第一百二十二章 使用可否
「使用可。」
女は、その二文字を見たまま動かなかった。
「これ。」
「うん。」
「三時間前に、確認されている。」
「そう。」
「そして、確認結果が『使用可』。」
「うん。」
女は画面を指した。
「でも、何を使うかは書いていない。」
透は確認した。
「対象――旧名称。」
「旧名称を、何のために?」
「現行業務名称として。」
「それは後の記録。」
「そう。」
女は少し考えた。
「じゃあ、この時点では。」
透は記録を読み直した。
「『この名称を現行業務名称として使ってよいか』を確認した。」
「誰が?」
「確認者区分――登録あり。」
「名前は?」
「権限制限。」
女は眉を寄せた。
「また名前がない。」
「うん。」
「でも、今回は権限が分かる。」
透は詳細を開いた。
「所属――C―12。」
女が顔を上げた。
「C―12。」
「うん。」
「兄の日に、C―12が旧名称を使えるか確認した。」
「記録上はそう。」
「そして、その三時間後に兄が南区に入った。」
「そう。」
女は黙った。
「時間が近い。」
「うん。」
「でも、時間が近いだけ。」
「そう。」
「この確認が兄のためだったとは言えない。」
「言えない。」
「同じ日に、別の業務が動いていただけかもしれない。」
「そう。」
女はノートを開いた。
「時刻一致≠目的一致。」
そこに書き加える。
「前処理≠対象人物への処理。」
透は頷いた。
「でも、確認したこと自体は事実。」
「うん。」
女は画面に戻った。
「確認の前に、何があった?」
透は前処理の履歴を一つ前へ戻した。
「旧名称使用履歴――検索。」
「結果は?」
「一件。」
「何が出た?」
「旧個人照会履歴。」
女は黙った。
「またP―4。」
「うん。」
「その一件は?」
透は詳細を開いた。
「名称――対象名称。」
「本人は?」
「照合していない。」
「個人識別用途は?」
「対象外。」
「じゃあ、何を見たの?」
「名称使用区分。」
女は息を吐いた。
「結局、また名前。」
「そう。」
「でも今回は、使えるかどうかを確認するために、昔の使われ方を見ている。」
「うん。」
「昔、個人照会関連名称だった。」
「そう。」
「その後、業務名称として使えるように整理された。」
「うん。」
「だから、現行業務名称として使用可。」
「そう。」
女はしばらく考えた。
「この流れだけなら、兄とは関係ない。」
「うん。」
「単なる業務準備。」
「可能性は高い。」
透はそこで言葉を止めた。
女が見る。
「今、何か引っかかった?」
「『可能性は高い』とは、まだ言わない方がいい。」
「どうして?」
「業務準備だったことは記録にある。」
「うん。」
「でも、その準備が何のために行われたのかは、まだ分からない。」
女は少し黙った。
「そうだね。」
透は続けた。
「現行業務名称として使えるようにした。」
「うん。」
「その後、実際に使われた。」
「兄の日に。」
「そう。」
「なら、少なくとも準備と使用はつながっている。」
「そこまでは言える。」
「でも、その使用対象が兄だったかは分からない。」
「うん。」
女は画面を見た。
「一つずつ。」
「そう。」
二人は次の記録を開いた。
「使用開始――同日。」
「使用者所属――C―12。」
「使用目的――外部照会受付。」
女が言った。
「外部照会。」
「うん。」
「二時間前の問い合わせと同じ?」
透は照合した。
「違う。」
「どこが?」
「二時間前のものは『業務名称照会』。」
「これは?」
「『外部照会受付』。」
「対象は?」
「所在関連情報。」
女は黙った。
「また、兄の話に近づいた。」
「うん。」
「でも、ここでも本人識別は?」
「対象外。」
「依頼者情報は?」
「記録対象外。」
「問い合わせ内容は?」
「所在関連情報。」
女は椅子にもたれた。
「誰かが、誰かの所在を確認した。」
「正確には、所在関連情報を照会した。」
「同じじゃない?」
「記録上は違う。」
女は透を見た。
「分かってる。」
そして画面に目を戻した。
「誰かの所在を知りたかったのか。」
「それは分からない。」
「業務上必要だったのか。」
「申請理由は記録されている。」
透が開いた。
「申請区分――業務上必要。」
女は少し笑った。
「それだけ。」
「うん。」
「業務上必要。」
「そう。」
