第一百二十章 旧記録内容確認
「P―4。」
女は、その記号を見た。
「また戻ってきた。」
透は頷いた。
「うん。」
R―3からP―4。
参照目的――旧記録内容確認。
五年前の記録だった。
女は画面を見つめた。
「R―3がP―4を見た。」
「そう。」
「逆じゃない。」
「うん。」
「R―3は、旧照会回答。」
「そう。」
「P―4は、個人別照会履歴。」
「うん。」
女は少し考えた。
「じゃあ、五年前の時点では、R―3からP―4を参照する必要があった。」
「記録上はそう。」
「何を確認した?」
透は詳細を開いた。
そこには、
「参照対象――旧個人照会履歴」
「参照項目――名称使用履歴」
「本人一致確認――実施せず」
と表示されていた。
女は黙った。
「名前だけ?」
「うん。」
「本人は見ていない。」
「そう。」
「名前が、いつ、どの用途で使われたかを確認した。」
「そう。」
女は少し考えた。
「なら、今の業務名称がどうして生まれたのか。」
「その過程に、個人照会履歴が関係している。」
「でも、その個人と現在の業務名称を同一人物として扱ったわけではない。」
「うん。」
女はノートを開いた。
「旧記録を参照した≠旧記録の本人を確認した。」
その下に、
「名称使用履歴≠本人履歴」
と書いた。
透はその文字を見た。
「それが、この記録の意味かもしれない。」
「何が?」
「名前の使われ方を確認するために、昔の個人照会履歴を見た。」
「うん。」
「その結果を、今の業務名称管理に使った。」
「そう。」
女は画面を見た。
「それなら、個人情報を直接移さなくても、名前だけは移せる。」
「そう。」
「だから、P―4からR―3へ。」
「そして、R―3から第七管理系統へ。」
「さらに、現在のC―12やS―系統へ。」
透は頷いた。
「でも。」
女が言った。
「人そのものは移っていない。」
「そう。」
「情報の用途だけが変わっている。」
「その可能性がある。」
女はしばらく黙っていた。
「じゃあ、兄の日に出てきた名前も。」
「うん。」
「昔の誰かの名前が、そのまま兄を指していたとは限らない。」
「そう。」
「兄がその名前を使ったとも限らない。」
「うん。」
「誰かが、その名前を使って兄を探したとも限らない。」
「そう。」
女は頷いた。
「また分からない。」
「うん。」
透はP―4の古い履歴を開いた。
そこには、複数の名称使用記録が残っていた。
同じ名称。
違う日付。
違う処理。
違う管理区分。
女が一つずつ見ていく。
「これは外部照会。」
「うん。」
「これは業務確認。」
「うん。」
「これは旧記録参照。」
「そう。」
「全部、同じ名前。」
「うん。」
「でも、処理目的は違う。」
「そう。」
女は少し笑った。
「名前が一番信用できない。」
透は答えなかった。
しばらくして、女は言い直した。
「名前そのものが悪いんじゃない。」
「うん。」
「名前だけでは足りない。」
「そう。」
女はノートに、
「名称+用途+時点+管理区分」
と書いた。
「少なくとも、これくらい必要。」
透は頷いた。
「それでも足りないかもしれない。」
「うん。」
女は画面を見た。
「でも、今までよりは分かる。」
「何が?」
「どこで意味が変わったのか。」
透はP―4の履歴をもう一度確認した。
そこに、古い名称使用区分の変更履歴があった。
「変更前――個人照会関連名称」
「変更後――業務名称」
「変更理由――旧記録互換性維持」
女は指を止めた。
「旧記録互換性。」
「うん。」
「つまり、昔の記録を検索できなくなるから、名前を残した。」
「そう。」
「名前を残すことが目的だったんじゃない。」
「旧記録を使い続けることが目的。」
「そのために名前を残した。」
「うん。」
女はゆっくり頷いた。
「これなら、四年前の名称変更も分かる。」
「そう。」
「名前を変えなかった。」
「正確には、使用区分を変えた。」
「そうだった。」
「表示上は同じ名前。」
「内部では別の扱い。」
「うん。」
女は画面を見つめた。
「だから、昔の記録を知っている人と、今の記録を見る人では、同じ名前から違うものを想像する。」
