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嘘の向こう側  作者: 亀


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第一百十九章 同じ日に作られたもの

「同じ日。」


女は、画面に表示された二つの日付を見比べた。


R―3―001。


第七管理系統――旧参照先対応履歴。


登録日は、どちらも同じだった。


「偶然?」


女が言った。


透はすぐには答えなかった。


「分からない。」


「また。」


「うん。」


透は二つの記録を並べた。


一つは、旧業務との互換性を維持するための根拠記録。


もう一つは、その旧記録を参照する先として登録された管理系統。


どちらも五年前。


同じ日。


「順番は?」


女が尋ねた。


透は時刻を確認した。


R―3―001の登録。


その二十三分後。


第七管理系統の旧参照先対応履歴が登録されていた。


女が言った。


「先にR―3。」


「うん。」


「その後、第七管理系統。」


「そう。」


「じゃあ、R―3を作ってから、参照先を登録した?」


「記録上は、その順番。」


女は少し考えた。


「でも、それが作成順なのか、登録順なのかは?」


「別問題。」


「そうだった。」


透は詳細を開いた。


「登録起点――業務再編準備。」


女が読む。


「再編準備。」


「うん。」


「つまり、実際の業務再編より前に準備されていた。」


「そう。」


「五年前に準備されたものが、一年前の再編でも使われた。」


「その可能性がある。」


「じゃあ、今の仕組みの一部は、かなり長く残っている。」


「うん。」


女は画面を見た。


「でも、同じままではない。」


「そう。」


「名前も変わった。」


「うん。」


「業務も変わった。」


「そう。」


「担当者も変わった。」


「うん。」


「権限を持つ人も変わった。」


「そう。」


「それでも、参照先の構造だけは残っている。」


透は頷いた。


「そこが重要かもしれない。」


女はノートに書いた。


「人が変わっても、構造が残る。」


少し考えてから、その下に、


「構造が残っても、意味が同じとは限らない。」


と付け加えた。


透は画面を見た。


「第七管理系統の現在の説明は?」


女が尋ねた。


透は現在の定義を開いた。


「外部照会、旧記録参照、業務名称対応。」


女が言った。


「全部、今まで出てきたもの。」


「うん。」


「でも、五年前は?」


透は古い定義を開いた。


「旧照会関連業務の管理系統。」


「少し違う。」


「うん。」


「昔は照会そのものを管理していた。」


「今は、照会に関係する複数の処理を管理している。」


「そう。」


女は考えた。


「名前は同じでも、範囲が変わっている。」


「うん。」


「だから、第七管理系統という名前だけを追っても、五年前と今が同じとは言えない。」


「そう。」


「でも、完全に別とも言えない。」


「うん。」


透は頷いた。


「だから、名称だけでは判断できない。」


女は再び画面を見た。


「旧参照先対応履歴。」


その詳細には、


「旧参照先――R―3」


「現行参照先――第七管理系統」


「対応理由――旧記録継続利用」


とあった。


女が言った。


「これで少し分かった。」


「何が?」


「R―3が第七管理系統に残った理由。」


「旧記録を使い続けるため。」


「そう。」


「だから、R―3自体が消えなかった。」


「うん。」


「第七管理系統も、旧記録への入口を残した。」


「そう。」


女は静かに言った。


「だから、五年前の記録が、今でも検索できる。」


透は頷いた。


「その可能性が高い。」


「そして、その五年前の記録の中に、旧名称がある。」


「うん。」


「その旧名称が、四年前に業務名称として整理された。」


「そう。」


「一年前の再編で、さらに現行処理に組み込まれた。」


「うん。」


「二週間前に検索索引が更新された。」


「そう。」


「兄の日に初めて使われた。」


「うん。」


女はそこまで言って、黙った。


「長い。」


「そう。」


「でも、全部が兄につながるわけじゃない。」


「うん。」


「兄の日の出来事は、その長い流れの中の一つ。」