「何が必要だったのかは、書かれていない。」
「少なくとも、この画面にはない。」
女はしばらく黙った。
「じゃあ、依頼元を見る。」
透は依頼元欄を開いた。
「外部。」
「誰?」
「記録対象外。」
「会社?」
「区分だけ。」
「個人?」
「分からない。」
「行政?」
「分からない。」
「元同僚?」
「分からない。」
「兄?」
「分からない。」
女はそこで口を閉じた。
しばらくして言った。
「何でも入る。」
「うん。」
「だから、何も決まらない。」
「そう。」
「でも、処理の形は決まっている。」
透は頷いた。
「外部から依頼。」
「うん。」
「C―12が受け付ける。」
「そう。」
「旧名称を検索する。」
「うん。」
「R―3を見る。」
「そう。」
「P―4を見る。」
「うん。」
「そしてS―系統に流す。」
「そう。」
女はノートを閉じた。
「人を追っているように見える。」
「うん。」
「でも、実際には仕事が流れている。」
「そう。」
「人ではなく、処理が動いている。」
透は画面を見た。
「ただし。」
「うん。」
「処理を動かす入力は、人間から来る。」
女は頷いた。
「だから、人間を完全に消すこともできない。」
「そう。」
「でも、記録上は人間を消して処理だけ残せる。」
「うん。」
女は静かに言った。
「それが一番厄介。」
透は何も答えなかった。
画面には、さらに一件の関連履歴があった。
「外部照会受付――受付後処理。」
「旧名称検索。」
「検索結果――一件。」
「名称使用区分――業務名称。」
「所在照会対象区分――旧業務情報。」
女が言った。
「また旧業務情報。」
「うん。」
「じゃあ、ここでも兄本人は対象じゃない。」
「本人識別は対象外。」
「でも、所在関連情報。」
「そう。」
女は画面を見た。
「ここまで来ると。」
「うん。」
「兄の日の処理は、兄を確認した処理ではない。」
「そう。」
「兄が入った南区という事実と、処理の日付が重なっているだけ。」
「今のところは。」
女は少し考えた。
「でも、もう一つ。」
「何?」
「兄が南区に入った後。」
「うん。」
「外部照会が始まった。」
「そう。」
「その前に、旧名称の使用可否が確認された。」
「うん。」
「つまり、順番はある。」
透は頷いた。
「順番はある。」
女は画面を指した。
「でも、因果関係はない。」
「まだない。」
「なら、次に見るべきなのは。」
透は少し考えた。
「使用可の確認結果が、誰に渡ったか。」
女はすぐに答えた。
「通知先。」
「うん。」
二人は通知履歴を開いた。
最初の一行。
「通知種別――業務連携。」
次の行。
「通知先――C―12。」
女が言った。
「自分たちのところ。」
「そう。」
「確認したC―12に戻っている。」
「うん。」
「通知理由は?」
透は画面を開いた。
「旧名称使用可否確認結果。」
女は黙った。
「つまり。」
「うん。」
「C―12が、使っていいか確認した。」
「そう。」
「使っていいという結果が返ってきた。」
「うん。」
「そして、その結果をC―12が受け取った。」
「そう。」
女は画面を見つめた。
「これ、循環している。」
透は答えた。
「業務処理としては循環していない。」
「でも、見える。」
「確認→承認→通知→使用。」
「うん。」
女はゆっくり言った。
「じゃあ、最後に。」
「何?」
「実際に使った記録を見る。」
透はその日の使用履歴を開いた。
そこには、短い一行だけが残っていた。
「旧名称使用――一件。」
「処理結果――受付開始。」
そして、その下に、
「使用後処理――S―系統へ連携。」
とあった。
女は画面を見た。
「これで、つながった。」
透は頷いた。
「処理としては。」
「うん。」
「旧名称使用可否確認。」
「うん。」
「使用許可。」
「うん。」
「外部照会受付。」
「そう。」
「S―系統へ連携。」
女はそこで止まった。
「でも。」
透も画面の下を見た。
そこには、まだ開かれていない関連記録が一件あった。
「連携元入力内容――詳細参照。」
女が小さく言った。
「ここ。」
「うん。」
「ここに、外部から何が入ったのかがある。」
透はクリックする前に手を止めた。
「ただし。」
女が言った。
「また、全部が見えるとは限らない。」
透は頷いた。
「それでも見る。」
二人は、その記録を開いた。




