第一百二十四章 伝達元
「第七管理系統。」
女は、その文字を見た。
「外部入力の前に。」
「うん。」
「ここから情報が出ている。」
透は画面を見た。
「記録上はそう。」
「伝達先は?」
「外部。」
「誰?」
「記録対象外。」
女は黙った。
「また外部。」
「うん。」
「でも今回は、外部から入る前に、内部から外へ出ている。」
「そう。」
女はノートを開いた。
「内部――外部。」
その下に、
「伝達――入力。」
と書く。
「つまり、兄の日の外部入力は、完全に外から突然入ってきた情報ではない。」
透は少し考えた。
「少なくとも、その直前に同じ名称に関する内部処理がある。」
「第七管理系統から外部へ。」
「うん。」
「そして一時間二十四分後に、外部から同じ系統の情報が戻ってくる。」
「正確には、同じ名称が含まれた外部入力。」
女は顔を上げた。
「同じ名称。」
「そう。」
「同じ情報とは限らない。」
「うん。」
「誰が受け取ったかも分からない。」
「そう。」
「誰が返したかも。」
「分からない。」
女はペンを置いた。
「でも、順番はある。」
透は頷いた。
「伝達。」
「外部。」
「入力。」
「名称照合。」
「S―系統。」
女は小さく言った。
「一周している。」
「処理としては、そう見える。」
「でも、まだ。」
「うん。」
「一人の人間がやったとは限らない。」
「そう。」
「同じ組織が全部やったとも限らない。」
「そう。」
「第七管理系統から外部へ出した人と、外部から入力した人が同じとは限らない。」
「うん。」
女は書いた。
「伝達者≠入力者。」
その下に、
「同一名称≠同一情報。」
と続けた。
透は画面を拡大した。
「伝達内容――旧名称関連情報。」
「具体的な内容は?」
「非表示。」
「また。」
「権限制限。」
女は少し笑った。
「この言葉、何回目だろう。」
透は答えなかった。
「でも、今回は少し違う。」
「何が?」
「伝達内容の中身が見えなくても、何を伝えたかという区分は残っている。」
「旧名称関連情報。」
「うん。」
「つまり、名前そのものか。」
「それとも、名前に関連する情報。」
「どちらかは分からない。」
「そう。」
女は画面を見た。
「じゃあ、外部に渡ったものが『旧名称』そのものだったとは限らない。」
「うん。」
「旧名称が使えるという情報だった可能性もある。」
「ある。」
「旧名称に対応する業務があるという情報かもしれない。」
「ある。」
「過去にその名称が使われていたという情報かもしれない。」
「そう。」
女はため息をついた。
「一つの言葉に、何種類もある。」
透は頷いた。
「だから、名称関連情報だけでは内容を確定できない。」
二人はしばらく画面を見ていた。
やがて、透が伝達履歴を開いた。
「伝達理由――外部照会対応。」
女が顔を上げる。
「外部照会。」
「うん。」
「兄の日の二時間前の問い合わせと関係している?」
「時間的には近い。」
「でも、同じ記録とは書いていない。」
「そう。」
女は伝達先の項目を確認した。
「外部。」
「うん。」
「照会元は?」
「記録対象外。」
「依頼内容は?」
「旧名称関連情報。」
「つまり、第七管理系統が外部から質問を受けて。」
「うん。」
「その回答として何かを外部へ伝えた。」
「そう。」
女は画面を見た。
「なら、外部からの問い合わせが先。」
「この記録では、そう。」
「その問い合わせを受けて、旧名称を確認した。」
「うん。」
「そして外部へ回答した。」
「そう。」
女は少し考えた。
「じゃあ、その一時間二十四分後に入ってきた外部入力。」
「うん。」
「それが、同じ問い合わせの続きなのか。」
「分からない。」
「別の人が、同じ名前を使ったのか。」
「分からない。」
「同じ人が、別の経路で返答したのか。」
「分からない。」
「でも、時間が近い。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「近接≠連続。」
透は頷いた。
「重要。」
女は少し考えた。
「でも、もし同じ流れなら。」
「うん。」
「内部から外部へ情報が出る。」
「そう。」
「外部で誰かがその情報を使う。」
「うん。」
「その情報が、再び内部へ入る。」
「そう。」
「それなら、システムの中だけを追っても分からない。」
透は答えた。
「外部で何が起きたかが欠けている。」
女は黙った。
「外部記録がない。」
「そう。」
「だから、内部記録だけでは循環を完成できない。」
「うん。」
そのとき、透が別の項目を見つけた。
「外部伝達後処理。」
女が見る。
「何?」
「なし。」
「また。」
「うん。」
「回答した後は記録上、何もしていない。」
「そう。」
「じゃあ、外部から戻ってきた情報は。」
「別の入力として処理されている。」
「同じ案件としては紐づいていない?」
透は確認した。
「案件番号――別管理。」
