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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百三十章 別管理

「J―3。」


女は、その文字を見たまま動かなかった。


「また、ここ。」


透は頷いた。


「うん。」


「担当者個人情報管理。」


「そう。」


「三年前の変更担当は、ここでは分からない。」


「別管理だから。」


女は画面を指した。


「でも、参照先はJ―3。」


「うん。」


「つまり、担当者そのものは記録されている。」


「そう。」


「ただし、この業務記録とは直接つながっていない。」


「そう。」


女は少し考えた。


「前にもあった。」


「うん。」


「M―2の権限者。」


「J―3。」


「業務再編。」


「J―3。」


「引継ぎ。」


「J―3。」


「全部、人の情報は別に置かれている。」


透は頷いた。


「それが、この仕組みの原則らしい。」


女は画面を見た。


「原則。」


「うん。」


「じゃあ、三年前の変更担当を特定するには。」


「J―3を見る。」


「でも。」


「業務記録との直接連結はない。」


「そう。」


女は苦笑した。


「また同じところに戻ってきた。」


透はJ―3を開いた。


三年前の担当者一覧が表示された。


人数は四人だった。


女が画面を覗き込む。


「四人。」


「うん。」


「この中で、誰が設定を変更したかは?」


「分からない。」


「M―2権限は?」


透が確認する。


「二人。」


「三年前の外部連携権限は?」


「一人。」


「その一人は?」


「M―2も持っている。」


女は少し身を乗り出した。


「じゃあ、その人じゃない?」


透はすぐには答えなかった。


「権限を持っている。」


「うん。」


「変更できる条件を満たしている。」


「そう。」


「でも、変更した記録ではない。」


女は黙った。


「権限がある。」


「うん。」


「だから、できた。」


「そう。」


「でも、やった。」


「それは分からない。」


女は頷いた。


「そうだった。」


画面を閉じずに、J―3の履歴を見た。


「この四人。」


「うん。」


「その後どうなった?」


透は在籍履歴を開いた。


一人目は翌年に異動。


二人目は二年後に退職。


三人目は現在も在籍。


四人目は一年後に別管理系統へ移っていた。


女はそれぞれの履歴を見た。


「三人はもうここにいない。」


「うん。」


「一人は今もいる。」


「そう。」


「でも、今いるからといって三年前の変更者とは限らない。」


「そう。」


「むしろ、そこを結びつけたらまた同じことになる。」


透は頷いた。


「現在の所属から過去の操作を推測しない。」


女はノートに書いた。


「現在の人間≠過去の担当者。」


「うん。」


「権限保有者≠実際の操作者。」


「そう。」


「参照者≠設定者。」


「そう。」


女はペンを置いた。


「じゃあ、誰を探す?」


透は少し考えた。


「人じゃない。」


女が顔を上げる。


「また?」


「うん。」


「じゃあ何?」


「変更そのもの。」


女は黙った。


透は変更履歴を開いた。


「三年前の変更記録。」


「うん。」


「変更前。」


「旧形式。」


「変更後。」


「新形式。」


「変更理由。」


「外部連携方式変更対応。」


「うん。」


「そして変更後の初回使用。」


「……翌年。」


女が言った。


「三年前に変更して。」


「うん。」


「すぐには使われていない。」


「そう。」


「初めて使われたのは翌年。」


「うん。」


「それなら。」


女は画面を見た。


「この仕組みも、三年前から兄の日までずっと動いていたわけじゃない。」


「そう。」


「使われるたびに、別の入力が入っていた。」


「うん。」


「兄の日は、その中の一件。」


「そう。」


女は過去の使用履歴を開いた。


「三年前。」


「うん。」


「使用なし。」


「そう。」


「二年半前。」


「一件。」


「分類結果は?」


「対象外。」


「二年前。」


「二件。」


「対象外。」


「一年前。」


「三件。」


「そのうち一件が分類対象。」


女は画面を見つめた。


「もう、兄の日が最初じゃない。」


「うん。」


「この分類は、以前から使われている。」


「そう。」


「なら、兄の日だけを特別扱いする理由はない。」


「そう。」


女は過去の分類対象を開いた。


「でも。」


「うん。」


「ここに共通点がある。」


「何?」


「分類対象になった三件。」


透が見る。


「全部、入力経路が業務窓口。」


「うん。」


「名称使用区分が業務名称。」


「そう。」


「業務区分も同じ。」


「うん。」


女は指を動かした。


「つまり。」


「条件が一致している。」


