第一百三十五章 関連性評価
「関連性評価。」
女は、その言葉を見つめた。
「ここだけ。」
「うん。」
「今までと違う。」
透は頷いた。
「何が違う?」
「これまでは、記録が同じかどうかを確認していた。」
「うん。」
「名称が一致しているか。」
「うん。」
「業務区分が一致しているか。」
「そう。」
「入力経路が一致しているか。」
「そう。」
女は画面を指した。
「でも、これは違う。」
「うん。」
「別々の情報を、関連していると判断しようとしている。」
透は黙っていた。
女は記録をもう一度開いた。
「再結合要求――発生。」
「うん。」
「要求元――権限制限。」
「そう。」
「理由――確認対象の関連性評価。」
「うん。」
「実施結果――実施せず。」
「そう。」
女は少し考えた。
「誰かが、結びつけようとした。」
「そう。」
「でも、結びつけなかった。」
「うん。」
「なぜ?」
透は詳細を開いた。
「再結合不可条件――確認対象の識別根拠不足。」
女は黙った。
「識別根拠不足。」
「そう。」
「何が足りなかった?」
透がさらに開く。
「本人一致情報。」
女は画面を見つめた。
「本人一致情報。」
「うん。」
「つまり。」
「うん。」
「別々の記録を結びつけるには、本人一致が必要だった。」
「そう。」
「でも、本人一致は最初から実施していない。」
「うん。」
「だから、最後の再結合もできなかった。」
「そう。」
女は椅子に背を預けた。
「じゃあ。」
「うん。」
「最初から最後まで、同じところに戻ってくる。」
「本人確認。」
「うん。」
「本人一致。」
「そう。」
「そこだけがない。」
「そう。」
女は少し黙った。
「でも。」
「うん。」
「要求した人は、関連している可能性を感じた。」
透は頷いた。
「そういう記録には見える。」
「何かが似ていた。」
「うん。」
「同じ名前。」
「うん。」
「同じ業務区分。」
「うん。」
「同じ入力経路。」
「そう。」
「外部連携の時間も近い。」
「うん。」
「だから、関連性を確認しようとした。」
「可能性がある。」
女は眉を寄せた。
「でも。」
「うん。」
「それでも、本人一致情報がなかった。」
「そう。」
「だから、結びつけられなかった。」
「うん。」
女はノートに書いた。
「関連性を疑うこと。」
その下に、
「本人であると確認すること。」
さらに、
「記録を再結合すること。」
と書いた。
「三つは別。」
透は頷いた。
「関連しているかもしれない。」
「うん。」
「本人かもしれない。」
「うん。」
「でも、記録上は結びつけられない。」
「そう。」
女はペンを止めた。
「これなら。」
「うん。」
「兄の日の記録も、少し違って見える。」
透は画面を見た。
「どう?」
「誰かが兄を特定した記録ではない。」
「うん。」
「でも、誰かが何かの関連性を疑った可能性はある。」
「そう。」
「ただし、その理由は分からない。」
「うん。」
「何を見てそう思ったのかも分からない。」
「そう。」
「そして、最終的には結びつけていない。」
「うん。」
女は画面を見つめた。
「だから。」
「うん。」
「この記録から『兄だった』とは言えない。」
「そう。」
「でも。」
彼女は少し間を置いた。
「『誰も兄との関連性を考えなかった』とも言えない。」
透は頷いた。
「記録上、関連性評価の要求はある。」
「そう。」
女は要求履歴を開いた。
「もう少し詳しく見たい。」
透が開く。
「評価対象――分離後個人識別情報。」
「うん。」
「比較対象――旧個人照会履歴。」
女が黙った。
「また。」
「うん。」
「P―4。」
「そう。」
「そして、Q―1。」
「うん。」
女は画面を見た。
「評価の入口はQ―1。」
「そう。」
「比較対象はP―4。」
「うん。」
「じゃあ、今まで見てきた二つを直接比べようとした。」
「そう。」
「でも。」
「本人一致情報不足。」
「だから再結合できなかった。」
「そう。」
女は少し考えた。
「この要求を出した人は。」
「うん。」
「少なくとも、二つの記録が関連している可能性を認識していた。」
「そう。」
「でも、何を根拠に?」
透は画面を下へ送った。
「評価条件。」
女が見る。
「名称一致。」
「うん。」
「業務区分一致。」
「うん。」
「外部連携履歴一致。」
「うん。」
「時間差――一定範囲内。」
女が止まった。
「時間。」
「そう。」