「そう。」
「でも、システム上は、それを許容している。」
「旧記録との互換性のために。」
「うん。」
透はP―4の参照履歴を下へ送った。
すると、一件だけ他とは違う記録があった。
「参照目的――個人識別情報確認」
女が止まった。
「個人識別。」
「うん。」
「いつ?」
透は日時を確認した。
「五年前。」
「R―3がP―4を参照した日?」
「同じ日。」
女は黙った。
「でも、参照者は?」
「記録対象外。」
「権限は?」
「M―2。」
「またM―2。」
透は頷いた。
女は詳細を読む。
「参照対象――個人識別情報。」
「結果は?」
「取得済。」
「本人一致は?」
透は確認した。
「未実施。」
女が顔を上げた。
「個人識別情報を取得したのに、本人一致はしていない。」
「そう。」
「何のために?」
透は目的欄をもう一度確認した。
「個人識別情報確認。」
「でも、本人一致はしていない。」
「うん。」
女は黙った。
「これ、変じゃない?」
透は少し考えた。
「記録上は、矛盾していない。」
「どういう意味?」
「個人識別情報を見ることと、その情報が特定の人物と一致するか確認することは別処理だから。」
女は画面を見た。
「つまり。」
「識別情報そのものは取得した。」
「でも、その情報を誰か一人に結びつける処理はしていない。」
「そう。」
女はしばらく黙っていた。
「じゃあ、ここでも。」
「うん。」
「取得≠照合。」
「そう。」
女はノートに書いた。
「情報を取得した≠本人を確認した。」
透は頷いた。
そのとき、女が別の項目を見つけた。
「参照後処理。」
「何?」
「なし。」
「うん。」
「取得した後、記録を変更していない。」
「そう。」
「削除も。」
「ない。」
「追加も。」
「ない。」
「移管も。」
「ない。」
女は画面を見つめた。
「じゃあ、何のために見たのか。」
透は答えなかった。
五年前。
個人識別情報を取得。
本人一致は未実施。
参照後処理なし。
その情報が何に使われたのかは、記録上では分からない。
女が言った。
「ここが空いている。」
「うん。」
「今までの『未引継ぎ情報』とは違う。」
「そう。」
「これは、処理したことは残っている。」
「うん。」
「でも、その後の判断が残っていない。」
透は静かに言った。
「個別判断。」
女が頷いた。
「またそこ。」
「うん。」
二人はしばらく黙っていた。
そのとき、透が一つの関連記録を見つけた。
「参照後確認――一件。」
女が顔を上げた。
「何の確認?」
透は開いた。
「旧名称使用範囲。」
女は息を止めるように黙った。
「個人識別情報を取得した後。」
「うん。」
「旧名称の使用範囲を確認している。」
「そう。」
「そして、その結果が。」
透は読む。
「個人識別用途――制限。」
「業務照会用途――継続。」
女は画面を見た。
「つまり。」
「うん。」
「個人を識別するためには使わない。」
「そう。」
「業務名称としては残す。」
「うん。」
女はゆっくり息を吐いた。
「これで、今の形になった。」
透は頷いた。
「そう見える。」
「昔の個人照会履歴を見た。」
「うん。」
「そこから名称の使われ方を整理した。」
「そう。」
「個人識別用途を制限した。」
「うん。」
「業務照会用途だけ残した。」
「そう。」
女は画面を見たまま言った。
「つまり、今の『業務名称』は、昔の個人関連記録を完全に捨てた結果ではない。」
透は答えた。
「古い記録を使い続けるために、個人との直接の線だけを切った。」
女は頷いた。
「線を切った。」
「そう。」
「でも、記録そのものは残った。」
「うん。」
「だから、後から見ると。」
女は言葉を選んだ。
「切れた線と、残った線が同じ画面に見える。」
透は何も言わなかった。
その瞬間、画面の下に新しい関連記録が表示された。
「名称使用区分変更――承認記録。」
女が言った。
「承認。」
透は開いた。
表示された承認日時は、
五年前のその日の、
二十三時四十一分だった。
そして、承認者区分には、
「自動条件確認」
とだけ記録されていた。




