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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百二十五章 使われ方

「名前の使われ方。」


女は、そう繰り返した。


「うん。」


透は画面を見たまま答えた。


「じゃあ、名前そのものを追っても意味がない。」


「意味がないわけじゃない。」


「どう違う?」


「名前が、どの記録で、どの用途で、どの時点に使われたかを見る。」


女は少し考えた。


「名前の履歴を見る。」


「そう。」


「人の履歴じゃなくて。」


「うん。」


女はノートを開いた。


今まで書いてきた線を、一本ずつ消していった。


「旧名称。」


「うん。」


「現行業務名称。」


「うん。」


「同じ表示になることがある。」


「そう。」


「でも、管理区分は違う。」


「そう。」


「用途も違う。」


「うん。」


「時間も違う。」


「そう。」


女は新しいページを開いた。


「じゃあ、兄の日に使われた名称を確認する。」


透は頷いた。


画面には、外部入力の記録が表示されている。


「入力名称――権限制限。」


「見えない。」


「うん。」


「ただし、照合先は旧名称。」


「そう。」


「照合方法は名称照合。」


「うん。」


「本人一致は未実施。」


「そう。」


女は少し考えた。


「それなら、入力名称そのものが旧名称だったとは限らない。」


「うん。」


「現行業務名称を旧名称の検索索引で探した可能性もある。」


「ある。」


「名前の表示が同じなら、なおさら。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「つまり、システムが『同じ名前』と判断した。」


