第一百三十三章 一致したもの
「一致したのは、人じゃない。」
女は、もう一度その言葉を口にした。
透は画面を見ていた。
「本人一致確認――未実施。」
その下に、
「整合性確認結果――一致。」
とある。
「この二つは。」
女が言った。
「同時に成立している。」
「うん。」
「つまり。」
彼女は画面を指した。
「人は確認していない。」
「そう。」
「でも、別の条件は一致した。」
「うん。」
「その条件を知りたい。」
透は詳細項目を開いた。
最初に出てきたのは、
「確認対象――分類結果。」
だった。
「分類結果。」
「うん。」
「外部入力が『本人に関する情報』として分類された、その結果?」
「そう。」
女は頷いた。
「それと何を比べた?」
透は次の項目を開いた。
「比較対象――依頼者区分。」
女は黙った。
「外部。」
「依頼者区分が外部。」
「そう。」
「分類結果も外部入力。」
「うん。」
「それだけ?」
透はさらに開く。
「入力経路。」
「業務窓口。」
「分類条件上の入力経路。」
「業務窓口。」
女は少し眉を動かした。
「一致した。」
「そう。」
「他には?」
「名称使用区分。」
女が画面を見る。
「業務名称。」
「分類時の区分も?」
「業務名称。」
女は黙った。
「三つ。」
「うん。」
「依頼者区分。」
「外部。」
「入力経路。」
「業務窓口。」
「名称使用区分。」
「業務名称。」
「全部一致した。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「一致条件=人ではない。」
その下に、
「分類条件と入力属性の一致。」
と続けた。
透は頷いた。
「だから本人確認は必要なかった。」
「うん。」
「この整合性確認では。」
「そう。」
女は少し考えた。
「でも、ここで一つ変なところがある。」
「何?」
「分類結果は、名称と業務区分から作られた。」
「うん。」
「そして整合性確認では、その分類結果を使って、もう一度名称使用区分を見る。」
「そう。」
「つまり。」
彼女は言った。
「自分で作った分類結果を、自分で正しいと確認している。」
透は少し考えた。
「正確には。」
「うん。」
「分類結果と入力属性が一致していることを確認している。」
「同じじゃない?」
「少し違う。」
「どう違う?」
「分類が正しいかではなく。」
透は画面を指した。
「分類処理が、設定された条件どおりに動いたかを確認している。」
女は黙った。
「人が正しいかどうかを確認しているわけじゃない。」
「うん。」
「事実が正しいかどうかでもない。」
「そう。」
「条件どおりに処理されたか。」
「それだけ。」
「そう。」
女はしばらく画面を見た。
「じゃあ。」
「うん。」
「この『一致』は。」
「処理上の一致。」
「人間の意味での一致じゃない。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「処理上の一致≠事実上の一致。」
透は頷いた。
「この区別が重要。」
女はペンを置いた。
「じゃあ、四時間後に依頼者情報を見たのも。」
「処理の整合性を確認するため。」
「そう。」
「依頼者が誰なのかを確認するためではない。」
「うん。」
「そしてQ―1に通知された。」
「そう。」
「Q―1では何をした?」
透は通知後処理を開いた。
「分類結果確認。」
「うん。」
「参照対象――分離後個人識別情報。」
女が止まった。
「個人識別情報。」
「そう。」
「ここで初めて出てくる。」
「うん。」
「でも、本人一致は?」
透が読む。
「未実施。」
女は黙った。
「じゃあ、個人識別情報を見ても。」
「本人とは結びつけない。」
「そう。」
「何を見た?」
「参照状態。」
「中身ではなく?」
「うん。」
「参照可能か。」
「そう。」
「保存されているか。」
「そう。」
「外部入力分類と矛盾していないか。」
「うん。」
女は少し考えた。
「人を確認するための個人識別情報じゃない。」
「そう。」
「個人識別情報という種類の情報を、管理するために参照している。」
「うん。」
女は画面を見た。
「だから。」
「うん。」
「『個人識別情報を参照した』という記録があっても。」
「本人を特定したとは言えない。」
「そう。」
「また同じ。」
「うん。」
女は少し笑った。
「この記録、同じことばかり言っている。」
「そうかもしれない。」
「名称を見ても、人とは限らない。」
「うん。」
「個人識別情報を見ても、人を特定したとは限らない。」
「そう。」
「一致しても、本人一致ではない。」
「うん。」
「参照しても、内容を見たとは限らない。」
「そう。」
女はノートを見た。
「記録の言葉を、そのまま日常語に置き換えたら間違える。」
透は頷いた。
「この仕組みでは特に。」
二人はしばらく黙っていた。
やがて女が言った。
「じゃあ、兄の日の処理で確実に言えることを、一回整理しよう。」
透は頷いた。
女はノートを開いた。
「兄が南区に入った。」
「うん。」
「その後、外部照会があった。」
「記録上、そう。」
「外部から情報が入った。」
「そう。」
「その入力には旧名称関連情報が含まれていた。」
「そう。」
「名称使用区分は業務名称として扱われた。」
「うん。」
「自動分類された。」
「そう。」