「別管理。」
「元の外部照会と、後の外部入力の案件番号が違う。」
女は黙った。
「それなら。」
「うん。」
「同じ流れだと確認できない。」
「そう。」
「でも、名称は同じ。」
「うん。」
女はゆっくり言った。
「同じ名前を使った、別々の案件。」
「可能性はある。」
「同じ案件を、別々に登録した可能性もある。」
「ある。」
「記録の構造だけでは決められない。」
「そう。」
女は画面を見つめた。
「ここで、もう一つ。」
「何?」
「兄の日の外部入力。」
「うん。」
「その入力に、旧名称が入っていた。」
「そう。」
「そして、その一時間二十四分前に、第七管理系統から外部へ旧名称関連情報が伝達された。」
「うん。」
「なら。」
女は少し間を置いた。
「少なくとも、旧名称が外部に存在していた。」
透は頷いた。
「それは言える。」
「兄の日の入力より前に。」
「うん。」
「だから、外部入力にあった旧名称が、どこから来たのかを考えるなら。」
「この伝達記録は候補になる。」
「候補。」
「証明ではない。」
「分かってる。」
女は画面を閉じた。
「じゃあ、外部伝達の前を見る。」
「うん。」
「何がきっかけだったのか。」
透は一つ前の記録を開いた。
そこには、
「外部照会受付――一件。」
と表示された。
女は画面を見た。
「また外部照会。」
「うん。」
「受付時刻は?」
透が確認する。
「兄が南区に入った日の、四時間三分前。」
女が黙った。
「つまり。」
「うん。」
「兄が南区に入る四時間以上前から、旧名称についての照会が始まっていた。」
「そう。」
「その後、旧名称の使用可否が確認される。」
「うん。」
「さらに、その情報が外部へ伝達される。」
「そう。」
「その後、兄が南区に入る。」
「うん。」
「そして一時間二十四分後。」
透が続けた。
「外部から旧名称を含む所在関連情報が入力される。」
女は画面から目を離さなかった。
「時間だけ並べると。」
「一本に見える。」
「でも。」
「まだ一本ではない。」
「うん。」
女は小さく息を吐いた。
「じゃあ、最初の外部照会を見る。」
透は記録を開いた。
「受付区分――旧名称照会。」
「照会対象――旧名称。」
「照会目的――業務対応確認。」
「依頼元区分――外部。」
女が聞いた。
「依頼元は?」
「記録対象外。」
「また。」
「うん。」
「そして回答先は?」
透が一つ下を見る。
「第七管理系統。」
女は少し黙った。
「待って。」
「何?」
「第七管理系統が問い合わせを受けた。」
「うん。」
「それを確認して。」
「うん。」
「外部へ返した。」
「そう。」
「その回答が、一時間二十四分後の入力につながったかもしれない。」
「可能性はある。」
女は首を横に振った。
「でも、それだけじゃない。」
「何が?」
「この照会の目的。」
透が見る。
「業務対応確認。」
「うん。」
「所在確認じゃない。」
「そう。」
「人の確認でもない。」
「そう。」
「だから、最初から兄を探していたとは考えられない。」
「記録上は、そう。」
女はしばらく黙った。
「でも、旧名称を確認した。」
「うん。」
「その旧名称が、その日の後の外部入力に現れた。」
「そう。」
「ここだけは、偶然か、連続処理か。」
「まだ分からない。」
女は頷いた。
そして、最初の照会記録の下にある一行を見つけた。
「回答方法――業務名称案内。」
女は目を細めた。
「案内。」
「うん。」
「つまり、外部に伝えたのは。」
透は詳細を開いた。
そこには、
「回答内容――現行業務名称」
とあった。
女は黙った。
「旧名称ではない。」
「うん。」
「現行業務名称を外部へ伝えている。」
「そう。」
女は画面を見た。
「じゃあ。」
「うん。」
「兄の日の外部入力にあった名前は、旧名称そのものじゃない可能性がある。」
透は画面を見つめた。
「現行業務名称。」
「そう。」
「それを旧名称として検索した。」
女が言った。
「つまり、外部に伝えた名前と、内部で検索した名前が同じとは限らない。」
透は頷いた。
その瞬間、女が気づいた。
「待って。」
「何?」
「じゃあ、これまでの『同じ名前』という前提。」
透は黙った。
女は画面を指した。
「そもそも。」
「うん。」
「外部に伝えた現行業務名称。」
「そう。」
「内部で検索した旧名称。」
「うん。」
「その二つが、同じ表示名だった可能性がある。」
「ある。」
「でも、内部コードは違う。」
「そう。」
「だから、外から見ると同じ名前。」
「うん。」
「内部では別の管理情報。」
女はゆっくり言った。
「なら、外部入力にあった名前が何を意味していたのか。」
透は画面を見た。
「まだ、確定できない。」
女は頷いた。
「でも、一つ分かった。」
「何?」
「私たちが追っていた『名前』は。」
彼女は画面を指した。
「名前そのものじゃなくて、名前の使われ方だった。」