「そう。」


女は画面を見た。


「なら、兄の日だけを見ていたら、普通の仕組みまで特別なものに見えてしまう。」


透は答えた。


「そういうこともある。」


女は頷いた。


「逆もある。」


「何が?」


「本当に特別な処理があったとしても、普通の仕組みの中で処理されれば、記録上は普通に見える。」


透は少し黙った。


「それもある。」


「だから、どちらとも決めない。」


「うん。」


二人は再び第七管理系統の履歴を開いた。


そこには、五年前から現在までの変更履歴が並んでいた。


五年前。


「旧記録参照対応開始。」


四年前。


「名称使用区分変更。」


三年前。


「担当業務統合。」


一年前。


「業務再編。」


二週間前。


「検索索引更新。」


そして、兄の日。


「初回使用。」


女は最後の行を見た。


「ここ。」


「うん。」


「この『初回使用』は、何の初回?」


透は詳細を開いた。


「現行業務名称としての初回使用。」


女は眉を寄せた。


「旧名称としては?」


「それ以前にも使用履歴がある。」


「つまり。」


「名前自体は初めて使われたわけではない。」


「現行の意味で初めて使われた。」


「そう。」


女はしばらく考えた。


「これも、言葉だけ見ると誤解する。」


「うん。」


「『初回使用』と書いてあるから、誰かが初めてその名前を使ったように見える。」


「実際には、用途が変わった後の初回使用。」


「そう。」


女はノートに書いた。


「初回使用≠初めて存在した。」


その下に、


「現行初回≠全履歴初回。」


と書いた。


透はその言葉を見ていた。


記録の一つ一つは嘘をついているわけではない。


ただ、項目だけを切り取ると、別の意味に見える。


女が言った。


「これまでの記録も、そうなのかもしれない。」


「うん。」


「『本人申告』。」


「処理開始時に受領された情報。」


「『参照済み』。」


「参照結果が取得済み。」


「『関連情報あり』。」


「本人一致ではない。」


「『旧名称』。」


「人の名前とは限らない。」


「『初回使用』。」


「現在の用途で初めて。」


透は頷いた。


「一つずつは、全部別の意味。」


「でも、まとめて読むと、一つの人物の行動に見えてしまう。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「兄も、そう見えていたのかもしれない。」


透は顔を上げた。


「どういう意味?」


「兄が何を見ていたのかは分からない。」


「うん。」


「でも、もしこの記録を自分で追っていたなら。」


「うん。」


「兄にも、同じように見えていた可能性がある。」


透は何も言わなかった。


「名前。」


「うん。」


「番号。」


「うん。」


「日付。」


「うん。」


「担当。」


「うん。」


「それぞれをつなげれば、誰かの行動に見える。」


「でも、実際には別々の管理情報かもしれない。」


「そう。」


女は少し黙ってから言った。


「だから兄は、『名前を追うな』と言ったのかもしれない。」


透は画面を見た。


その言葉が、本当に兄のものなのかは分からない。


けれど、今まで見てきた記録とは、奇妙なほど重なっていた。


名前を追えば、意味が変わる。


番号を追えば、管理区分が変わる。


担当者を追えば、別の人間へ移る。


日付を追えば、別の処理が重なる。


透は言った。


「それでも、兄の言葉だと決めることはできない。」


女は頷いた。


「うん。」


「誰が残したか分からない。」


「うん。」


「だから、言葉の意味だけ使う。」


「それでいい。」


女は画面を閉じた。


その直後、別の通知が表示された。


「第七管理系統――旧参照先対応履歴」


「追加関連記録――一件」


女が言った。


「まだある。」


透は開いた。


そこには、


「参照元――R―3」


「参照先――P―4」


と表示されていた。


二人は同時に黙った。


P―4。


個人別照会履歴。


R―3。


旧照会回答。


五年前。


その二つの管理区分が、直接つながっていた。


そして、その参照目的には、


「旧記録内容確認」


とだけ書かれていた。

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