


透は記録を開いた。


「分類根拠――旧処理記録参照。」


「うん。」


「参照対象――N―08―旧照会履歴。」


「そう。」


「参照項目――所在関連情報の分類条件。」


女は画面を見た。


「兄の日の入力内容を直接見て。」


「うん。」


「分類したわけじゃない。」


「そう。」


「過去のN―08の条件を参照して。」


「うん。」


「その条件に当てはめた。」


「そう。」


女は眉を寄せた。


「それなら。」


「うん。」


「兄の日の情報が何だったのかは。」


「この記録からは分からない。」


「そう。」


「分かるのは。」


「分類された理由。」


「うん。」


「内容そのものではない。」


「そう。」


女はしばらく黙っていた。


「でも。」


「うん。」


「この旧処理記録。」


「そう。」


「さらに古い記録を参照している。」


透は頷いた。


「ある。」


「どこ?」


「N―08―003。」


「開いて。」


透が開いた。


そこには、さらに古い分類変更の履歴があった。


「登録――六年前。」


「六年前。」


「うん。」


「旧分類――外部照会情報。」


「変更後――所在関連情報。」


女が止まった。


「ここで変わっている。」


「そう。」


「N―08が最初から所在関連だったわけではない。」


「うん。」


「途中で意味が変わった。」


「そう。」


女は履歴を見る。


「変更理由。」


透が読む。


「外部照会業務の統合。」


「うん。」


「旧照会先情報の一元化。」


「そう。」


「業務名称照合の標準化。」


女は画面を見つめた。


「また。」


「うん。」


「人ではない。」


「そう。」


「業務の整理。」


「うん。」


「照会先の統合。」


「そう。」


「名称照合の標準化。」


「うん。」


女は小さく息を吐いた。


「兄の日に出てきた仕組み。」


「うん。」


「かなり前から作られていた。」


「そう。」


「何年もかけて。」


「うん。」


「少しずつ名前を変えて。」


「そう。」


「管理先を変えて。」


「うん。」


「条件を変えて。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「過去の記録は残した。」


「そう。」


女は画面を見た。


「だから。」


「うん。」


「今の記録だけを見ると。」


「うん。」


「その意味が分からない。」


「そう。」


「昔の意味を知らないと。」


「うん。」


「同じ言葉でも違って見える。」


「そう。」


女は次の履歴を開いた。


「変更前の分類。」


「外部照会情報。」


「変更後。」


「所在関連情報。」


「そのとき。」


透が続けた。


「『所在』の定義が追加されている。」


「何?」


「管理位置。」


「うん。」


「連絡経路。」


「うん。」


「照会先。」


「うん。」


「業務上の関連情報。」


女は画面を見た。


「物理的な場所だけじゃない。」


「そう。」


「むしろ。」


「うん。」


「業務上どこにあるか。」


「そう。」


「誰が持っているか。」


「うん。」


「どの窓口につながっているか。」


「そう。」


女は頷いた。


「だから。」


「うん。」


「兄が南区に入った。」


「うん。」


「その日、所在関連情報が登録された。」


「そう。」


「でも。」


「うん。」


「それが兄の現在地を意味するとは限らない。」


「そう。」


女はしばらく黙った。


「ここまで分かって。」


「うん。」


「逆に。」


「うん。」


「最初の頃の『所在』という言葉を。」


「そう。」


「物理的な場所として読んでいたのが。」


「間違っていた可能性がある。」


透は答えなかった。


女は続けた。


「でも。」


「うん。」


「兄のメッセージには。」


「うん。」


「場所について書いてあった。」


「そう。」


「北側。」


「うん。」


「南区。」


「そう。」


「管理室。」


「うん。」


「旧建物。」


「そう。」


女はノートを見る。


「人の記憶では。」


「うん。」


「場所。」


「そう。」


「記録では。」


「うん。」


「業務上の位置。」


「そう。」


「この二つが。」


「うん。」


「同じ言葉で語られている。」


透は静かに言った。


「だから、混ざる。」


女は頷いた。


「そして。」


「うん。」


「混ざったまま追うと。」


「うん。」


「兄がいる場所と。」


「そう。」


「兄に関係する業務上の位置を。」


「同じものとして扱ってしまう。」


「そう。」


女は画面を閉じた。


「じゃあ。」


「うん。」


「次に見るべきなのは。」


透は答えを待った。


「N―08が最初に『所在』という言葉を使ったとき。」


「うん。」


「何を指していたのか。」


「定義の原文。」


「そう。」


「六年前。」


「うん。」


「最初の定義。」


女は検索欄を開いた。


「所在関連情報――初回定義。」


検索結果が一件表示された。


登録日は、さらに古かった。


「七年前。」


女が画面を見た。


「六年前じゃない。」


「うん。」


「N―08ができる前。」


「そう。」


「その言葉だけが先に存在していた。」


透は記録を開いた。


そこには短い一文だけが残っていた。


「所在――処理対象情報が、現在どの業務経路に置かれているかを示す情報。」


女はしばらく動かなかった。


「現在。」


「うん。」


「どの業務経路に置かれているか。」


「そう。」


「人がどこにいるかじゃない。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「じゃあ。」


「うん。」


「兄の日に登録された『所在関連情報』は。」


「うん。」


「兄の居場所を示すものではなく。」


「そう。」


「その情報が。」


彼女は言葉を探した。


「どの業務経路に置かれたか。」


透は頷いた。


「そう。」


女は静かにノートを閉じた。


「だったら。」


「うん。」


「今まで探していた『兄の所在』の中に。」


「うん。」


「最初から。」


「そう。」


「人の所在じゃない記録が混ざっていた。」


透は答えなかった。


女は画面を見た。


その下には、七年前の定義変更履歴がまだ残っていた。


そして、その最初の変更理由には、


「旧管理体系との対応確認」


と記されていた。


「また。」


女が呟いた。


「旧管理体系。」


透はその文字を見た。


「これまでの旧記録より。」


「さらに前。」


「そう。」


女は椅子に座り直した。


「まだ。」


「うん。」


「下がある。」


透は検索を続けた。


画面に、新しい管理区分が表示された。


「旧管理体系――第七管理系統前身。」


女はその名前を見た。


「第七管理系統の前。」


「そう。」


「そこまで戻る?」


透は少し考えてから答えた。


「戻らないと、最初の意味が分からない。」


女は頷いた。


「じゃあ。」


彼女は画面を見た。


「次は。」


「うん。」


「第七管理系統が、まだ第七管理系統ではなかった頃を見る。」


画面には、さらに古い記録の入口が表示されていた。


「旧管理系統記録――参照開始。」


そして、その登録日は。


八年前だった。

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