「正確には、指定された名称が検索条件に一致した。」


「人間ではない。」


「うん。」


「だから、システム上の一致と、人間が見て同じだと思うことも違う。」


「そう。」


女は書いた。


「検索一致≠本人一致。」


そして、その下に、


「表示一致≠管理情報一致。」


と続けた。


透は頷いた。


「ここまで来ると、最初の記録も見直せる。」


「どれ?」


「N―07。」


女は画面を見る。


「最初の頃のコード。」


「うん。」


「N―05、N―06、N―08を統合した。」


「そう。」


「そして現在ではC―12やS―系統に分かれている。」


「うん。」


「じゃあ、N―07そのものも。」


「名前と同じ。」


「一つの意味じゃない。」


透は頷いた。


「旧管理コードとしてのN―07。」


「うん。」


「統合処理を示すコードとしてのN―07。」


「そう。」


「後から参照される互換コードとしてのN―07。」


「うん。」


女は黙った。


「同じ番号なのに、使われる場所によって役割が変わる。」


「そう。」


「だから、番号も人も同じように扱えない。」


「うん。」


女は少し笑った。


「最初は、コードを見つければ答えが出ると思っていた。」


「僕も。」


「でも、コードを見つけるほど、逆に分からなくなる。」


透は画面を閉じた。


「正確には、分からない範囲が分かってきた。」


女は頷いた。


「それなら、前よりいい。」


二人はしばらく黙っていた。


やがて女が言った。


「一つ確認したい。」


「何?」


「兄が南区に入った日。」


「うん。」


「その日の前に、現行業務名称としての初回使用があった。」


「そう。」


「そして、その初回使用の前に、旧名称検索索引が更新されていた。」


「うん。」


「さらに、その前に、旧名称の使用区分が整理された。」


「そう。」


「つまり。」


女は指で時系列をなぞった。


「その日の処理は、その日に突然作られたわけじゃない。」


「そう。」


「何週間も前から準備されていた。」


「うん。」


「五年前から続いている仕組みもある。」


「そう。」


女は少し考えた。


「なら、兄の日だけを見ていると。」


「前後を切り取る。」


「うん。」


「その日の意味が大きく見えすぎる。」


「そう。」


「でも、前後を全部見ると。」


「その日が特別だったのかどうか、まだ分からない。」


透は頷いた。


「それが今のところ一番正確。」


女はノートを閉じた。


「じゃあ、兄の日に何か特別な処理があったかを見る。」


「うん。」


「通常処理と違うもの。」


「そう。」


二人は兄の日の処理一覧を開いた。


旧名称検索。


外部照会受付。


業務名称照会。


現行業務名称確認。


S―系統登録。


C―12通知。


どれも既存の処理だった。


女が一つずつ確認する。


「新しい処理は?」


「ない。」


「新しいコードは?」


「ない。」


「新しい権限は?」


「ない。」


「新しい業務区分は?」


「ない。」


「新しい管理系統は?」


「ない。」


女は画面を見た。


「全部、以前から存在している。」


「うん。」


「兄の日に初めて作られたものはない。」


「今見つかっている範囲では。」


女は頷いた。


「じゃあ、兄の日は。」


透は答えなかった。


「既存の仕組みが使われた日。」


「そう。」


「それ以上は、まだ言えない。」


「うん。」


女は椅子に座ったまま、しばらく画面を見ていた。


「でも。」


「何?」


「一つだけ、普通と違う。」


透が見る。


「外部入力の前に、旧名称関連情報が外へ伝達されている。」


「うん。」


「これは、いつもある処理?」


透は過去の履歴を検索した。


同じ名称について、過去三か月の記録を並べる。


外部照会。


名称確認。


業務名称案内。


しかし、同じ日に、


内部から外部へ名称関連情報を伝達し、


その後に外部から所在関連情報を受け取った記録は、


その日を除いて見つからなかった。


女が画面を見た。


「一件だけ。」


「うん。」


「でも、過去三か月。」


「そう。」


「もっと前は?」


透は検索期間を広げた。


半年。


一年。


三年。


同じ条件で検索する。


結果は変わらなかった。


「該当一件。」


女は黙った。


「これ。」


「うん。」


「初めて見る形。」


「そう。」


「兄の日だけに起きた。」


「少なくとも、この検索条件では。」


女は画面を指した。


「なら、ここは重要。」


透はすぐには答えなかった。


「重要かもしれない。」


「何が違う?」


「内部から外部へ情報を出した後、外部から情報が戻ってきたこと。」


「うん。」


「そして、その戻ってきた情報がS―系統に登録された。」


「そう。」


「この流れ自体が珍しい。」


「うん。」


女は少し身を乗り出した。


「じゃあ、外部に情報を出したことが、後の入力につながった可能性。」


「ある。」


「でも、誰が外部で受け取ったかは分からない。」


「そう。」


「何を返したかも分からない。」


「そう。」


「だから、ここから先は外部側の記録が必要。」


透は頷いた。


「内部記録だけでは限界がある。」


女は画面を閉じた。


「じゃあ、外部に出た情報を追う。」


「どこへ?」


「伝達先。」


「外部。」


「それだけ。」


「うん。」


「なら、次は外部側に残る照会番号。」


透は伝達記録を開いた。


「外部照会番号――記録対象外。」


女は黙った。


「ない。」


「うん。」


「外部側の番号を内部では保存していない。」


「そう。」


「じゃあ、追えない。」


「直接は。」


女は考えた。


「でも、外部から戻ってきた入力には何かあるかもしれない。」


透は外部入力記録を開いた。


「入力受付番号。」


「ある?」


「ある。」


女が顔を上げた。


「それを外部伝達記録と照合できる?」


透は確認した。


「直接照合は禁止。」


「また。」


「外部情報と内部情報の直接連結は禁止されている。」


女は少し黙った。


「じゃあ、間接的には?」


透は関連情報を開いた。


そこには、


「外部入力受付番号――E―27―184」


「連携区分――業務連携」


「参照可能関連情報――一件」


とあった。


女が言った。


「一件。」


「うん。」


「何?」


透は開こうとした。


その瞬間、画面に警告が出た。


「関連情報参照――追加権限が必要。」


女は画面を見た。


「M―2じゃない。」


「うん。」


「別の権限。」


透は権限名を確認した。


そこには、


「X―4」


と表示されていた。


女はその記号を見た。


「初めて。」


透も頷いた。


「うん。」


「X―4って何?」


透は定義を開いた。


しかし、そこには短い説明しかなかった。


「外部連携履歴参照管理。」


女は黙った。


「これまで、外部と内部の間だけが見えなかった。」


「うん。」


「その境界を見るための権限がある。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「じゃあ。」


透は頷いた。


「次は、X―4。」


画面の端には、


「X―4権限者――登録三名」


と表示されていた。

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