第一百三十四章 不一致可能性
「分類結果との不一致可能性。」
女は、その文字を見つめていた。
「今まで。」
「うん。」
「分類結果は、条件どおりなら正しいと思っていた。」
「そう。」
「でも、ここでは。」
彼女は画面を指した。
「分類結果そのものを疑っている。」
透は頷いた。
「そう。」
「本人一致ではなく。」
「分類条件との整合性。」
「うん。」
「じゃあ、何が合わなかった?」
透は詳細を開いた。
「確認項目――名称使用区分。」
女が見る。
「業務名称。」
「うん。」
「入力時も業務名称だった。」
「そう。」
「なら一致している。」
「そう。」
「業務区分。」
「所在関連情報。」
「入力時も?」
「同じ。」
「入力経路。」
「業務窓口。」
「同じ。」
女は眉を寄せた。
「全部一致している。」
「うん。」
「それなのに、不一致可能性。」
「そう。」
女はしばらく黙っていた。
「じゃあ、表面に出ている項目じゃない。」
透は頷いた。
「隠れている項目?」
「可能性がある。」
「それを確認するために個人識別情報を参照した。」
「そう。」
女は画面を見た。
「でも本人確認はしない。」
「うん。」
「じゃあ、個人識別情報の何を確認した?」
透は参照詳細を開いた。
「存在状態。」
「存在しているか。」
「そう。」
「値そのものじゃない?」
「値は権限制限。」
「じゃあ。」
女は少し考えた。
「個人識別情報が存在するかどうかだけ確認した。」
「そう。」
「そして。」
彼女は画面を指した。
「存在していた。」
透は頷いた。
「そう。」
「でも、分類条件には個人識別情報が必要ない。」
「うん。」
「だから、存在していること自体は分類条件と関係ない。」
「そう。」
女は黙った。
「それなのに確認した。」
「うん。」
「なぜ?」
透はさらに記録を開いた。
「確認結果――個人識別情報あり。」
「それだけ?」
「そう。」
「追加処理は?」
「なし。」
「通知は?」
「Q―1へ。」
「さっきと同じ。」
「うん。」
女は画面を見つめた。
「なら。」
彼女はゆっくり言った。
「不一致というのは、分類結果と入力情報の不一致ではないのかもしれない。」
透は頷いた。
「そう。」
「分類結果と、個人識別情報の状態との不一致?」
「可能性がある。」
女は考えた。
「分類された情報は、『本人に関する情報』。」
「うん。」
「でも、本人を特定できる情報は。」
「存在していた。」
「なら。」
女は少し黙った。
「なぜ本人確認をしなかった?」
透は答えなかった。
「本人確認をしない仕様だから。」
「そう。」
「でも、個人識別情報が存在しているなら。」
「それを使えば確認できる。」
「可能性はある。」
「でも、使わなかった。」
「うん。」
女はノートを開いた。
「存在する。」
「うん。」
「参照できる。」
「うん。」
「でも、確認しない。」
「そう。」
「これは。」
女は言葉を探した。
「確認しないことが、意図的なのか。」
透はすぐに答えなかった。
「仕様かもしれない。」
「うん。」
「権限の制限かもしれない。」
「うん。」
「目的が違うだけかもしれない。」
「そう。」
女は頷いた。
「じゃあ、ここでも決められない。」
「うん。」
「でも、一つ分かった。」
「何?」
「個人識別情報が完全になかったわけではない。」
透は画面を見た。
「そう。」
「三年前の障害では欠損していた。」
「うん。」
「でも兄の日には。」
「存在していた。」
「そう。」
女はしばらく黙った。
「それなら、前の仕組みとの違いがある。」
「うん。」
「三年前は、個人識別情報が届かなかった。」
「そう。」
「兄の日は、存在していた。」
「うん。」
「それでも本人一致はしなかった。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「情報がないから確認できない。」
その下に、
「情報があっても確認しない。」
と続けた。
透は頷いた。
「二つは違う。」
「うん。」
「三年前は入力欠損。」
「そう。」
「兄の日は確認対象外。」
「そう。」
女は画面を見た。
「じゃあ。」
「うん。」
「兄の日の処理では、本人確認をしないという仕組みが維持されている。」
「そう。」
「個人識別情報の有無とは別に。」
「うん。」
女は少し考えた。
「それなら、さっきの『不一致可能性』は。」
「うん。」
「人の情報を確認するためではなく。」
「そう。」
「分類された情報の管理上の整合性を見るため。」
「そう。」
「だから、個人識別情報の存在だけ確認した。」
「うん。」
女は納得したように頷いた。
「でも。」
「うん。」
「その結果が『あり』だったことは。」
「記録として残った。」
「そう。」
「なら、その後の人が見たら。」
「本人が確認されたように見えるかもしれない。」
「そう。」
女は小さく息を吐いた。
「また。」
「うん。」