「本人一致確認はされていない。」
「うん。」
「四時間後、依頼者情報が参照された。」
「そう。」
「でも、それも本人確認ではない。」
「そう。」
「そして、分類結果との整合性が確認された。」
「うん。」
女は一つずつ丸を付けた。
「ここまでは記録。」
透は頷いた。
女はその下に線を引いた。
「分からないこと。」
「うん。」
「外部の依頼者が誰だったのか。」
「そう。」
「外部へ伝達された情報の具体的内容。」
「うん。」
「外部から戻った情報の具体的内容。」
「そう。」
「その情報が兄についてのものだったか。」
「うん。」
「外部照会と兄の移動が関係していたか。」
「そう。」
女はペンを止めた。
「そして。」
「うん。」
「兄自身がこの処理を知っていたか。」
透は少し黙った。
「それも分からない。」
「そう。」
女は頷いた。
「かなり残っている。」
「うん。」
「でも。」
彼女は画面を見た。
「前よりは分かる。」
「何が?」
「何を見ればいいのか。」
透は黙って彼女を見た。
「最初は、兄がどこへ行ったかを探していた。」
「うん。」
「次に、誰が何を知っていたかを探した。」
「そう。」
「その後、名前を探した。」
「うん。」
「番号を探した。」
「そう。」
「記録を探した。」
「うん。」
「でも。」
女はノートを閉じた。
「名前も番号も記録も、それぞれ別の意味で使われている。」
「そう。」
「だから、一つにつなげようとすると間違える。」
透は頷いた。
「仕事を追う。」
女が言った。
「うん。」
「処理を追う。」
「うん。」
「その中で、誰の情報が必要だったのかを見る。」
「そう。」
女は少し考えた。
「それでも、兄だとは限らない。」
「うん。」
「でも、兄の日に何が動いたのかは分かる。」
「そう。」
女は画面を見た。
「じゃあ、次は。」
「うん。」
「兄の日の前後で、同じ条件を使った別の案件を見る。」
「比較する?」
「そう。」
「何を比較する?」
女は答えた。
「結果。」
「うん。」
「兄の日と同じ分類条件。」
「うん。」
「同じ外部連携。」
「うん。」
「同じ名称使用区分。」
「そう。」
「それなのに、結果が違った案件。」
透は少し考えた。
「それを見れば。」
「うん。」
「分類条件だけでは説明できない部分が分かる。」
「そう。」
女は画面を指した。
「そして。」
「うん。」
「もし兄の日だけ、別の処理へ進んでいたなら。」
透は答えなかった。
「その理由を探す。」
「うん。」
「でも。」
女は続けた。
「同じだったら。」
「うん。」
「兄の日だけを特別視する理由は、また一つ減る。」
透は頷いた。
「比較する。」
「そう。」
透は検索条件を入力した。
名称使用区分――業務名称。
入力経路――業務窓口。
外部連携――あり。
自動分類――対象。
本人一致――未実施。
検索範囲を過去三年間に設定する。
検索結果が表示されるまで、少し時間がかかった。
女は画面を見つめていた。
一件。
二件。
三件。
四件。
五件。
「五件。」
透が言った。
「兄の日を含めて?」
「含めて五件。」
女は少し息を吐いた。
「思ったより少ない。」
透は最初の記録を開いた。
そして、二人とも黙った。
最初の一件には、
「外部入力――業務窓口」
「名称使用区分――業務名称」
「自動分類――対象」
「本人一致――未実施」
と並んでいた。
その次の項目。
「外部入力後――所在関連情報照会。」
女が言った。
「兄の日と違う。」
「うん。」
「兄の日は?」
透は開いた。
「外部入力後――旧名称関連情報再確認。」
「違う。」
「うん。」
女は最初の案件に戻った。
「この案件は、誰かの所在を確認する処理へ進んでいる。」
「そう。」
「兄の日は、旧名称の扱いを再確認している。」
「そう。」
女はしばらく考えた。
「同じ入口。」
「うん。」
「同じ分類。」
「うん。」
「でも、その後が違う。」
「そう。」
女は次の案件を開いた。
そこには、
「外部入力後――依頼者区分確認。」
とあった。
三件目は、
「外部入力後――業務名称更新。」
四件目は、
「外部入力後――所在関連情報照会。」
そして五件目。
兄の日。
「旧名称関連情報再確認。」
女は画面を見比べた。
「これ。」
「うん。」
「兄の日の処理は。」
「うん。」
「分類されたことより。」
「そう。」
「分類された後に何をしたかの方が違う。」
透は頷いた。
「次は、そこを見る。」
女は画面を閉じずに言った。
「旧名称関連情報再確認。」
「うん。」
「何を再確認したのか。」
透は詳細を開いた。
その項目の下には、
「参照元――Q―1」
「参照先――不明」
「確認対象――個人識別情報」
と表示されていた。
女は黙った。
「今まで。」
「うん。」
「個人識別情報は見ても本人確認しないと言っていた。」
「そう。」
「でも、兄の日だけ。」
彼女は画面を指した。
「確認対象になっている。」
透は画面を見つめた。
その下に、さらに一行。
「確認理由――分類結果との不一致可能性。」
女は静かに言った。
「不一致の可能性。」
「うん。」
「じゃあ。」
彼女は画面を見た。
「兄の日には、最初から何かが合わなかったのかもしれない。」
透は答えなかった。
その言葉の意味を確かめるように、二人は次の項目を開いた。




