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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百三十二章 保存先変更

「依頼者情報の記録方式変更。」


女は、その文字を指でなぞった。


「三年前。」


「うん。」


「障害が起きた日と同じ。」


「そう。」


「偶然?」


透は答えなかった。


女も、すぐには続けなかった。


「少なくとも。」


彼女は言った。


「同じ日に、二つの変更が行われている。」


「外部連携の条件変更。」


「うん。」


「依頼者情報の保存方式変更。」


「そう。」


女は履歴を開いた。


「変更前。」


透が読む。


「依頼者情報――業務記録内に一部保存。」


「変更後。」


「依頼者情報――別管理。」


女が顔を上げた。


「また、別管理。」


「うん。」


「これで三年前から。」


「人の情報が業務記録から離れていった。」


「そう。」


女は画面を見た。


「じゃあ、三年前の障害で個人識別情報が届かなかったのも。」


「うん。」


「その後に、依頼者情報を別管理へ移したのも。」


「そう。」


「同じ方向の変更。」


透は頷いた。


「業務記録と個人情報を分ける。」


「うん。」


「それ自体は、記録管理の整理として説明できる。」


「そう。」


「でも、その結果。」


女は言葉を選んだ。


「後から業務記録だけを見ると、人が消える。」


「そう。」


「依頼者も。」


「うん。」


「担当者も。」


「うん。」


「本人識別情報も。」


「そう。」


女はノートを開いた。


「残るのは。」


少し考えてから書いた。


「仕事。」


その下に、


「名称。」


さらに、


「処理。」


「日時。」


「権限。」


と続けた。


透はそれを見た。


「人間ではなく、仕事の痕跡だけが残る。」


「そう。」


「でも、人間の痕跡が全部消えたわけじゃない。」


「うん。」


「別管理には残っている。」


「そう。」


女はJ―3を見た。


「だから、消えたんじゃない。」


「管理場所が分かれた。」


「うん。」


「そして、業務記録との直接連結が禁止された。」


「そう。」


女はしばらく考えた。


「その結果。」


「うん。」


「別々に見ると、どちらも正しい。」


「そう。」


「業務記録を見ると、誰がやったか分からない。」


「うん。」


「人の記録を見ると、誰がその権限を持っていたかは分かる。」


「そう。」


「でも、それが実際の処理と結びつかない。」


「うん。」


女は小さく頷いた。


「だから、後から見る人は推測するしかなくなる。」


「そう。」


「でも、推測は記録ではない。」


「うん。」


女は画面を閉じた。


「ここまでの構造は、かなり分かった。」


「うん。」


「でも、依頼者情報の保存先変更。」


「うん。」


「これが兄の日の記録にどう影響したのか。」


「まだ分からない。」


「そう。」


女はもう一度、保存先変更履歴を開いた。


「変更後の保存先。」


透が読む。


「X―4関連管理。」


女が止まった。


「X―4。」


「そう。」


「外部連携履歴参照管理。」


「うん。」


「じゃあ。」


彼女はゆっくり言った。


「三年前から、外部の依頼者情報はX―4側に分けられた。」


「そう。」


「だから、兄の日の外部入力を見ても。」


「依頼者情報が出ない。」


「うん。」


「見られないんじゃなくて。」


「保存場所が違う。」


「そう。」


女はX―4の履歴を開いた。


今まで見ていたのは、外部入力の経路と関連情報だった。


その下に、別の項目がある。


「依頼者情報参照履歴。」


女が言った。


「ある。」


透が確認する。


「兄の日。」


「ある?」


「一件。」


女は黙った。


「いつ?」


「外部入力の二十三分後。」


女が画面を見る。


「前に見たX―4の参照。」


「うん。」


「入力経路確認。」


「そう。」


「その時に、依頼者情報も見た?」


透は詳細を開いた。


「参照対象――外部連携履歴。」


「うん。」


「依頼者情報――参照対象外。」


女が息を吐いた。


「見ていない。」


「そう。」


「じゃあ、二十三分後の参照は。」


「入力経路と名称関連情報だけ。」


「依頼者は見ていない。」


「うん。」


女は少し安心したように見えた。


だが、すぐに画面へ戻った。


「他には?」


「何が?」


「兄の日のX―4。」


「依頼者情報参照履歴。」


透は日付を限定して検索した。


しばらくして、結果が一件表示された。


女の表情が変わった。


「ある。」


「うん。」


「時間は?」


透が読む。


「外部入力の四時間後。」


「四時間後。」


「そう。」


「何を見た?」


「依頼者情報。」


女は黙った。


「誰が?」


「権限制限。」


「目的は?」


透が読む。


「外部連携履歴の整合性確認。」