「記録の言葉が、人の意味に変換されてしまう。」
透は黙っていた。
「『個人識別情報あり』。」
女が読む。
「『本人一致確認――未実施』。」
「うん。」
「二つは同時に存在できる。」
「そう。」
「でも、片方だけ見ると。」
「意味が変わる。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「情報あり≠本人確認済。」
透は頷いた。
その時、女が別の項目に気づいた。
「確認前状態。」
「何?」
「分類結果の前。」
透が開く。
「入力状態――未分類。」
「うん。」
「個人識別情報――あり。」
女が止まった。
「分類前から。」
「うん。」
「個人識別情報は存在していた。」
「そう。」
「じゃあ。」
彼女は画面を見た。
「分類したから本人情報になったわけじゃない。」
「うん。」
「もともと個人識別情報は別に存在していた。」
「そう。」
「分類は、その情報に基づいて行われたわけでもない。」
「そう。」
「名称と業務区分で分類した。」
「うん。」
女は少し考えた。
「つまり。」
「うん。」
「同じ入力の中に。」
「名称関連情報と。」
「個人識別情報が。」
「別々に存在していた。」
「そう。」
「でも、分類処理は名称関連情報だけを使った。」
「うん。」
「個人識別情報は使わなかった。」
「そう。」
女は画面を見つめた。
「それなのに、後から個人識別情報を参照した。」
「うん。」
「ここが変。」
透は頷いた。
「そこが今回の確認対象。」
女はもう一度、処理順を確認した。
「外部入力。」
「うん。」
「個人識別情報あり。」
「そう。」
「名称照合。」
「うん。」
「自動分類。」
「そう。」
「分類結果。」
「本人に関する情報。」
「うん。」
「その後。」
「不一致可能性。」
「そして。」
「個人識別情報参照。」
「結果――あり。」
女は眉を寄せた。
「でも。」
「うん。」
「なぜ不一致の可能性が出たのか。」
透は画面を見た。
その項目の詳細には、これまで隠れていた条件が一つだけ表示されていた。
「不一致判定条件――個人識別情報の登録区分と分類区分が異なる場合。」
女は黙った。
「登録区分?」
透は開く。
「個人識別情報――分離後。」
「分類区分は?」
「旧個人照会履歴由来。」
女が画面を見る。
「違う。」
「そう。」
「だから、不一致可能性。」
「うん。」
「でも。」
彼女は続けた。
「これは人が違うという意味じゃない。」
「そう。」
「情報の管理区分が違う。」
「うん。」
女は少し安心したように息を吐いた。
「また。」
「うん。」
「人ではなく、記録の構造。」
透は頷いた。
「分離後の個人識別情報。」
「うん。」
「旧個人照会履歴。」
「そう。」
「この二つが同じ案件として再結合されているわけではない。」
「うん。」
「だから、分類結果と登録区分の間に差がある。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「区分不一致≠人物不一致。」
そして、その下に、
「記録上の不一致。」
と書いた。
透は画面を見た。
「これで、かなり整理できる。」
「うん。」
「兄の日の『不一致可能性』は。」
「人物の不一致ではない。」
「そう。」
「旧記録由来の情報と、分離後情報の管理区分の違い。」
「そう。」
女は画面を閉じようとした。
だが、その前にもう一つの項目が目に入った。
「再結合判定。」
彼女の手が止まる。
「再結合。」
透が見る。
「判定――実施せず。」
女はゆっくり息を吐いた。
「やっぱり。」
「うん。」
「最後まで。」
「人には戻していない。」
「そう。」
「情報は別々のまま。」
「うん。」
女は画面を見つめた。
「じゃあ、兄の日に起きたことは。」
透は答えなかった。
女が自分で続けた。
「人を特定した処理ではなく。」
「うん。」
「別々の記録が、同じ処理の中で参照された。」
「そう。」
「そして。」
彼女は少し間を置いた。
「それが、後から見ると一人の人間についての処理に見えてしまう。」
透は静かに頷いた。
その時、画面の右下に小さな表示が出た。
「再結合判定履歴――一件。」
女が振り向く。
「実施せず、なのに履歴がある。」
透は開いた。
そこには、
「再結合要求――発生」
とあった。
女は黙った。
「要求はあった。」
「うん。」
「でも。」
「実施されていない。」
「そう。」
「誰が要求した?」
透が詳細を開く。
「要求元――権限制限。」
「理由は?」
画面には一行だけ残っていた。
「理由――確認対象の関連性評価。」
女は、その文字を見つめた。
「関連性評価。」
透は頷いた。
「今までで初めて。」
「うん。」
「誰かが、別々の情報を。」
女はゆっくり言った。
「同じものとして結びつけようとした。」
画面には、その要求が発生した時刻だけが残っていた。
兄の日。
外部入力から、四時間二十七分後だった。




