第一百三十八章 条件変更
変更履歴を開くと、最初に日付が表示された。
一年半前。
女は画面を見た。
「三年前じゃない。」
「うん。」
「一年半前。」
「そう。」
透は変更内容を開いた。
「変更対象――D―41―09付与条件。」
「うん。」
「変更前――外部連携受付。」
「変更後――外部連携受付+旧名称関連情報。」
女は黙った。
「旧名称。」
「そう。」
「つまり。」
彼女は画面を指した。
「一年半前から、旧名称に関係する情報がある場合に、D―41―09が付くようになった。」
「正確には。」
透が続ける。
「その条件が追加された。」
「うん。」
「それ以前からD―41―09は存在していた。」
「そう。」
「でも、旧名称関連情報は条件ではなかった。」
「そう。」
女はノートを開いた。
「三年前。」
「D―41―09新設。」
「一年半前。」
「条件変更。」
「兄の日。」
「その変更後の条件で使用。」
「うん。」
女はしばらく黙っていた。
「これ。」
「うん。」
「今までで一番、兄の日と近い。」
透は画面を見た。
「でも。」
「分かってる。」
女は先に言った。
「一年半前の変更が、兄のために行われた証拠はない。」
「そう。」
「旧名称関連情報を扱う仕事が増えたから変更した可能性もある。」
「うん。」
「実際、その頃に何件か使われている。」
透は履歴を確認した。
「三件。」
「三件?」
「条件変更後から兄の日まで。」
「見せて。」
一件目。
「旧名称関連情報――あり。」
「D―41―09――付与。」
「個人識別情報――なし。」
二件目。
「旧名称関連情報――あり。」
「D―41―09――付与。」
「個人識別情報――あり。」
三件目。
「旧名称関連情報――あり。」
「D―41―09――付与。」
「外部連携――あり。」
女は三件を見比べた。
「じゃあ。」
「うん。」
「兄の日だけ特別だったわけではない。」
「そう。」
「旧名称関連情報があれば、この番号が付く。」
「そう。」
「なら。」
女は一つずつ整理した。
「D―41―09が付いた。」
「うん。」
「旧名称関連情報があった。」
「うん。」
「それ自体は特別ではない。」
「そう。」
「でも。」
彼女は画面を指した。
「兄の日には、その後に関連性評価が出た。」
「そう。」
「過去の三件には?」
透が確認する。
「ない。」
「なぜ?」
「まだ分からない。」
女は黙った。
「条件変更だけでは説明できない。」
「そう。」
「番号が付いた理由は説明できる。」
「うん。」
「でも。」
彼女は続けた。
「なぜ、その番号を使った記録が本人確認担当まで行ったのかは説明できない。」
「そう。」
「そこが別。」
透は頷いた。
女は変更履歴の詳細を開いた。
「変更理由――旧名称関連情報の継続管理。」
「うん。」
「変更者――権限制限。」
「そう。」
「設定権限――M―2。」
「うん。」
「承認――自動条件確認。」
「また同じ。」
「そう。」
女は少し考えた。
「でも、変更の根拠はある。」
透が見る。
「根拠記録。」
「うん。」
「開いて。」
画面に表示された。
「外部連携方式改善記録。」
女が眉を寄せた。
「三年前の障害記録とは別。」
「そう。」
「登録は?」
「一年半前。」
「じゃあ。」
女は画面を見た。
「三年前の障害対応で仕組みを作った。」
「うん。」
「一年半前に、その仕組みを旧名称関連情報にも使えるように広げた。」
「そう。」
「理由は?」
透が読む。
「旧名称関連情報の分離保存に伴う検索経路統一。」
女は少し黙った。
「分離保存。」
「うん。」
「また。」
「そう。」
「個人情報と業務情報を分けた後。」
「うん。」
「旧名称関連情報を、どの経路で追うか統一した。」
「そう。」
女は頷いた。
「それなら、今までの話とつながる。」
「うん。」
「旧名称。」
「うん。」
「分離保存。」
「そう。」
「D―41―09。」
「うん。」
「Q―1。」
「そう。」
「全部、人の情報を直接つなぐためではなく。」
女は言葉を選んだ。
「分離された情報を、処理上つなぐための仕組み。」
透は頷いた。
「その方が近い。」
女は変更記録を見た。
「じゃあ。」
「うん。」
「一年半前の変更で、旧名称関連情報を扱う時にD―41―09が付く。」
「そう。」
「その番号を使って外部連携経路を追える。」
「うん。」
「だから兄の日にも、外部入力と第七管理系統がつながった。」
「そう。」
「そして。」