「整合性確認。」


「うん。」


女は画面を見つめた。


「つまり。」


「うん。」


「兄の日の外部入力について。」


「四時間後に。」


「依頼者情報が参照された。」


「そう。」


「でも。」


女は記録を指した。


「本人一致確認は?」


透が確認する。


「実施せず。」


女は黙った。


「依頼者情報を見たのに。」


「本人一致はしていない。」


「そう。」


「じゃあ、何を確認した?」


透は詳細を開いた。


「依頼者区分。」


「それだけ?」


「依頼者区分。」


「何だった?」


「外部。」


女は黙った。


「名前は?」


「権限制限。」


「所属は?」


「権限制限。」


「連絡先は?」


「権限制限。」


女は少し考えた。


「見えない。」


「うん。」


「でも、参照したことだけは残る。」


「そう。」


「そして、確認したのは。」


「依頼者が外部区分であること。」


「人そのものではない。」


「そう。」


女はノートに書いた。


「依頼者情報参照≠依頼者本人確認。」


透は頷いた。


「また同じ構造。」


「うん。」


女はしばらく黙っていた。


「じゃあ。」


「うん。」


「この四時間後の参照は、何のため?」


「整合性確認。」


「何と何の?」


透が詳細を開いた。


「外部入力記録。」


「うん。」


「外部伝達履歴。」


「うん。」


「名称関連情報。」


女は少し眉を寄せた。


「名前。」


「そう。」


「また名前。」


「うん。」


「依頼者そのものではなく。」


「外部から来た情報の整合性。」


「そう。」


女は画面を見た。


「つまり。」


「うん。」


「誰が依頼したかを確認したんじゃない。」


「そう。」


「依頼者情報が、外部入力の記録上どう分類されているかを確認した。」


「そう。」


女はゆっくり頷いた。


「ここまで来ると。」


「うん。」


「誰かが兄を探したという証拠は、むしろ減っている。」


透は彼女を見る。


「どうして?」


「人を確認する処理が、どこにもない。」


「うん。」


「名前は見る。」


「そう。」


「業務区分も見る。」


「うん。」


「依頼者区分も見る。」


「そう。」


「でも、人と人を一致させる処理はない。」


「うん。」


女は画面を見た。


「それでも。」


「うん。」


「兄の日の外部入力は存在する。」


「そう。」


「そして、その入力の前に、同じ名称関連情報が外部へ伝達されている。」


「うん。」


「その後、依頼者情報が参照されている。」


「そう。」


「だから、完全に無関係とも言えない。」


「そう。」


「でも、関係があるとも言えない。」


「うん。」


女はノートを閉じた。


「またここ。」


透は頷いた。


「分からない。」


女は少し笑った。


「最近、その言葉に慣れてきた。」


「うん。」


「前なら、証拠が足りないと思って、何かを探していた。」


「そう。」


「今は。」


彼女は画面を見ながら言った。


「証拠が足りないこと自体が、記録の構造として残っている場合がある。」


透は何も言わなかった。


その時だった。


画面の下に、別の記録が現れた。


「依頼者情報参照後処理――一件。」


女が開く。


「参照後処理――保存先確認。」


「保存先?」


「X―4。」


「何を保存した?」


透が読む。


「参照結果。」


女は黙った。


「内容は?」


「権限制限。」


「じゃあ。」


彼女は画面を指した。


「結果そのものは見えない。」


「うん。」


「でも、参照したことと、結果を保存したことは分かる。」


「そう。」


女は少し考えた。


「その保存記録。」


「うん。」


「さらに別の記録へ通知されていない?」


透は検索した。


一件。


「通知先――Q―1。」


女の表情が変わった。


「Q―1。」


「分離後個人識別情報の参照管理。」


「また、そこ。」


透は頷いた。


「X―4からQ―1。」


「依頼者情報の参照結果が。」


「通知された。」


「何のために?」


透は通知理由を開いた。


そこには、


「通知理由――外部入力分類結果との整合性確認」


とあった。


女は画面を見つめた。


「分類結果。」


「うん。」


「依頼者情報。」


「そう。」


「Q―1。」


「うん。」


彼女はゆっくり言った。


「今まで別々に見ていた三つが。」


「うん。」


「ここで一度だけ、同じ処理の中に入っている。」


透は黙っていた。


画面には、その通知の次の項目が表示されていた。


「整合性確認結果――一致。」


その下には、


「本人一致確認――未実施。」


女は長い間、その二行を見ていた。


そして、静かに言った。


「一致したのは、人じゃない。」


透は画面を見た。


「じゃあ、何が一致した?」


その答えは、まだ表示されていなかった。

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