「今まで見ていた。」
「うん。」
「一時間二十四分。」
「兄の日。」
「そう。」
「それも条件の一つだった。」
「可能性が高い。」
女は過去の案件を思い出した。
「じゃあ、さっきの五件。」
「うん。」
「全部同じ条件で検索した。」
「そう。」
「でも。」
「うん。」
「兄の日だけ、再結合要求が発生した?」
透は確認した。
過去四件には、再結合要求の記録はなかった。
女は画面を見た。
「これ。」
「うん。」
「初めて。」
「そう。」
「それなら、ここには違いがある。」
「うん。」
「分類条件は同じ。」
「そう。」
「外部入力も似ている。」
「うん。」
「でも、再結合要求だけが兄の日にある。」
「そう。」
女はしばらく黙っていた。
「じゃあ。」
「うん。」
「兄の日の外部入力には。」
「何か、別の条件があった。」
「可能性がある。」
「それを知りたい。」
「うん。」
透は再結合要求の評価条件を開いた。
「名称一致――あり。」
「業務区分一致――あり。」
「外部連携履歴一致――あり。」
「時間差――一時間二十四分。」
女が画面を見る。
「全部そろっている。」
「そう。」
「過去の四件は?」
透が比較する。
「名称一致――あり。」
「業務区分一致――あり。」
「外部連携履歴一致――二件。」
「時間差は?」
「条件範囲内。」
女が眉を寄せた。
「それなら。」
「うん。」
「なぜ過去二件では再結合要求がなかった?」
透は答えなかった。
「同じ条件なのに。」
「うん。」
「結果が違う。」
「そう。」
女は画面を見た。
「追加条件。」
「可能性がある。」
「開いて。」
透は評価条件の詳細を開いた。
そこには、
「補助判定――依頼者情報の存在」
とあった。
女が止まった。
「依頼者情報。」
「うん。」
「兄の日には存在していた。」
「そう。」
「過去の二件は?」
透が確認する。
一件目。
「依頼者情報――なし。」
二件目。
「依頼者情報――記録対象外。」
女は黙った。
「これ。」
「うん。」
「違いが見えた。」
「そう。」
「兄の日には、依頼者情報が保存されていた。」
「うん。」
「だから、関連性評価の対象になった。」
「可能性が高い。」
「でも。」
女は画面を指した。
「依頼者情報そのものは、まだ見えていない。」
「うん。」
「区分しか分からない。」
「そう。」
「つまり。」
彼女はゆっくり言った。
「依頼者情報が存在していたこと自体が、関連性評価を発生させた。」
透は頷いた。
「そういう条件になっている。」
女はノートに書いた。
「依頼者情報あり→関連性評価。」
その下に、
「依頼者本人の確認ではない。」
と書いた。
「これで。」
「うん。」
「兄の日だけ再結合要求が出た理由は説明できる。」
「そう。」
「でも。」
女は続けた。
「誰かが兄だと思ったからではない。」
「そう。」
「依頼者情報が存在したから。」
「うん。」
「それが条件に入っていた。」
「そう。」
女はしばらく画面を見ていた。
「じゃあ、最初から。」
「うん。」
「この仕組みは。」
彼女は言った。
「人を探していたわけじゃない。」
「そう。」
「条件に合う記録を、次の確認へ送っていただけ。」
「うん。」
「その途中で、人間が見ると。」
「うん。」
「誰かを探しているように見える。」
透は頷いた。
「そう見える可能性はある。」
女は静かに言った。
「でも。」
「うん。」
「ここまで来ても、兄がこの処理の対象だったかどうかは。」
透が答える。
「まだ確定できない。」
女は頷いた。
「それでいい。」
二人はしばらく画面を見ていた。
そのとき、関連性評価の最後の項目が表示された。
「評価結果――関連可能性あり。」
女が息を止める。
「関連可能性あり。」
「うん。」
「再結合は?」
「実施せず。」
「本人一致は?」
「未実施。」
女はその三行を並べて見た。
「関連可能性あり。」
「うん。」
「再結合せず。」
「うん。」
「本人一致未実施。」
「そう。」
女はゆっくり言った。
「これが。」
「うん。」
「この記録が言える限界。」
透は頷いた。
その直後、画面の一番下に小さな文字が表示された。
「評価結果通知先――本人確認担当。」
女が顔を上げた。
「本人確認担当?」
透はその項目を開いた。
しかし、表示されたのは、
「担当区分――登録なし」
だけだった。
女は画面を見たまま、動かなかった。