「そう。」


「兄の日の入力も、その条件に入っている。」


「うん。」


女はしばらく黙った。


「これなら。」


「うん。」


「兄の日だけ特別な処理をされたとは言えない。」


「そう。」


「既存の分類条件に、そのまま入った。」


「そう。」


「だから、自動分類された。」


「うん。」


女は画面を見た。


「じゃあ、兄の日に起きたことの特殊性は。」


透は答えなかった。


女が続ける。


「分類そのものじゃない。」


「うん。」


「その前後にある。」


透は頷いた。


「そう。」


「外部伝達。」


「うん。」


「外部入力。」


「うん。」


「そして、旧名称との一致。」


「そう。」


女は過去三件の分類対象を調べた。


「この三件。」


「うん。」


「外部伝達は?」


「二件はあり。」


「一件は?」


「記録なし。」


「外部入力の前に、旧名称関連情報が外へ出たケース。」


「二件。」


「兄の日も?」


「ある。」


女は黙った。


「三件のうち二件。」


「うん。」


「そのうち一件が兄の日。」


「そう。」


「それなら、まだ珍しい。」


「珍しいことと、特別な意図は別。」


「分かってる。」


女はそう言ってから、もう一度画面を見た。


「でも、比較できる。」


「うん。」


「兄の日だけを見るより。」


「過去の同じ処理を見る。」


「そう。」


女は過去の一件を開いた。


二年前の記録だった。


「外部伝達――あり。」


「うん。」


「外部入力――あり。」


「そう。」


「名称一致――あり。」


「うん。」


「本人一致――未実施。」


「そう。」


「そして。」


女は次の項目を開いた。


「外部伝達から外部入力まで。」


透が時間を確認する。


「二時間十一分。」


女は兄の日の記録を開いた。


「兄の日は?」


「一時間二十四分。」


「違う。」


「うん。」


「でも、似ている。」


「そう。」


女はさらに過去の記録を開いた。


「もう一件。」


「うん。」


「四年前。」


「外部伝達あり。」


「外部入力あり。」


「名称一致あり。」


「本人一致未実施。」


「時間は?」


「三時間四分。」


女は黙った。


「つまり。」


「うん。」


「この流れ自体は、兄の日以前から存在していた。」


「そう。」


「だから、兄の日に突然作られた線ではない。」


「そう。」


女はノートに書いた。


「過去にも存在。」


その下に、


「兄の日にも発生。」


さらに、


「ただし同一案件とは未確認。」


と書いた。


透はその文字を見た。


「それでいいと思う。」


女は頷いた。


「分からないところを、分からないまま残す。」


「うん。」


「その方が、後で間違えにくい。」


二人はしばらく記録を眺めていた。


そのとき、四年前の記録の下に別の項目があることに気づいた。


「外部伝達前確認――一件。」


女が言った。


「何それ。」


透が開く。


「確認対象――旧名称。」


「目的は?」


「外部照会対応条件確認。」


「誰が?」


「権限制限。」


女は少し黙った。


「また、人が消えている。」


透は答えた。


「でも、今回は違う。」


「何が?」


「確認者ではなく。」


透は画面を指した。


「確認条件が残っている。」


そこには、


「確認条件――旧名称使用区分が業務名称であること。」


と記録されていた。


女はゆっくり顔を上げた。


「つまり。」


「外へ出す前に。」


「うん。」


「旧名称が業務名称として扱えるか確認している。」


「そう。」


「その条件を満たした情報だけが。」


「外部伝達へ進む。」


「うん。」


女は画面を見た。


「なら。」


彼女は静かに言った。


「兄の日の一時間二十四分前に外へ出た情報も。」


「うん。」


「その条件を通っていた可能性がある。」


「そう。」


「そして、その後に外部から戻ってきた情報も。」


「うん。」


「同じ名前の使われ方を前提に処理された。」


透は頷いた。


女はしばらく何も言わなかった。


やがて、ノートの最後に一行だけ書いた。


「誰かが名前を変えたのではない。」


そして、その下に続けた。


「名前を扱う条件が、先に変わっていた。」


透はその文章を見た。


その瞬間、画面の端に新しい履歴が表示された。


「条件設定変更――承認記録。」


日時は三年前。


承認方法は、


「自動条件確認」。


だが、その下に今まで見たことのない項目があった。


「条件設計根拠――旧外部連携障害対応記録。」


女が顔を上げた。


「障害対応記録?」


透は、その項目を開いた。


画面には一つの日時だけが表示されていた。


三年前。


そして、その記録の状態欄には、


「一部入力欠損」


とあった。

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