彼女は少し間を置いた。
「その経路があることで、関連性評価まで進んだ。」
「うん。」
女は画面を見た。
「それでも。」
「うん。」
「兄本人だとは確認されない。」
「そう。」
「ずっと。」
「うん。」
女は椅子に座り直した。
「不思議。」
「何が?」
「ここまで人に関係する情報が出てくるのに。」
「うん。」
「人そのものが出てこない。」
透は答えなかった。
「名前はある。」
「うん。」
「でも業務名称かもしれない。」
「そう。」
「個人識別情報はある。」
「うん。」
「でも本人一致はしない。」
「そう。」
「依頼者情報もある。」
「うん。」
「でも誰なのかは分からない。」
「そう。」
「関連可能性もある。」
「うん。」
「でも再結合しない。」
「そう。」
女は少し笑った。
「記録の中に人がいるのに。」
「うん。」
「人としては出てこない。」
透は画面を見た。
「仕組みがそうなっている。」
「そう。」
「個人情報と業務記録を分離するため。」
「うん。」
女は頷いた。
「だから、これは誰かが故意に隠したというより。」
「うん。」
「そもそも、そういう構造になっている。」
「可能性が高い。」
女は画面を閉じた。
「でも。」
「うん。」
「構造だからといって。」
「うん。」
「そこで何が起きたのかが分かるわけではない。」
透は頷いた。
「そう。」
「構造は理由を説明できる。」
「うん。」
「でも、個別の出来事までは説明しない。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「仕組みが分かること。」
「うん。」
「事件が分かること。」
「そう。」
「同じではない。」
透はその言葉を聞いて、少しだけ頷いた。
「それは大事。」
女は変更履歴をもう一度見た。
「じゃあ。」
「うん。」
「一年半前の変更を作った人を探しても。」
「うん。」
「それだけでは兄の日の処理者は分からない。」
「そう。」
「三年前の設定者も。」
「うん。」
「同じ。」
「そう。」
「条件を作った人。」
「うん。」
「その条件を使った人。」
「別。」
「そう。」
女は画面をスクロールした。
「でも。」
「うん。」
「一年半前の変更には、もう一つ項目がある。」
透が見る。
「変更後の初回運用確認。」
「初回。」
「そう。」
「いつ?」
透が表示する。
一年半前。
変更の二日後。
女はその記録を開いた。
「確認対象――旧名称関連外部入力。」
「うん。」
「確認結果――正常。」
「そう。」
「使用者所属――第七管理系統。」
女が止まった。
「第七管理系統。」
「うん。」
「誰が確認した?」
透は詳細を開いた。
「担当区分――登録あり。」
「名前?」
「権限制限。」
「人数?」
「一名。」
女は画面を見た。
「一人。」
「そう。」
「この人だけ?」
「初回運用確認では。」
「うん。」
「そう。」
女はしばらく黙っていた。
「この人の権限は?」
透が開く。
「M―2。」
女は息を止めた。
「またM―2。」
「うん。」
「所属は第七管理系統。」
「そう。」
「一年半前の初回確認。」
「うん。」
「兄の日の第七管理系統。」
「そう。」
女は画面を見た。
「同じ人?」
透はすぐには答えなかった。
「在籍期間を確認する。」
二人は記録を開いた。
その人物の在籍期間は、
「権限制限。」
「また。」
「そう。」
女は少し黙っていた。
そして、別の項目を見つけた。
「異動履歴。」
「ある?」
「ある。」
透が開く。
そこには、一行だけ記録されていた。
「一年半前――第七管理系統から異動。」
女が顔を上げた。
「兄の日には?」
透は続きを開いた。
「所属――権限制限。」
女は黙った。
「異動先は?」
「権限制限。」
「つまり。」
「同じ人かどうかは。」
透は画面を見た。
「まだ分からない。」
女は頷いた。
「でも。」
彼女は小さく言った。
「初回確認をした人間が、兄の日にも関係している可能性は残った。」
透は答えなかった。
「名前が見えない。」
「うん。」
「所属も隠れている。」
「そう。」
「だから。」
女は画面を見た。
「今度は人を追うんじゃなくて。」
「うん。」
「異動前と異動後の権限を追う。」
透は頷いた。
画面には、まだ開いていない項目が残っていた。
「異動後権限継続確認――一件。」
女はその文字を見つめた。
「継続。」
「うん。」
「何が継続した?」
透は、その項目を開いた。




